▽逃げられない 文

□計画通りで鼻唄柳:高三 夏
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夏というものは最悪だ。暑い。まるで鉄板の上にコテで押さえつけられるような。まるで炎の渦の中に閉じ込められて毎ターンダメージを与えられるような。それに冬と違って嫌なところは脱いでも脱いでも暑いということ。クーラーとか扇風機とか永遠につけててもじわじわ暑いのだから、もうロシア方面に移住するしかねぇ!って毎年思っている。永久凍土。何ていい響きだろうか。さてさて、こんな暑さのなかの古典という授業は誠に最悪だ。下敷きで扇ぎたいけれど、扇げば注意されるから黙って授業を受けなきゃいけない。この世はまさに地獄である。
隣の席の蓮二をみると何時ものように涼しそうな顔で黒板を見つめている。暑い日には毎日思うのだが、蓮二の周りだけ明らかに空気が違う。私の周りが亜熱帯でも、彼の周りは何時だって亜寒帯だ。


…………

「先程の授業、こちらを見ていたがどうかしたのか?」
「んー?いやーさ、毎年夏になると思うんだけどさ、蓮二ってこんなに暑くても涼しそうだよね」
「暑いぞ?」
「だって暑苦しそうじゃないし、いつも通りだし、纏ってる雰囲気も涼しいし」

「汗はかいているんだがな」と苦笑いで首筋をかく。その動作もまた涼しげだ。大変に羨ましいものだ。

「それに平熱は俺の方が高いぞ」
「えー、嘘!絶対平熱35度代だよね?」
「それはスポーツをする人間としては心配にならないか?俺は36度4分。名前が36度1分。データが変わっていなければこれであっているはずだが」
「えー、そんなデータどこでとったの凄すぎ。待って、それでも信じらんない。ちょっと、腕かして!

「?」

差し出された腕をぎゅっと握り、その体温を確かめる。うわ熱い。これは平熱なのかそれとも、猛暑によって温められてしまった腕の末路なのかは分からないが、でも熱い。 比べてみようと自分の首もとを触る。うん、かわりないくらい熱い。どちらも同じくらいの体温だとわかると、すとんと自分の中の何かがはまった気がした。

「同じくらい熱かった」
「そうだろう?」
「ちぇー、これで涼しかったら保冷剤になってほしかった」
「ほう」

手が冷たい人は首筋とか、おでことかに手を当ててくれるだけカーストトップの人間になれると思う。

「次の世界史、視聴覚室に移動だって〜」

その言葉と共に座ってそれぞれに休んでいた生徒達が重い腰を上げだした。その中の一人も私なのだが。

「はー、視聴覚室絶対DVD見るやつだよね?あそこ蒸し暑くて嫌い……」
「あそこは冷房があるから幾分かマシになってるはずだ、大丈夫」
「はーい」
「先に行っててくれ、準備してからいく」
「はいよー」


何人か残った教室には鼻唄を歌いながら、次の授業の準備をする柳がいて、その普段見られない光景に、ぎょっとする者が多数いたとか。


20180317

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