ふり

□自分の能力を忘れている越知の続き
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少しというか、がっつり相談に乗ってほしい。先日同じクラスの越知月光くんというそれそれは目立つ男子生徒とメル友になった。お互いに猫好きで、越知くんは猫を飼っているということもあり、その画像を定期的に送ってくれるのだ。ロシアンブルーのルナちゃんが越知くんちのかわいこちゃんで、美人さんでもあって、私は彼女に至極夢中なのだ。
さて、前置きはこんな感じでいいだろうか。足りてない気もするがまぁいいだろう。
その相談になってほしいことというのが、越知くんに嫌われてかもしれない。
そこまでに至った理由が、会話中全然目が合わないし、授業以外でお互いに目があった時だって、すぐに顔を背けられる。
極めつけは、ルナちゃんの写真をあまりくれなくなった。
なんで?本当になんで!?思い当たることといえば、ラインでルナちゃんを見たときの反応がウザかったかもしれない。その点に関しては本当に申し訳ないと思っている。全面的に私が悪いって言われたら、確実に私が悪いですって素直に謝れる。
でも、もし本当にそれが理由ならせっかく仲良くなったのに悲しい。人の信頼を会得するのはすごく難しい。逆に、信頼が崩れるのはとても簡単だ。なんて言葉あった気がする。つらい。

帰りのホームルームも終わり、溜息を吐きながらカバンを持ち上げる。
今日も目を逸らされてしまった。仲良くなれたと思った人に避けられるような態度をとられるのは辛いものだ。同じ合唱部の花ちゃんと昨日のテレビ番組について話しながら音楽室まで向かった。


・・・・・・・・


個人練習をさせてもらうため、顧問の先生に許可を取り、第二資料室で今やっている曲のワンフレーズを繰り返し練習する。いきなり高音に切り替わるところなのだが、なかなかピタッとその音を当てられないのだ。越知くんにずっと見られているときは、何故だか知らないが極度の緊張状態で全く歌うことができなかった。仲良くなってからは、それなりに歌えるようになり、今は歌えるには歌えるのだが、バシっと決まらないのが悩みどころ。というか、越知くん影響しすぎじゃない?なんでひとりの人間にここまで左右されなきゃいけないのだろうか。
少し休憩して、喉を休めよう。同じところを練習しすぎるのも良くないし。

資料室の窓を開けると、涼しい風がぶわっと中の空気をかきだしていく。新鮮な空気が肺いっぱいに広がり、なかに溜まっていた悪いものが一瞬で洗われたようだ。

ぼーと外を眺めると聴こえてくるのは風に揺れる気の葉が重なる音。外で部活をしている人たちの声。吹奏楽部の楽器の音に、校舎ではしゃぐ生徒たちの声。はー青春だなぁ。 そういえば今週の日曜日は友達とお遊びに行く予定だったけど、土曜にしてって言ってたから日曜日が空いてしまった。何をしようか。まだ読み終わってない小説を読むにしても、一日使うわけでもないし。あ、そういえば駅前に

「名無し」
「うわ!」

ぬっと現れた越知くんに驚き後ろの机にお尻をぶつけてしまった。とても痛い。この痛み方だときっと青タンになるだろう。位置が悪かったら蒙古斑みたいになってしまう。

「大丈夫か?」
「うん、大丈夫。というか、部活…は?」
「休憩…だ」
「そっか、おつかれ」
「……」

まただ。話はそこそこするのに、また目が背けられてしまう。なぜだ。

「「あの」」

声が重なり、お互いにどちらから喋るか譲り合うも、埒が飽きそうにないので先に言わせてもらうことにした。

「あのさ、その…」

しかしいざ“なんで目を合わせてくれないんだ”なんて聞こうとするのは恥ずかしい。親友とか、恋人とかならまだしも、そこまで仲がいいわけではないただの同級生兼、メル友にこんなこと面と向かって言えない。とおもってからの誤魔化しは早かった。

「ルナちゃんの写真今度いつくれるかな〜なんて!ごめんねこんな催促なんかして!あはは、最近癒しが足りなくてルナちゃんが恋しいな〜って思っててさ」
「そうか、すまない。今日の夜にでもまた送ろう」
「いやいや、むしろこんなこと。こっちこそごめんね!それより、越知くんは?さっきの」
「ああ…」

といって、俯いたり横を見てみたりなんだか落ち着きがなくなる。どうしたどうした?もしや越知くんもなにか言いにくいことを言おうと。っは…。やはりラインの返信が気持ち悪いということだろうか。そんな奴にうちの可愛い猫の画像は送れないとかそういうことなのだろうか…。本当に申し訳な

「猫カフェへ行かないか」
「…へ?」
「嫌ならかまわない」
「…今?」
「空いている日に」
「………いく」
「そうか」
「あのさ!私のこと嫌いじゃないって、こと?」
「どうした?」

さも何事もなかったような彼に少しカチンとくる。

「だって最近よく目を逸らされるし、ルナちゃんの画像も減っていくし、もしかしたら何か嫌な事しちゃったかなと思ってて!」
「それは」
「でも、猫カフェに誘ってくれるし…越知くんってよくわからない」
「…」
「ごめん、こんなの八つ当たりだよね。はー、駄目だ。本当にごめん」
「いや、俺のほうこそすまない。知らないうちに傷つけていたようだ」

お互いにだんまりになってしまい気まずい沈黙の時間が続く。最初に切り出したのは越知くんだった。

「ルナの写真を送るのが減ったのは、考え事をする時間が増えたからだ。名無しとどこかへ遊びに行く計画を立てていた」
「ほ?」
「目をそらすのは、その名無しを見ていると顔が赤くなる。そんなのは見られたくない」
「は」
「とにかく、空いている日。ラインで教えてくれ。俺は練習に戻る」
「あ、はい。れんしゅうがんばって…」

去っていく背中に私の感情のこもっていない声が聞こえているのかどうかは分からないが、見えなくなるまで見送った。
感情も感覚も無のまま椅子に座り、つま先の汚れた上履きを見つめる。

なんだったんだ今のは…?


「名無しさんー。そろそろ合わせるから音楽室もどれって」
「うん」
「…どうしたの?体調悪いの」
「え?なんで?」
「だって顔、真っ赤っかだけど」


誰か、また相談に乗ってはくれないだろうか。今度はこの気持ちについて教えてください。

20182924
リクエストありがとうございました
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