ふり

□骸は大変な勘違いをしていきました
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「ただいま〜」

早くこの喉の乾きを潤したいと体が訴えている。靴も整えず小走りで冷蔵へ向かうと、いつもうちに勝手に上がりこんでは我が物顔で寛ぐ幼馴染みがいた。
日常茶飯事だから今更こんなことで突っ込むことなんてなかったのだが、今日だけは違った。

「は?」
「どうかしましたか?」
「いや、あ…あ?なんでもない」
「そうですか、ならそのアホみたいな顔を私に向けないでもらえますか」
「…はい」

口調はいつも通り辛辣なのだが、明らかに見た目がおかしいことになっている。
私の幼馴染み兼隣人の宗三左文字は華の大学生である。生まれつきピンクの髪でひょろくて目もオッドアイ。顔立ちもいいし、その未亡人のような色気たっぷりの佇まいといったら凄かった。昔から韓流スターなみにモテていた。近所のおばさまたちを虜にし、学校では女子たちにキャーキャー言われ、商店街では道行く人に“そー様”なんてもてはやされてた。
兄の江雪左文字もそれなりにモテるのだが、なんといってもやつは引きこもり(仕事はいくけど、人とかかわらない仕事で、休日は家からでない)
弟の小夜は二人とはまた別のタイプで、初見だと周りはあまり近づかないけど、心の優しい子である。

おっと、話が脱線した。そう。その宗三の見た目がおかしい。あの鶏のようなピンクの髪から青い毛がにょきにょき出ているのだ。なんと例えればいいだろう。パイナップルのヘタの部分…これが一番的確だろう。それが頭からはえていた。写真に納めてしまえばなんだこのクソコラ、って感じだが、あれは確実につけ毛とかではない気がする。それにあいつは緑と青の目をしているのだが、この偽(?)宗三は赤と青い目だ。それに赤い目には文字が刻まれていたような…?
ともかく宗三はこんなバカみたいなことはしないサプライズ性のない現実主義野郎なので、私が寝ぼけているか、あちらの宗三がおかしいかの二択になるわけだが。いや、宗三に毒されすぎだ。こんなの一択しかないだろうに。

宗三、とても、おかしい!!

とりあえず制服を脱ぐために部屋に行き、身支度を整えながら考える。

どうしたら正解だ?!

突っ込んだら負けなパターンなのか、突っ込まないほうがいいのか、さりげなく気づかせるべきなのか。いやそもそもだよ?そもそもなんなのあれ。目は百歩譲ってもわかる。現代ではカラーコンタクトなんていう便利グッズがあるわけだから、試しにつけてみたなんてことがあるかもしれない。
しかしだ、あの頭部の青いヘタはいったいなんの意味をもってつけているのか。
わからない。あれがなかったらまだ軽い気持ちで考えれていただろう。まじで訳がわからない。つけ毛ならもっと選択があったはずでしょ?リーゼントとかツインテールサイドテール、襟足部分とか。
なにあのピョヘピョヘしたヘタ。

駄目だ。ここで一人で考えていたって始まらない。ワンちゃん小夜が帰ってきてるかもしれない。これはもう兄弟の間で対処してもらわないと解決しないと悟ってしまった。
善は急げだ。着替え終わり隣の左文字家まで駆け込もうと、廊下、階段を駆けていくと足を踏み外した。しかも最初の三段目で。
いつも登り降りしている階段でこんな失態!というか頭守らないと!

ドドドドドンッ!

階段でこけてそのまま段差にぶつかりながら一階の床まで到達してしまった。頭だけは守らなきゃと思っても、体はとっさに動いてくれなくて普通に痛い。いや、身体中痛いけど頭もろにうった。
あれ?

頭をうった衝撃なのかなんなのか、膨大な記憶があふれでてくるのがわかる。
そう。生まれるよりもずっとずっと前。前世の記憶。
あっ、まずい。これは不味いぞ。審神者。刀剣男士。歴史修正。やめろ。まて。と思っても次々と記憶が溢れてきて、思い出したくもない黒歴史が続々と出てきたとき、リビングの方から「どうしたんです?」と宗三がこちらに気づきやってくる気配がした。

まずい、え?なんで左文字の幼馴染みやってるの私。記憶のこともあるが、色々整理できずに対面するのは非常に不味い(気持ちの整理的な意味で)
思わずリビングの隣にあるトイレへ逃げ込み、鍵をかけた。



………………



宗三(?)


おやまあ。これはバレてしまったということでしょうか。トイレに立て籠るなんて死んだも同然なんですがね。

審神者という代々特殊な能力を持つ人間。噂に聞いたのは“幻術がきかない(もしくは直ぐにとける)”“結界をつくる”という能力。もしかしたら他にもなにかあるのかもしりませんが、その二つだけでも利用価値があるというもの。
それにボンゴレや、あの日本を根城にしているマフィア“朧”も狙っているとか。

様子見程度にあの娘の近しい人間に化けて近づいてみましたけど、あの阿保そうなとことを見なければそれなりに使えそうではありますね。

クフフ、さてどうしてやりましょうか



………………


まずいまずいまずいまずい。

まってくれ。え?まって。なんでうちの刀剣男士たちちょくちょく知り合いなの!?
左文字が隣の家の人、三人
学校で鯰尾と骨喰、二人
帰り道に虎徹、三人

あと、あとまだいた気がする別に毎日あってるわけでもなくて、近くから見てるわけでもなくて、身近だけど身近じゃない。えーと。記憶が戻ったばかりだから色々と整理できてない。
あれよ、あれ。あのー、無駄に爽やかで、無駄にイケメンで無駄に優しい刀剣男士界の無駄様として名高いえーと。


ピンポーン
「宅配でーす」

そうそうこんな感じの声だった気がする。
あれ?この声。


………………


宗三(?)は第三者の介入にすこし戸惑ったものの、ここは居留守を使うのが得策と考え息を潜めたしかし、家主が己の危機に気づいたのか大きな声で叫んだ。

「燭台切光忠だ!!!」

その瞬間玄関のドアノブはポロリとこぼれ落ち、ドンッと扉が荒々しく開けられた。

「主!」
「っ!」

目の前には日本刀の切っ先。すんでで槍を使い、受け止めたものの剣圧に推し負けそうなことは変わりなかった。

「君、宗三くんではないよね」
「おやおや、まさか貴方にも幻術が効かないとは、これは分が悪いですね」
「何者だい?」
「クフフ、名乗るほどのものではありません…よっ」

刀を弾いて後方へ下がりリビングの方へかけた。逃げるが勝ちなんて言葉がある。まさにその通り。
リビングから庭へ繋がるガラス戸を突き破り、逃走した。

「っ待て!」

追いかけるも相手の方が一枚上手のようで、光忠がリビングへ来たときにはすでに気配すらなかった。


……………

「燭台切光忠だ!!!」

そうだそうだそんな名前だったし、あいつは佐○急便に勤めていてたまーにうちにも荷物を届けてきたし、町中でも見かけることがあった。まぁ、荷物は絶対お母さんがとるようにしてたから(イケメンを拝むために)顔を会わせるまではいかなかったけど。

あれ?なにやら家のなかがドタドタ騒がしい。しまいにはガッシャーンとガラスの割れる大きな音まで。
何が起きてる?!宗三と顔を合わせられないとかいってる場合じゃねえ!トイレのドアを開けてまず目にはいるのは玄関のドアが開けっぱなし。
リビングへ向かうと佐○の制服を着た光忠が日本刀片手にガラス戸の前に立っていた。いや、ガラス戸のガラス盛大に割れてるんだけど…。

「主!無事でよかった」

キラキラと輝く笑顔で力一杯抱き締められ、身体は大丈夫?かとまさぐられる。おい、お前それはセクハラだぞ。

「あの、光忠さん…ハナレテクダサイ」
「すーっはー、もう少し」
「いや、あの」
「主は久々にあったのに冷たすぎるよ」
「後ろ…」
「ん、なーに?」
「や、だから後ろ」

後ろにというか、リビングの入り口に宗三がいるんですけど…。
めっちゃ嫌そうな目で見てるし、「それはなんです」って心の声も聞こえてくる。
いや私もわからないです、はい。

あ、どこかに電話し始めた。十中八九警察だろう。光忠がやったかどうかはさておき、これだけ荒らされれば誰だって泥棒を疑う。
電話を終えたであろう宗三は玄関にあった靴べらを持ち思いっきり光忠の頭を殴った。

「いっっったあ、もー宗三くん」
「馬鹿みたいなことしてないで、ここ、きちんと片付けてくださいよ」
「そ、そうだそうだ!!」
「貴女もですよ」
「え?!」
「家主がいるのにどうしてこんなことになってるんです。これではレポートがかけないんですけど」
「いやいやいや自分の部屋でやれよ!てゆうか警察呼んだんだよね?!」
「いえ、光忠の保護者を」
「は!?」
「僕に保護者はいないんだけど…もしかして伽羅ちゃん?」

こくりとうなずく宗三に光忠はいそいそと仕事に戻ると支度を始める。こいつバックレようとしてやがる!

「そうはさせるか!!」
「えっ、熱烈だね主。このまま僕とランデブーする?」
「ランデブーって…化石じゃないですか」
「違う馬鹿!!片付けを!手伝え!」

腰を捻り、すかさずダッシュで逃げる光忠を追いかけ外へ出るも、トラックでそのまま消えていった。あの無駄野郎、一発殴る。
しかしあの惨状どうすればいいの…。

「あれ、名無しさん?どうしたの!」
「うぇ」

後ろには沢田くんたち三人組がいた。

「沢田くうううううんたすけてえええええええ」
「え?!えええええ」



20190421
リクエストありがとうございました
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