少女禁区ぱろ

□秋田とケーキを食べる
1ページ/1ページ



「主君、あの…お願いがあるんです」
「はい、なんでしょうか?」

寒さで指がまだかじかむ頃の朝。洗濯物や部屋の掃除を終え一段落し執務室で一息ついていると、今日が休日の秋田藤四郎がいそいそとやってきた。
目の前にちょこんと正座する小さな神様は、真剣な顔つきをして口許をぎゅっと結びこちらを見ている

「その、僕、昨日誉をとったんです」
「はい、素晴らしかったですね」
「あの…」
「はい」

正座させた膝に手をおき、その手を開いたり閉じたり、足も左右に揺らしてモジモジ。
なにか言いにくいことなんだろうか。

「ご褒美に、ケーキを食べたいです!」

ばんっ!!と大きな効果音がなりそうな声でずいっと体を寄せてくる。そのまま抱き締めてしまいたいくらいふわふわとかわいらしいが、本人はいたって真剣でそんなことを言ってしまっては気分を損ねてしまうだろう。
かわいいという言葉を飲み込み、首をかしげて聞き返す。

「ケーキですか」
「はい!だめ、ですか?」
「いえ、ですがお店や雑誌で見るようなキラキラした感じのものはすぐに出せないので、簡単なものになってしまうんですが…いいですか?」
「勿論です!」
「では今日のお昼にケーキを一緒に作りましょうか」

大きくてキラキラしている宝石のような瞳が更にキラキラと輝き、小さな口もこれでもかと言うほど大きくあく。しまいには両手を天井に向かって大きく伸ばし、その場で大きく跳び跳ねた。

「やったー!!」

かわいらしい。にやける口許を隠しながら様子をうかがうと、我に返ったのか恥ずかしそうにまたその場に座り直した。

「以前にクリスマスで食べたケーキがまた食べたくて!ただああいったものはいつも食べるようなものではないって言われて…」

きっと本丸のお母さんと呼ばれる者達からだろう。歌仙や光忠、あとは蜂須賀あたりもだろうか?彼らの腰に手を当て、もう片方の手で人差し指をたて短刀達を教育する光景が目にうかぶ。

「でも!今回は僕、誉をとりました!初期刀の山姥切さんや、大太刀の次郎太刀さんをぬいての誉なんです!」
「はい、よく理解していますよ。出陣の資料も読ませてもらいましたが、秋田の働きがたいへん素晴らしかったと書いてありました
ですからケーキ、食べましょう!」
「はい!」

元気一杯な声はすぐそばの中庭まで響き、小鳥たちはその声に反応して飛び立っていく。その反動で木の枝に乗っかっていた雪は下へおち、モッっという鈍いおとをたてた。


…………


「では私はケーキにつかうミカンを切ったり材料を用意したりするので秋田には一番大事な作業を任せます」
「はい!なんでもいってください!!」

短刀用の小さなエプロンをつけて燃えている。そんなやる気を利用するようで心苦しいが、彼の目の前にボールと泡立て器をおいた。
そう、生クリームを泡立ててもらう。

「これはケーキで一番大事な生クリームです」
「くりーむって甘くてフワフワして幸せになるやつですよね?これは…くりーむなのですか?」
「はい。これをひたすらこれを使って、こんな感じで混ぜてください」
「これでくりーむができるんですか?」
「はい。疲れたら言ってください、交代して混ぜますから!」

不思議そうにボールの中の生クリームを見つめている彼はまだその液体の凶悪さを知らない。下に氷水をおいているとはいえ、何分も混ぜ続けなければいけない。私よりも遥かに運動能力が上とはいえ、生クリーム初体験の秋田には酷なことだろう。

「大丈夫です。食べたいといったのは僕ですし、凄くおいしいくりーむを作ってみせます!」
「頼もしいです秋田。ですが本当に疲れたらいってくださいね。一緒においしいケーキを作りましょう」
「はい!」

そうして始まったケーキづくり。といっても凄く簡単に作れるビスケットケーキだ。盛り付ける果物は今が旬で本丸の木になっていたみかんだ。ひたすら外側の皮と、薄皮を剥き続け、薄く盛り付けやすいようにスライス状に切っていく。

ちらりと秋田の様子をうかがうと、短刀専用の踏み台にたち、前にかがみながらボールの中身の生クリームと戦っている。泡立て器はやはり不馴れなのか、時々生クリームが飛び散りエプロンや頬にとんでいた。
しかしそれも気にすることなく、いやそれも気づかないほどの集中力なのか真剣に黙々とカチャカチャと混ぜ続けるのだった。

私もすぐに合流できるようフルーツをきって、おやつ棚のビスケットと牛乳を用意してしまおう。
秋田に負けないくらいの集中力でみかんの薄皮を剥き続けた。


…………

先に終わったのは勿論というか私のほうで、合流した頃には生クリームはホットケーキミックスを混ぜ合わせたようなあのどろどろ具合だった。
ここまで来たら固まった形になるのはもう目の前。
「代わりますよ」と腕をまくり直すと、「いえ、大丈夫です!このまま最後までやりたいです!」
と力強く断られてしまいこうして見守ることしかできない。
こんなことなら泡立て器を買っておくべきだったなぁと心のなかでため息が出た。この後ケーキを冷やさなければいけない時間があるからその時にでもネット通販で早速買おうと決意した。

「本当に疲れていませんか?秋田」
「慣れない作業ですけど、戦っているときよりずっと楽ですよ。それに今とても楽しいです!主君とこうしてご飯を作るの僕大好きなんです。だから疲れるなんてことはないんです」

そういってにこにこと笑う彼に思わず涙が出そうになる。何ていい子なのだろうか。本来彼は神様で、ご飯を捧げなきゃいけない立場で、それを作るなんてことあってはいけないのに、私と一緒に作るのが楽しい、大好きだなんて……。心がなにかとても満たされてぽかぽかと温かくなる。
これからも沢山おいしいものを作ろう。頑張ろう。と胸に手をあてジーンとなっていると生クリームは佳境になっており、ほぼほぼ角がたつ状態だった。

「もう少しクリームがツンと上を向くようになったらOKです」
「もう一踏ん張りですね」

ラストスパートをかけできたクリームにお互い達成感がすさまじかったが、これでケーキが出来たわけではなく、これからがケーキ作りのラストスパートだと盛り付けに勤しんだ。
ビスケットを軽く牛乳にとおし、その周りにクリームを塗ってフルーツを挟みまた牛乳にとおしたビスケットを重ねていく。これの繰り返しで、重ね終わったあとは全体をクリームで綺麗に塗り形を整え余ったフルーツを好きなようにつけていく。折角だからと、おやつ棚に一緒に入っていたチョコマーブルもパラパラとのせ、あとはラップで全体を包み冷蔵庫で冷やす。

冷蔵庫で冷やしている間お茶をのんで一休みしたり、洗濯物を取り込んだり雑務に勤しんだが、その間秋田は常にそわそわしており、チラチラと厨の方向へと顔を向けていた。
そんな姿もかわいくて、時間を進められる魔法が使えたら…なんてことを考えたりしてしまった。


高く上っていた日も少し落ち始めた頃、冷蔵庫の前に私たちは立っていた。
いよいよケーキが冷えかたまって食べどきになったからだ。冷蔵庫から先程作っていたケーキをとりだし、まな板の上でラップを広げる。
斜めに包丁をいれて二センチ感覚で切っていってくださいと秋田に包丁をわたし、ごくりとその様子を見守る。

終始神妙な顔つきでそれを見届けていた秋田は緊張しながらゆっくり包丁をいれ、その断面に目を見張った。
カチカチのビスケットはフワフワとまるでスポンジのようになっていてその間に挟まるクリームと、ミカンの彩りがまるで宝石のほうだった。きらきらとその瞳を輝かせせっせとケーキを切り分ける。

「早く食べましょう!」
「ふふ、ケーキは逃げませんよ、ゆっくりで大丈夫ですから」
「うう、でも、とても綺麗で本当に美味しそうで」

その喜びようといったら凄かった。しかしそれを食べてからの喜びも凄かった。もしかしたら泣いてしまうんじゃないかというくらい頬を綻ばせ、目をらんらんにしていて。

「クリスマスに食べたケーキよりも、今日主君と一緒に作ったケーキの方がずっとおいしいです!」
「ふふ、そうですね。秋田がそんなに喜んでくれるとより美味しく感じます。また作って今度は皆にも食べてもらいましょう?」
「はい!」

残りのケーキは定期報告に来たこんのすけと私たち二人でわけあい、綺麗になくなった。沢山食べてしまったが、晩御飯ははいるだろうか?

「「ごちそうさまでした」」


20200412

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ