▽逃げられない 文

□お兄ちゃんがほしい弟:中三 夏
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今日は夏の一大イベントお祭り!!!屋台が沢山ならんで、人も沢山来て、踊って、ビンゴ大会とかもやって、最後の締めは花火。あまり人混みにもみくちゃにされるのは好きではないが、それでも私は毎年お祭りが楽しみで楽しみで仕方ないのだ。それは勿論、屋台!食べ物に関してはそんなに興味ないけれど、金魚すくいや射的、くじ引き型ぬき、シャーク釣りなどなど、屋台でしか出来ないゲームが沢山あるんだ、楽しみじゃないわけがないじゃないか!
どのゲームも勿論一通りやっていくのだが、金魚すくいについては今回やるかやらないか迷っているところだ。何しろ金魚を商品としてもらうわけだから、家で飼うことになる。しかし、もう家にある中くらいの水槽では新たに金魚をいれるスペースがないのだ。捕りすぎれば何匹かリリースできるのだが、すべて要りませんなんてのはその屋台の人にもよる。もし、今年の金魚すくいの人がそういうのを許してくれない人であれば、少し残念ではあるが金魚すくいは諦めなければいけない。

まぁ、そんな盛り下がる話はさておき目の前に陳列するのは色んな屋台達。

「ねーちゃんおなかすいた」
「よし夏希、まずは腹ごしらえだ。腹が減ってはなんとやら、何が食べたい?」
「焼きそばとチョコバナナとかき氷」
「そんなに食べれないだろうから、焼きそばはお姉ちゃんと半分こね」
「うん」

素直でいい子だ。我ながら大変にかわいい弟である。はぐれたら困るから手を繋いで回りたいのだけれど、目を爛々とさせチョコバナナの屋台に直行する夏希。お母さんだったら怒ってるけど、微笑ましい気持ちになってる私はいつも全く怒れない。



…………


「はーい、四等ね。そこの枠のところが四等の景品のとこだから好きに選んでね」
「はーい」
「姉ちゃんビームサーベルがいい」
「家にもビームサーベル五本あるから他のにして」
「えー、うん、わかった」

ビームサーベルはもういらない。私と夏希で使っても三本余るし、二刀流にしたって一本余ってしまう。残りの一本は絶賛物置の懐中電灯として使っている。(あまり役に立ってない)

「よし、じゃー射的いこ!」
「うん」

射的はあまり人がいない。いてもカップルが一組二組くらい。きっと一般世間での射的はあまり倒れないイメージがあるのだろう。ふふ、コツがあるのだよコツが!
まずは、コルクをぎゅーぎゅーにつめて

「ココアシガレットがほしい」
「りょーかい」

銃がぶれないように、体と腕と肘とで固定して、狙いを合わせて、景品の肩の部分になるところを狙う!肩のとこはあれだよ、肩のとこ。イメージするんだ。よーくねらって、バン!陸奥守もビックリの射的技術である。「ほいよ」と若干強面のおじさんから、落としたココアシガレットをもらう。夏希にあげると一本直接口に運んでくれる。所謂あーんってやつだ。タバコのようにココアシガレットを口に含み、次なる景品、ゆるキャラの貯金箱を狙う。
気分はゴルゴ13!打てない獲物などないって感じ。こうなっては最後、私は無双モードにはいる。

「嬢ちゃん上手いね、久々にこんなに上手い子見たぜ」

ほらよと、本日四個目の景品をもらう。さーて二回分買ったから、残りは二発。何を狙おうか。

「苗字か?」
「んー?」

口の中で溶けて細くなったココアシガレットがパキリと折れた。
隣を見ると柳くんがそこにいた。同じクラスになって、比較的仲良くさせてもらってる彼だが、射的をやるような人だったのかと、ちょっとイメージと違ってビックリしている。

「こんなところで会うとはな」
「ねー。もしかして、部活終わり?」

彼の姿は夏服使用の立海の制服に、テニスバッグという、完全に学校帰りですという格好。
予想通りというべきか、首をたてにふる。

「見たところ射的が得意なようだが、よくやるのか?」
「うん!祭りのときは絶対やるよ。だって年に数えるくらいしか出来ないんだもん」
「ねーちゃん…」
「あ、そうそう。私の弟の夏希。かわいいでしよ?」
「…こんばんは」
「こんばんは。弟との時間を邪魔してしまったな、すまない」
「気にしないで」
「あれ、柳、の……友達さんかな?」

なんかうじゃうじゃ人がきた。



…………

どうやらテニス部の面子で来たらしい。といっても柳くん含め三人だが。部長の幸村くんに、副部長もとい、私の天敵風紀委員の委員長真田くん。今はなにも悪いことしてないのに、目の前に彼がいると凄く緊張する。THE金縛り。

「君が柳のいっていた苗字さんか、初めまして」
「は、初めまして」
「よろしく頼む」
「よろしくお願い致します」
「うむ」

普段でないような敬語が思わず出てしまう。恐るべし、真田くん。
適当に世間話をしてお互い別れようとしたときだ。

「ん?」
「ん?」
「む?」
「わぁ」

なんと夏希が、柳くんの袖をつかんではなさないのだ。え、夏希どうしたの?少し人見知りぎみで、私の友達にあったら確実に奥に引っ込んでるタイプなのに。どどどどどうした!?!!

「な、なつき?」
「あー、どうした?」
「…………」
「や、柳くんに何か…言いたいことでもあるの?」
「兄ちゃんと一緒に、お祭り回りたい」
「ふぁ???!!」

あの夏希が出会ったばかりの私の友達と祭りを回りたい?!?!天変地異すぎないか?!え、本当にどうしたの?!?その場にいる皆も私と同じような顔してる。そりゃあ驚くよね!初めてあった子の弟に
お祭り一緒に回りたいなんて言われたら、驚かないわけないよね!!!そして地味にショック。私と回るのはつまらないということなのだろうか。どうしよう。秋祭りから一緒に回ってくれなくなったら。いや、なつきにも友達がいるし、大きくなったらそれはそれで離れていくのは当たり前だし、でもなんか、ショック…。

「はは、なつかれちゃったんだね。俺達は先に帰ってるよ」
「え!」
「ああ」
「え?!」
「ゆっくり楽しんでくれ」
「えぇ!!?」

見ただろうか。今の三人の完璧なコンビネーション。しかも柳くんが一緒に回ってくれる気になっている。幸村くんと真田くんは帰るっていってるし、あー!!!!

「え、あの、本当にいいの?!」
「ああ、問題ない。それとも、俺がいてはやはり迷惑だろうか?」
「いや寧ろ三人で楽しく回っていたのにごめん!!」
「気にしないで。元々ちょっとよってみようかくらいの気分で来てたし。ねぇ、真田」
「あぁ。ただ、あまり遅くならないように気を付けるんだぞ」

うせやん。三人とも心が広すぎる。なにこれ。
じゃあまたね。とお互いに別れ、おかしな三人組で行動することになった。

「ありがとう柳兄ちゃん」
「いや、気にするな。苗字も、あまり気にしないでくれ」
「わ、わかった。努力する」
「あのね!僕型抜き得意なんだ、一緒にやろ」
「ほう、それは凄いな。案内してくれ」
「うん、こっち!」

あの夏希が凄くウキウキして、楽しそうにはしゃいでいる。悲しい。夏希はお兄ちゃんがほしかったのかな……。性転換を一瞬考えけど「姉ちゃんも早く!」と言われて、アホみたいな考えをやめた。
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