▽逃げられない 文

□お兄ちゃんがほしい弟:中三 夏
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「夏希大丈夫?傘だよ?」
「大丈夫」
「本当に大丈夫…?」
「もー、姉ちゃんうるさい」
「ごめん」
「ふふ」
「わ、ごめん柳くん!」
「いや、姉弟のやりとりは面白いと思って」

とても恥ずかしい。友達に姉弟間のやり取りを見られるってもの凄く恥ずかしい。普段みせないような部分を見せたり、言動を聞かれたりで。よその兄弟とかだったら凄く面白い。ただ、今は家の姉弟のやり取りを見られてるわけで、事情はやっぱり変わってくるよね。
しかし、いつもなら夏希は傘なんて難しいのではなくて、飛行機とか兎とかもう少し簡単なのをやるはずなのに。これは柳くんにいいとこを見せたいということなのだろうか。てゆうか、夏希はなんでいきなり柳くんを選んで一緒に回りたいだなんて言い出したのだろう。

「あ」
「あ、壊れちゃったね。ふふ、なんか柳くんて何でも出来るイメージだから、貴重だね」
「そうだろうか。でも、これは楽しいな。また挑戦したくなる。データも欲しいところだ」
「それ食べられるんだよ。あまり美味しいとは言えないけど、なんてゆうか、残念賞?みたいな」

彼は壊れた型抜きをじっくり見たあとに、ヒョイパクした。少し咀嚼したあと「確かにあまり美味しいとは言えないが、すべて楽しんだような、満ち足りた感じになるな」と私が言いたかったこと全てを代弁してくれた。

「あー、私も割れちゃった。今回はダメだったなぁ」
「あとは、夏希だけだな」
「……」

もくもくと作業を続ける夏希とてもかわいい。集中しすぎると、口がだんだん鳥のように尖ってくるのがまた可愛いところ。心のなかでひたすらエールをおくるのだった。

「あ!」
「あー、惜しかったねぇ」
「もう少しだったな」

傘の持ち手の所で、バキリと壊れてしまった。このひと夏の思い出が終わってしまった感じは、花火が終わってしまったあとの余韻に近いものを感じる。

「ほ、ほんとはちゃんと成功できるんだよ!」
「ああ」
「たまたま割れちゃっただけで、ほんとに!」
「じゃあ、また次の祭りで見せてはくれないか?疑ってるわけではないが、頑張ったところを見せてくれ」
「…うん!」

なんとなくだけど、夏希は柳くんに自分がすごいってところを見てほしかったのかなぁ。なんで柳くんかってのが未だによくわからないけど。

「そろそろ花火が始まる時間だが、苗字たちのこの後の予定は?」
「花火見て帰るだけだよー」
「そうか、なら、調度いいな」
「じゃあいこうか、夏希はぐれるといけないから手」
「ん」

少し汗ばんだ手をとり、よく見える場所まで移動しようとする。

「柳兄ちゃんも、手つなご」
「ああ、ありがとう」

私、夏希、柳くんの順に連なり人混みを掻き分けていく。やはり皆花火を見るために移動しているから、なかなかおもうように進めなかった。

「うー、やっぱり人がすごいなぁ」
「大丈夫か?」
「うん。二人とも離れてなーい?」
「うん、兄ちゃんもいる」

オープンワールドとかだったら人をなぎ倒していけるのに、現実は色々辛いもんだ。


…………


色とりどりに上がる花火は何度見ても感動的だ。
人混みがすごくて、ぎゅーぎゅーでむさ苦しくて、足が疲れて1番後ろの方で見てたとしても、込み上げてくるものがある。
私よりも身長の低い夏希は柳くんに肩車してもらってる。本当に申し訳ない気持ちで一杯だ。今度お礼に何か作って、持っていくことにしよう。

「苗字みえているか?」
「うん、平気。ちゃんと見えてるよ。柳くんは背が大きくて羨ましいな」
「苗字がこれくらいの身長だったら少し驚くな」

眉を少し下げ苦笑気味だ。私もそこまで身長は欲しくないです。

「あー、なんか後ろの方だと少し寒いね」

あれだけの人にかこまれていたらそりゃあ嫌でも暑くなるというもの。気合いをいれるために縛っていたゴムをほどき、手櫛で髪を整える。汗ばんでてちょっと気持ち悪い。

「もうおろしてしまうのか」
「うん、首もとちょっとひんやりしてきたから」
「髪をあげている姿、似合っていたぞ。少し残念だな」
「うん、そっか。……は?!」
「どうした?」
「いや、うん……うん?大丈夫、問題ない」

全然問題あり。今さらっとすごいこといってた気がする。え?花火の音で聞き間違えたかな?
まぁいいや、今は花火を見るのに集中しよう。そしたら、このぐるぐる回っている頭も少しは落ち着くに違いない。

20180708
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