少女禁区ぱろ

□愛染と青椒肉絲を食べる
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虫たちが自分達の生きざまを叫び競い合う夏の暑い日。本丸の畑で管理している野菜たちは、これでもかと言うほど実を付け茶色い大地を彩っていた。しかし、あまり出来すぎても困る。
トマトは冷凍がきくし、キュウリは漬け物で毎日のように使うから問題ない。茄子も一回に使う量が多いし、水分がたっぷり入っているから火を通してしまえば半分くらいに実が縮む。
しかしピーマンに関してはなかなか大変だ。茄子同様一回に使う量は多いし、中身もないため複数使わなければ料理は成り立たない。
けれども家の短刀、ピーマン嫌いが多いのだ。それを見かねた歌仙や薬研が克服しようと意気込んで例年の倍の苗を植えたのだ。沢山とれれば克服出来るというわけではないのだが…。
そのため連日食卓にはピーマンが溢れている。
しかし見た目でもう嫌だと判断してしまうため、微塵切りや、スムージーに混ぜてしまうなどしないと食べられないと言うことがほとんどだった。

どーにかこーにかと頭を悩ませているが、個人的には急かさなくても大丈夫だとおもう。
ああいうのは自然と食べれるようになるもの。それまではすきに沢山食べていればいい。無理に食べれなくておなかがすいて倒れるなんて事が一番バカらしい。

さてさて、その話をふまえて家の本丸では昼食はお留守番になった刀剣男士一人と私の二人きりだ。(休日を除くのと、たまにこんのすけが仕事できたときは二人と一匹で食べる)
そして今日のお留守番はピーマン嫌いの一人、愛染だ。午前中に二人で畑仕事を終わらせ、今は二人でお昼ご飯を作っている。メニューは青椒肉絲。ピーマンがメインと言うか、ほぼピーマンしかないような中華料理だ。
無理して食べさせなくても良いといっていた私が、なぜそんな料理を愛染と二人で作っているかと言うと、本人たっての希望だったからだ。

………………

先ほど畑仕事をしていたときだった。愛染がぽつりとこんな言葉をこぼしたのだ。

「はー、ピーマンってなんでこんなに苦いんだろ」

その発言に思わず声をかけた。

「苦くなかったらピーマン食べるのですか?」
「主さん…。うん。オレ本当は好き嫌いしたり、残したりしたくないんだ。皆で一生懸命育てた野菜だし、……かっこ悪ぃし」
「ふんふん」
「出来ることならどんな食べ物でも美味しく食べたい!皆が細かくしてくれるのはまだ食べれるんだけど、サラダとか肉詰めとかなかなかおっきいとな」
「じゃあ今日のお昼ピーマンにしませんか?」
「え?!」

さっきの漢らしい顔つきとはうってかわって、子供が本当に嫌なときにするような、顔面の表情を一気に収縮させたような顔になる。

「ピーマンであんまり苦味を感じず、尚且つご飯もモリモリ食べれておかわりもしたくなる魔法のピーマン料理にしましょう」
「そ、そんな料理あるのか!?」
「個人的な意見なので一般的にはどう思われているかわかりませんが…。そしたら、その料理はピーマンを沢山使うのでさっさととってしまいましょう」
「お、おう。…俺頑張るぜ!!」
「はい!」


………………

そんなこんなで今は愛染に大量のピーマンを切ってもらっている。短刀達専用の踏み台で身長をカバーしているのだが、何度みてもその姿といったら可愛いものだ。

彼らは一様神様だと言うが一緒に生活していればそんなことも忘れてしまう瞬間は何度もある。
母親のお手伝いを必死にやろうとしている小学生男子、みたいなシチュエーション癒されないわけがないのだ。

料理に慣れていない包丁の不器用な音を聞きながら、切ったお肉を醤油とお酒と少しの片栗粉を入れた容器に浸けておく。
さて、そろそろピーマンを切る手伝いをしよう。

「私もお肉の下処理がおわったので手伝いますね」
「おう!」

黙々とピーマンを細切りにし、やっとおわったと思えば次は筍と少しのパプリカ。
パプリカを愛染に任せ、すでに水煮してある筍を同様に細切りにする。

「できたー!」
「ふふ、ありがとうございます。あとは炒めるだけですからお椀とあと大皿を出しといてもらって良いですか?」
「おう、任せとけ!」

踏み台を両手でつかみ張り切って食器棚へいった。かわいい。

フライパンにゴマ油をしき温める。先程浸けておいた肉を汁もそのままフライパンに流し込むとふわりと広がる食欲をそそる匂いと、パチパチと弾ける肉の焼ける音。
そのまま食べてしまいたいと言いたいところだが、やけた肉はいったんとりだし、先程切った野菜達を全部投入する。まだシャキシャキしている状態で混ぜにくいので、蓋をして少しだけ蒸す。

その間に愛染は大皿もお椀も受け皿も、お箸も準備し終えており、きらきらした顔でフライパンを見ていた。

「ふふ、もうできますからちょっとだけ待っててくださいね」
「大丈夫、俺こういうの大好きなんだ!」
「あら嬉しいですね、そしたら蓋を開けたらこのお肉を入れてもらって良いですか」
「任せとけ!」

フライパンの蓋をとると先程よりも野菜はしなっておりそこにお肉と、酒、オイスターソース、醤油を適当に流し入れる。
じゅーじゅー焼ける音と、醤油やソースの焼ける匂いが堪らなく胃を刺激し、口内までもが唾液で溢れる。

全体に味がつき混ぜ合わさったところで、大皿へ移す。

「ぉはあっ!」

ピーマンメインの料理ではあるがその彩りと食欲をそそる匂いといったら堪らないだろう。皿に盛ったことでよりその魅力は増し、この場で食べてしまいたいところだ。

「はい、青椒肉絲の完成です」
「これちんじゃをろす?っていうのか!?」
「はい、青椒肉絲です」
「ちんじゃおろーす」
「青椒肉絲」
「ちんじゃおろーす…」
「ふふ、良い匂いでしょう?」
「ああ!」
「さぁ、食べましょう!」


………………

「「いただきまーす」」

普段皆で食べる大広間でなく私の部屋でこうしてお昼は食べることが多い。テーブルのサイズがちょうど良いのだ。

私はまだ口を付けず愛染の動向を見守る。自分の皿にとった青椒肉絲からすこしばかりつまみ、恐る恐るといった感じで口に運んでいった。数回租借しゆっくりと飲み込む。
その緊張感がこちらにも伝わってきて、首筋を汗が流れる。暑さででる汗なのか緊張ででる汗なのかがわからない。

「ど、どうですか…?」
「……うまい」
「!」
「あんまり苦くない!うまい!」
「っ、よかったです〜」
「これならいくらでも食べれるし、ご飯がすげーすすむ!」

いつも通りの笑顔に安堵し、私も手を伸ばし食べ始めた。
青椒肉絲をご飯にワンクッションして口へ運び、ソースとご飯が少し混じった部分を口一杯頬張る。あぁ、おいしい。

「主さんリスみてぇだな」
「よくいわれましゅね…。口一杯に美味しいものが入ってるのが幸せなんです、ふふ。ほら、私青椒肉絲大好きなんでおかわりなくなっちゃいますからね?」
「あっ、お、オレももっと食べる!」

気付けばお互い受け皿なんか使わず大皿から直接取りはじめ、その皿が空になる頃にはお互いのお腹も満たされていた。

「「ごちそうさまでした」」

20190815

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