少女禁区ぱろ

□自分の能力を忘れてる越知
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すこしというか、がっつり相談にのってほしい。
同じクラスに越知月光くんというそれはそれは背の高い男の子がいる。髪の色も派手だし、声もいいし、運動も勉強も出来るし、声もいいしとにかく目立つ。クールで寡黙だから完全に見た目的な目立つということになるが…。
その彼がどうしたかというと、クラスが一緒になってからというもの、めちゃめちゃこっちを見てくるのだ。
自意識過剰とか、気のせいだと思うじゃん?というか、最初はそうだと思っていた。大体は友達といるし、一人でいることなんかほとんどないからだ。
そんな時、掃除でたまたまゴミ捨てを一人でいくときがあった。焼却炉はテニスコートに近いのだが、その時も見られていた。完全に私しかいない状況で、こちらを見ていた。気づいてしまったのだ。今までの視線は全部私に向けられていたということに。

でも、そんな人に見てもらえる(興味をもってもらえる)ということはいい事じゃないか!と思う人もいるだろう。越知くんじゃなければ私もいいと思う。そう、越知くんじゃなければ。
何故嫌かといったら、彼に見られると極度の緊張状態になる。ただ見られるだけならまだいいが、目が合うときがある。あっちが私を見ているのだ、目が合う頻度もかなり高い。その目が合う時に緊張状態になってしまう。何故だかはわからないけど、蛇に睨まれた蛙というのか、金縛りにあったというか、今にも殺されるんじゃないだろうか、とか、とにかくプレッシャーが半端ないのだ。
こんなんで授業もままならないし、昼御飯を食べるときだってなかなか箸が進まない。部活でも支障をきたすほどだ(部活は合唱部)

どうしたらこの緊張状態を回避できるのか。それは勿論彼が私を見なければいいのだが、如何せん彼とは挨拶や事務的会話を数えるほどしかしたことがない。それに「私をもう見ないでください」なんてサイコパスで自意識過剰なこと絶対に言えない。
じゃあ逆に私が彼の目の入らない場所へ逃げる?同じクラスだからそんなのほとんど意味がない。
意識しなければいいと思っても、これだけ長い期間見られると、その視線というかプレッシャーというか、目に見えないものも分かってきてしまう。

駄目だ。自分で考えてみているがかなりの重症ではないか?これはもう潔く精神科にかかった方がいいかもしれない。
手元の印や書き込みが入ったボロボロの楽譜を、ファイルにつめ、鞄へとしまう。部活もそれなりの成果で終わり、やっと天国(家)へ帰れると思った矢先、教室の机に鼻炎の薬を置いてきてしまったことに気づく。
面倒くさいがあれがないと、より面倒くさくなるため重たい足を引きずりながら階段を上っていく。


部活が終わる時間なだけあって、教室というか、学校の中はシーンと静まり返っていた。
教室につき、真ん中の列にある後ろから二番目の机の中を漁る。指に固いものがあたり鼻炎の薬だということを確認する。よし、これでやっと帰れる。とはならなかった。

「桜田」

誰もいないと思っていたから、いきなり声をかけられるのはかなり驚く。それにこのいい声は確実にあの男。

「お、おつかれ……越知くん」
「ああ」

何故彼はこんなところにいるのだろう。テニス部ももう練習が終わったのだろうか。
仕方がない、ここは早急に帰ろう。ただ一言「またね」をいって帰ればそれで問題ない!全然不自然じゃない!寧ろ、殆ど会話をしない私達のコミュニケーションはこれくらいでいいではないか!!!(必死)

鞄をつかみ、颯爽と扉を潜ろうとするとまさかの腕を捕まれてしまった。
え?え、あの、ええ、本当になんで?!

問いただすために顔を見たいが、顔を見ると絶対殺られる(精神的に)こちとら何っっっっっっっっっっっっっっっ回プレッシャーにやられて、失敗を繰り返してきただろう。もうその手にはのらないようにと、顔じゃなく、目の前に見える胸をひたすらガン見する。てゆうかええ…身長でかい……。

「どうかした?」
「…………」

無視かい!!!
どうすればいいの?どうすればいいの!?!!返事も返ってこないし、拘束された左腕もとかれない。何気なく握っている越知くんの手を見てみる。案の定今まで見たこともないような巨大な手が私の腕を包んでいる。大きすぎて普通に指が一周回っている状態だ。これはもう、囚われの地球人って感じだろう。

「その猫のキーホルダー」
「ん?」
「その猫のキーホルダーは何処で手にいれた?」

え?意外な質問に度肝を抜かれたし、ギャップ萌えというのだろうか、少しキュンとしてしまった。そうか、成る程。越知くんは私を見ていたけれど、私ではなくて私の鞄の猫のキーホルダーを見ていたというわけだ。それを聞こうとずーっと長い間見ていたというわけか、成る程成る程……馬鹿か!!!そんなんだったら焼却炉の時とか、移動教室の時の言い訳がたたないでしょーが!!!
でもまぁ、質問にはちゃんと答えないといけない。

「これは、えーと、○○町にあるピアノ教室分かるかな?看板がオレンジのとこの。そこの近くに雑貨屋があって、そこで買ったよ」
「そうか……」
「…………」
「…………」
「(コミュ症か?)お、越知くんは猫好きなの?」
「ああ」
「へーそっか、飼ってたりするの?」
「!ああ」

といって、空いている手でスマホをいじり始める。なんだなんだ!!
そして間もなく見せられたのは、一匹のかわいい猫ちゃんの写真。流石の私も、越知くんの奇妙な行動の全てを忘れてしまった。何を隠そう猫好きだから。(但し、家ではお父さんが猫アレルギーなので飼っていない)

「わああああ、かわいっ!目は緑なんだね〜、はー、美人さんだねーこの子」
「名前はルナだ」
「ルナくん?ちゃん?」
「雌だな」
「そっかー、はー、かわいいいい。いいなぁ猫飼えて。私も猫好きだけどお父さんがアレルギーだから駄目なんだよね」
「そうか…。ルナの写真を定期的に送ろうか…?」
「ほんと!?」
「嫌ならいいが」
「ううん!ルナちゃんの写真送って!LINEのIDでいい?」
「あ、ああ」

勢いで連絡先を交換し、既に腕が解かれていた事に気づいた私はそそくさと帰った。
それから毎日ルナちゃんの写真が送られてくる。たまらなくかわいい、本当にかわいい。
あれから越知くんの視線は変わりないけれど、前よりも緊張しなくなったのは事実だ。

けど、なんで越知くんが私を見ているのかは未だにわからない。

20180510

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