道草少女

□23
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「あ、あなた!大丈夫!?」
『五月蝿い!!邪魔だ!』

もはや敬語もない火六は二人の影を抜けて一直線にこちらに走ってくる。私の名前を叫んで、顔が見えたと思えばすぐに拘束具を外される。そして抱きしめられる。ぎゅうっと痛いくらいに抱きしめて。

「火六、あの装置は」
『あんなもの、すぐに外しました!!それよりも無事で!本当に・・・良かったです・・・!』
「・・・大丈夫。むしろごめん・・・何にもできなくて。見てるだけしかできなくて、助けられなくて・・・ごめん・・・」

また溢れてくる涙は、今度は止まりそうにない。どうすればいいんだろう。安心した。不安だった。悔しかった。痛かった。いろんな気持ちが混ざり合ってすごくモヤモヤした状態だ。

「人ですね!お二人共、今全てのポケモンの拘束をときました。逃げましょう!走れますか!?」

先ほどの影の一人と思われる女の子がこちらに来て話しかけてきた。今すぐ逃げなきゃいけないのはわかる。でも、一目みんなを見たい。でないと、酷く不安で押しつぶされてしまいそうだった。それでも火六は一目散に私を抱き上げ。「行きましょう」とその子に伝へ走り始めた。あの男は一度も目にしなかった。



・・・・・


あの後はかなり忙しく時は進み、気づけば日にちも変わっているという状態だった。外に出た後きちんとみんながいることを確認できた。体調は悪そうだったが特に傷もなく、何もされてはいなかった。だがメタングは装置を未だに付けられており、再度火六に壊してもらった。彼女は目を覚まさず、すぐにポケモンセンターへ運び込まれた。その間に私たちは外にたくさんいたジュンサーさんたちに事情聴取されていた。彼女から聞いたこと、目の前で起こったこと。あの男が言っていた事全て話した。思い出しただけで吐き気もしたが、我慢してすべてを押し殺して淡々と伝えた。
シロナさんと友好関係を築くようになるのはその後からだった。助けてくれたふたりは、現シンオウチャンピオンのシロナさんと、私と同じく、旅をしているトレーナーのヒカリちゃん。二人共ギンガ団を追っていくうちにこの本拠地を見つけ乗り込んだという。
あの男は名を“ワイリー”といい指名手配中のマッドサイエンティストでポケモンによる虐殺的行為が問題視されている。その男もジュンサーさんたちに捕まり、刑務所行きだということ。その言葉を聞き安心したのは言うまでもなかった。もう会いたくない、もう二度と会うことはないのほうが正しいだろうか。でも何故かそのことはストンと私の中で落ちていかないのだ。どこかでまた会ってしまうかもしれないと予感していたのかもしれない。


メタングが起きたという情報を聞いてから、すぐさま彼女のもとへ向かった。傷跡はまだ残っているが、体力的にもきちんと回復はしており、自由に動けるようになっていた。
それでも彼女は元気がない。いや元気があったほうがおかしいだろう。トラウマであるあの男にまた捕まり、傷つけられ実験で戦闘させられそうになったのだから。

「ごめん。約束、叶えてあげるどころか、また怖い思いをさせちゃって」
[いえ、私の方こそ巻き込んでしまってごめんなさい]

お互いが沈黙する中、彼女は震える声で続けた。

[私、あの男の話聞いてしまったんです。私の友達はもうすでに・・・それにもう私の故郷の家族やほかの友達もいないかもしれない・・・。あなたたちにまで嫌な思いをさせてしまった。謝っても謝りきれないです。]
「・・・・」
[私、もう死んでしまいたい。助けたかった友達も私のせいで殺されて、他人のあなた達まで巻き込んで。もう嫌です・・・。体の傷が痛いんです。心もそれ以上に痛いんです。もう、消えたい・・・!]

メタングの中ではアンコ達の関係はすごく懐かしいものであり、羨ましいものでもあった。もう一度そういう関係を自分も持ちたかったのだ。けれどそれももうかなわない。もう何もかもがダメだと思えてきてしまう。楽しかったことや嬉しかったことすら何も出てこなくなってしまった。そんな自分が生きてても仕方ないと思えてしょうがないのだ。

「メタング、私たちと一緒に来ない」
[・・・え]
「そんな悲しいこと言わないで。君のせいじゃない。君は普通の暮らしをしていただけだ。友達だって決して見捨てようとしていなかった。なのにどうしてそこまで自分を責めるの?私だって同じなの。見てるだけであの男から守ることも、立つことさえできなくて。」

メタングはこちらをじっと見ている。

「悔しかったの何もできない自分が。すごく腹立たして。でも今の君みたいに落ち込んでばかりいては何も変わらないの。あの悔しい気持ちを無かったことにしてしまうし、また腹立たしい自分に会ってしまうことになる。
だから、一緒に強くなろう」
[・・・・本当にいいんですか?元凶なんですよ?私と関わらなければあなたたちは今頃こんな気持ちにもならなくて!]
「それが何?先に関わったのは私たち。それに、過去のことを考えたって結局何も変わらないの」

メタングは迷っていた。勿論一緒に行きたい。憧れで懐かしい彼女らに。彼女の言葉は前を向いていてとっても眩しい。私には眩しすぎるくらいなのだ。どうしてそんなに強くいられるの?どうしてこんなに優しくしてくれるの?どうしてが尽きない。
今死んでしまうのと、ついていって・・・ついて行ってどうするんだ?また昔のようにじゃれあいたい?家族が欲しい?強くなりたい?
いや、もっと単純なのだ。彼女たちが好きだから、一緒にいたい。いるだけでいい。

私は寂しかったんだ。それもあってあのあたたかい彼女たちが好きだから・・・

[いく、行きます。あなたたちと一緒にいたい。
あなたたちが・・・いいです]

その気持ちにもう迷いはなかった。罪悪感も忘れたわけじゃないでももうそれは大事なものではない。








・・・・・・・


そんな過去があり、そして今絶望的な再開がそこにはあった。


「ひさしぶりいいい!!あひゃひゃひゃひゃ!」
「・・・ワイリー!」



20150605
なんかセリフ多くなっちゃいましたね
ちょっとモ○○怪の座敷○子意識しちゃいました・・・
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