道草少女

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目の前のメタングは通常のメタングよりかなり体が小さい。メタング自体シンオウには珍しいポケモンだから詳しくはないのだが、それでもダンバルの時からしてもそんなに育っていないんではないだろうか。
それよりもだ、目の前のこの子はなぜこんなに傷だらけで、こんなにも怯えているんだろう。

「君、」
[ひっ!]

メタングは更に体を縮こませひたすら土壁にのめり込もうとしている。
火六に目で合図して人型を解いてもらい、ギャロップとして代わりにメタングと話してもらうことにした。上手く話しているようでさっきよりは震えも自若になってきているのが分かる。
さて、こんな狭いところではいけないだろう。アンコはほかのポケモンたちも呼び出し、今後拠点になりそうなところを探してきてもらう。そんなに遠くへは行かないようにしているから問題はないと思うが。
このメタングのこの状態を考えると、仲間から迫害されたか、もしくはトレーナーに虐待されたかだ。そう考えるとこの周りにその可能性のモノたちがいることは明白だ。みんな賢いし、蓮華と流星も野生の勘は鈍っていない。

すると足元に何かが擦り寄ってきた。突然のことでかなり驚いたが見れば白夜だった。

[俺があいつと話す。火六をどけて]

白夜は群れからはぐれた子供だった時を拾った子だ。迫害されていたわけではないけれど、多少なりとも気持ちを分かってあげられるのではと自分で感じたのかもしれない。
首を縦に振り、火六にこちらを向いてもらう。上手く交代して火六から話していた事を聞く。

[どうやら、このあたりに何かがいるようです]
「そのなにかって」
[たぶん人です。それも団体みたいですね。ポケモンの呼び笛ありましたよね。それを使って皆を戻したほうがいいと思います。]
「わかった」

トバリデパートで買ったポケモンにしか聞こえないという呼び笛を吹きみんなを呼び戻す。一分もしないうちに皆戻り、この近くに洞穴があると聞く。
白夜にもそこに移動しようと声をかけるとメタングもだいぶ落ち着いたようで、一応話を聞き入れてくれたみたいだ。

・・・・・

一通りの救急道具を出し、メタングを治療していく。擦り傷、切り傷、打撲に、何かを刺したような後まであった。いったい誰がこんなことを。
時々痛みのためか何度も小さく声を上げた。その声に何度胸が締め付けられただろうか。最後の薬を塗り終え、ひと段落つく。

「とりあえずこれで応急処置はおわったから」
[あの・・・・あり、がと・・・]

この子の声をちゃんと聞いた。か細いけど鈴のなるような可愛い声だった。この子は女の子だというのはその時に初めてわかった。

「私はアンコっていうの。最近はここらへんにこもってみんなと特訓中なんだけど・・・君のこと聞いてもいい?」
[・・・]

また体が震え出したことが分かる。話したくもないくらい嫌なことなのだろう。
申し訳ないことをしたと思わず頭をガリガリとかいてしまう。

「ごめん、いきなりあったやつにそんなこと話せるわけないよね。えーと、あ、私の仲間を紹介するよ。はい、自己紹介」
[他人任せかよ。俺は霙]
[あたし蓮華!大丈夫、あたしがあなたのこと守ってあげるね!]
[私のことは知ってると思いますが火六と申します]
[白夜]
[俺流星!!君かわいーね、俺君みたいな可愛い子大好き!]
[早速口説き落とすな]

霙の氷の礫が流星の足元にめり込み、「ちょっと!!?洒落になんないんだけど霙さん!?」と顔を青くしていた。
まったく、どうしてこんなにも締まりがないのだろうか。我ながら恥ずかしい。

[・・・あ、あの]

メタングがこちらをチラチラと見ながら声をかける。すかさず蓮華と流星はメタングに近づき「なになに?」と催促する。こいつらホントにいい意味で壁がないな。ある意味そのフレンドリーさが羨ましいと思ってしまう時がある。別にコミュ障と言うわけではない。普通に喋ったりもできるし、比較的すぐに友達になれる部類だと思っている。ただあの二人は挨拶した瞬間その人はもう友達という認識だから、ああいう風にすぐに行動できたり親身になって聞いてあげることができる。

[あ、ああなたは。なんで・・・私と、はな・・・せるの・・?]
「・・・。ああ!そうだよね。不思議だよね。はは、そうだね。うん。
私ね物心着いた時からポケモンの声が聞こえるの。だからそう、今では普通に喋っちゃうかな」

メタングは不思議そうな顔で私を見ていた。
その瞳は今まで暗く濁っていたのに、段々と光が差してきている。少しは私たちも役に立てたんだろうか。
さて、彼女がこんな状態でここにいる。更には複数人の誰かに追われているとしたらポケモンセンターに戻ったほうがいいだろう。
きちんとした処置をそこで受けて、それからジュンサーさんたちに相談をして。
しかしなぜこの子は追われているのだろう。見たところ体が小さい以外は普通のメタングなのに。

[わたし・・あの、・!!?]

彼女は何かを言いかけてまたブルブルと震え始めた。またさっきのように壁にめり込むように隅に縮まってしまった。どうしたのだ。まさか近くに誰か。
その瞬間、誰かに後ろから抱え込まれ、口元を塞がれた。
慌てて顔を確認すると、それは白夜で、真剣な目をしてどこかを見ている。
ほかの皆も警戒心を強めてあたりを警戒していた。
暫くしてからか、どこかからか声が聞こえてきた。少し離れた場所にいるのか、かなり耳をすまさないと聞き取れない。

「おい、見つかんねぇぞ」
「くそー!!このままじゃ俺たちあのキチガイになにされるかわかったもんじゃねぇぞ!?」
「っし!誰かにキチガイとか聞かれてたらどうすんだよ」
「わ、わりぃ。けどここまで探していねぇんじゃ、もっと先か、もう外に出てる可能性だって・・」
「くそ、とりあえず来た道戻って報告しに行くぞ」
「ああ。」


話が終わり遠ざかってからどれくらい時間が経っただろうか。しばらくしてから口元から白夜の手は外されたが、喋るなと目で言われて結構たつ。
誰も喋らないから、まだダメなのだろうか。人の気配が読めるわけではないから、こういうことはすべてみんなに任せてしまうのだがどうなのだろう。

[ねぇ、白やんさ、いつまでアンコちゃん抱きしめてんの?]
「え」
『・・・・』
[ねぇ、知らん顔したって俺わかってんだからね!?もう人の気配全然しないのにそれ黙っててずっとそのままでいる気でしょ!ずーるーいー!!]
『五月蝿い』


なんでこうもうちの連中は締まりがないんだ。
隅で体を震わせているメタングはこちらを見ていて、何かを言いたそうにしていた。

[あの、・・・私を・・た、・・助けて・・!]

彼女の目から雫が落ちたような気がした。


20150411
勉強したくないマン
過去に何かあった系主人公ってあまり好きではないんですが、ストーリー的にしょうがないんや!!
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