道草少女
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目の前には仁王雅治がいる。
彼は困惑したような表情で私のことを聞いてくる。きっとこのことを聞いてくるということは、彼はさっきの話を聞いていたのかもしれない。
となると、今は非常にまずい状態だ。このことはまだ一番信頼しているであろう赤也にすら話していない。
それに彼は前にメタモンとして姿を見ている。目的はわかっていない。怪しいと思われるのに本当のことを話してもいいのだろうか。
いや、それはダメだ。なんとかして誤魔化さないと!
「こんにちは、仁王くんだったよね・・・?」
「誤魔化しとるつもりか?変な演技はやめて、とっとと本性見せんしゃい」
どうやら話をほとんど聞かれていそうな状態みたいだ。
さてどうしたものか。
仁王との見つめ合いが続く。彼の内心を探ろうとしているが、彼もまた私の内心を探っている。
すると意外にも仁王雅治が先に口を開いた。
「阿部誉」
「え・・・」
「奴のこと好きなんか?」
阿部誉。その名前どこかで聞いたことがある。
たしか・・・
「人気の保健の先生?」
「そう、人気者の阿部誉じゃ
で?」
「で、といわれても・・・。あったことありませ・・いや、話したこともないしまず見たことない」
「本当か?」
「本当」
しかし、何故阿部誉が出てくる?彼はなに惚れているとなにかまずいのだろうか。
よくわからない
「それじゃあ、私からも質問していい?」
「ああ、かまわんぜよ」
仁王は堂々としている。嘘なんか付いていないというふうに。
「私は結構前に仁王を見たことがあるの。その時、メタモンが君になってた。
そのメタモンはきっと君のメタモンだと思うけど、なんでそんなことをしたの?」
仁王はにやりと笑って「やっぱりか」と呟いた。何がやっぱりなんだろうか。
まるで私の言うことを分かっていたような、そんな雰囲気だった。
顎元に手を持って行きゆっくりと話し始めた。
「そうじゃのう、俺がテニス部なんは知っとるか?」
「まぁ、一応は・・・」
「俺たちテニス部はのぉ、見た目がいいんじゃ」
そんなに堂々と言われてもなんと答えればいいのかわからない。とりあえずぎこちなくも首を縦に振っといた。
そして仁王は続ける。
「そのせいで女子が毎日のようにたかってくるんじゃ。
特に部活の時なんかわの。
それで集中ができなくてメタモンに成り代わってもらって違う場所で練習してるんぜよ」
「それが理由・・・?」
「プリ」
なんだか拍子抜けだ。入れ替わっている間になにか練習以外のことをしているんだと思っていた私が馬鹿みたいじゃないか。
それはなんだかメタモンもかわいそうな気もするが、あの時見たメタモンからは不満の声などは聞こえてこなかった。
私が感じる限りでは彼は白な気がするが目で見たわけではないからよくわからない。
赤也に聞いて本当かどうか確かめてもらいたいところだが・・・
「私はまだ君を信じることができない。だから、まだ全ては話す事はできない」
仁王は一瞬顔をしかめるもすぐに元の飄々とした。
納得はしていないんだろう。
出来ることなら話してしまってこちらに取り込みたいところだが、彼の内心が読めない。
赤也やブン太ジャッカルは純粋さがあって、短時間でもこの人は大丈夫なんだろうなという気持ちになった。
だが彼にはそれがない。自分の本心を隠すのが上手いんだろう。
「全てってことは、何か話してくれるんか?」
こいつ・・・
抜け目ない。
「・・・・まぁ、いいよ。
そうだな・・・私、カントーの人間じゃないの。
本当はシンオウの人間ってことでは、君の欲しいような情報じゃない?」
「・・・・シンオウにはここのような学校はあるんか!」
「ない、とだけいっておく」
「プピーナ」
私は「じゃあ」と手短に挨拶しその場を後にした。
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