少女禁区ぱろ
□ぐいぐい来る幸村
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梅雨が明けじめじめと暑い時期に差し掛かる頃、期末テストという名の合戦が始まろうとしていた。
立海大附属中学校に無理を言って、受験も頑張って入学させてもらい、勉強についていくのがやっとの私。
学内のテストはまさに戦。
私だけではない。皆が皆、それぞれいろんな思いをしながら、この戦に望むのだ。
なのに前回のテスト時期から、それを邪魔する者がいた。
「勉強ばっかで疲れない?
休憩がてら俺とデートでもしない?」
「一人でいって下さい」
人が机に向かってガリガリと勉強している最中、このように意味のわからないことを連発してくる。
常にニコニコと笑顔でなにを考えているかさっぱりだ。
色恋沙汰に現をかましている暇などない。一番わからないのは、あの、全国二連覇をはたしたテニス部部長の幸村精市がだ、仕掛けてくるということ。
もし、万が一にも私に本当にそういう気持ちがあったとしてだ、こんなに軽い男なのだろうか。イメージと本当の幸村精市というのが一致しない。
だからこそ、余計にだろう。よくわからない彼に警戒心を解くことは、出来ないのだ。
てゆうか、やっぱり勉強が大事。
成績落ちて、怒られたりお小遣い減らされるのは、中学生にとっては死活問題。
「じゃあ、お昼一緒にどう?」
「友達と食べるので結構で」「あ、そこ間違えてるよ。」……」
地味に私より頭がいいということがまたムカつく。
素直にそれを聞き入れるのもしゃくで、問題の途中であるが回答を確認した。
ちらりと表情を伺うと案の定ニコニコ笑っている。
また回答に目を戻す。
間違っていた。
また目線を上げる。
ーーね?
色気たっぷりの口パク。その場面を切り取れば絵画のような美しさなんだろうと思うほど綺麗。
だがそれももう慣れたこと。
ムカつく。
それでも、何だか今日は口が滑った。
「指摘、どうも」
心にもないことだが、いつも反射的に出てくる感謝の言葉が、ポロッと出てしまった。
この状態の迷惑極まりない幸村精市には、反射的だろうが全て自分の中で飲み込んできたのに。
このままでは付け上がるのではないかと、心配しつつもちらりと様子をうかがう。
「あ、うん」
予想していなかった。
なんでキョトンとした顔で、顔を真っ赤にしているんだ。
知らない。私はそんな分かりやすくて、余裕のない幸村精市なんか見たことがない。
そんな反応をされてしまっては、なんだかこっちまで恥ずかしくなるじゃないか!!
段々と熱が集中してくる顔を見られないよう、すぐに問題に目を向ける。
こんな表情、絶対にばれないで……!
20160731