BOOK!!
□26歳未だ独身である。
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『はは…上田も暑いわ、やっぱり。うん、』
東京から新幹線、電車を乗り継いであとはバスにのるだけ。
陣内家、戦国時代から続く家で現当主は16代目。
今日私がここにいるのはその16代目当主の栄おばあちゃんの誕生日を親族一堂で祝うためだった。
まあおばあちゃんと言っても私の本当のおばあちゃんではないし、私は陣内家の人間ではないんだけどね。
『って…あと30分バス来ないし!ぅへー暑い、溶ける、とろけるチーズ!』
夏の日差しが照りつける。
脳みそまで溶けそう、あと30分長いなあ。さすがにこの暑さはいつもクーラーの下で仕事をしている私には堪える。
『…あ、おああああ!理一!理香さん!』
ブオオオとエンジン音がしてサイドカー付きのバイクが通り過ぎたと思えばそこには見知った顔があった。
理一「…●●?」
『そうだよ!私!』
理香「あーら、見ないうちに随分美人になっちゃって」
『へへへ、』
それからここで待っていた理由を二人に話すといっしょに行こうと誘ってくれた。誘ってくれたのは良いんだけど…、
『なんで26にもなって理一の膝の上なの!?』
理香「しょうがないでしょ、ヘルメット1つしかないんだからー」
理一「なにか不満?」
『不満っていうか…』
恥ずかしいんだバカー!
くっそう、なんで膝の上なんだよ。紐でも付けて引っ張ってもらった方が…ってそれは無理か。
―
理一「姉ちゃん、メット!」
流石陣内家でっかいわ。玄関の前に立つとしみじみと感じるバカでかさ。そしてわきあがる懐かしさ。好きだなあ…
理一「あー、そろそろ下りる?まあ俺はいつまで乗ってても構わないけど、」
『え?うおおおおおおおおお!下りる!ごめん、ごめん、ごめんね!』
忘れてた、今私理一の膝の上なんだった。
41にもなって何言ってんだ、陣内理一。あざといな、
理一「ねえ●●、」
『ん、何?』
理一「綺麗になったね、」
『な、なにを…』
こちらを見てにっこりと微笑む理一に目眩がする。あぁ、こりゃ酷い熱中症かな。
―
夏「…典子さんちの真吾と真緒。で、私の隣が●●。覚えた?」
夏希が彼氏を連れてきたらしい。たしか小磯健二くん。東大生で旧家の出でアメリカ帰りって直美さんが言ったみたいになんだか少し出来すぎな気がするが、うん。すごくいい子そう。
それからまたいつものように万助さんの第一次上田合戦の話が始まって、皆で夕食を終えた。
良かった、私が作ったいなり寿司売れてる、売れてる。
―
『あ、次の人だれー?お風呂上がりましたよっと。…って誰もいないんかい』
タオルで髪を拭きながら廊下を歩いていると皆が縁側に集まっているのが見えた。万里子さんが声をあげているのが聞こえる。
『あの…お風呂、あ。』
侘助だ。侘助、侘助だ。
縁側に座っているのは間違いなく侘助だ。あぁ、10年経ったのに悪態をつく口は変わらないなあ、
栄「あんた、ご飯食べたかい?」
侘「飯なんていらね…むぐっ!」
『…。』
突っ込んだ。結構自信作だったいなり寿司をわし掴んで机の周りを走って侘助の口めがけて、
侘「ってめ、何す…!お前…、●●か?」
『お腹すいてるくせに何意地はってんのよ。それとも私の作ったいなり寿司食べれないって?』
侘「●●…」
『そう。●●です、26歳になりました。侘助久しぶり』
勢いが良すぎたせいか侘助の口の周りにはご飯粒がついている。あぁ、皆驚いちゃってる。
侘「…綺麗になったな。」
そう言って立っている私の腰を抱き寄せた。私の脚はふにゃりと曲がって侘助に倒れこんだ。なんだ40歳過ぎると皆こうなるのか、
『…10年だもん。そりゃ変わるよ』
侘「寂しかったか…?」
『…んなわけあるか、ばーか。よいっしょ、侘助痩せたね。』
侘助に寄りかかるのを止めて私が立ち上がると私と入れ替わって夏希が侘助に抱きついた。
おうおう、積極的だこと。若いっていいねえ。
―
『あんれ、健二くん?』
一度部屋に戻って、たまたま廊下を通りかかった理一を引き止めて他愛もない話をしながら花札をした。
そろそろ寝る準備をするからと別れたが結局寝れずご飯を食べていた座敷に戻ってきた。
健「あ、えと…●●さん」
『ぴんぽーん!正解です。あ、隣座っていい?』
健二くんのとなりに座って脚をぶらぶらと揺らす。夜になるとだいぶ涼しくなるなあ。
健「あの…●●さんて、あ。やっぱなんでもないです!」
聞いちゃいけないと思ったのか途中で話すのを止めてしまった。予想はつくけどね、別にいいのにな。
『…私ね、14歳の時に両親を亡くしたの。事故だったんだ、不運なね。』
思っていたことが的をえていたようでびっくりしたような顔でこちらを見た。焦ってる、焦ってる。
『元々駆け落ちした両親だったからさ、頼れる親戚もいなくてね。一人暮らしかって思ったんだけど、』
健「…栄さんですか?」
『うん、またまた正解。おばあちゃん昔学校の先生だったの、両親はその教え子でね。身寄りのない私のこと引き取ってくれたんだ、』
健「優しいんですね、」
『うん、年は離れてたけど本当の親子みたいに接してくれて。皆も本当の家族みたいにしてくれたんだ。で、18までここで暮らして19で東京にいったの』
健「ここの人って皆あったかいですよね、」
そうだねぇなんて返して空を見上げた。こういう話すると頻りに昔を思い出すなあ。ぼうっとしていたが健二くんの質問で意識を現実に引き戻す。
『私の仕事?うんとね、OZ関係の、パソコンカチカチ系の仕事かな』
健「へえ、●●さんOZで働いてるんですか、!僕も少しかじってるんです、まあバイトだし。」
末端の末端の末端ですけど、なんて笑う健二くんは可愛かった。この子本当に大学生かね、
健「ちなみにどういう所担当なんですか?」
『聞きたい?』
健「はい!」
そう言って健二くんは目を輝かせた。OZ好きなんだな、
『ふふ、ちょっと言えないとこ』
―
『あ、侘助。』
ええ、と言う健二くんにもう歯磨きでもして寝なさいねなんて言って頭をぽんぽんとすれば照れたようでもう何も言ってこなかった。私もそろそろ寝ようと自室に戻るとき、少し開いた障子から侘助の姿がチラリと見えた。
侘「あぁ、●●か」
『なに見てんの?』
そう言って携帯の画面を覗き込もうとすると画面をそらされた。
侘「巨乳のお姉さん」
『はあ?』
何言ってんだ、こいつは。
明らかにOZの画面だったじゃん。
『あ、忘れてた』
侘「何を?」
『侘助、』
侘「んー…、」
『おかえりなさい』
一度こっちを見て顔を逸らして小さな声でただいま、と呟いた。照れてるな、こりゃ。
『こんな風に侘助と話すの久しぶりだなあ。ねえ、侘助』
侘「黙って出てったことまだ怒ってんのか、」
『別に。ただ心配してただけ。私も、理一も。栄おばあちゃんも』
侘「…ふうん」
本当はおばあちゃんのお誕生日祝いに帰ってきたって言えばいいのに。素直じゃないとこは変わらんね、
『何やってたの?アメリカで』
侘「…、」
『侘助…?』
侘「●●、」
『な、に?』
侘「…やっぱなんでもない。巨乳のお姉さん追っかけてましたー」
『…ばーか。』
侘「ほら、もう歯でも磨いて寝な」
それさっき健二くんに言った台詞だし。もう一度ばーかと悪態をついておやすみと言った侘助におやすみを返して自室に戻って寝た。
明日はたくさん人が来て忙しくなるんだろうな、
―
『何事だ、この着信履歴は』
朝ご飯の用意をして一段落したところで携帯を見ればズラリと上司や同僚からの着信とメール。マナーモードだったから全く気付かなかった。
この様子だと電話は面倒くさいな、怒鳴られそうだし。そう考えていくつかメールを開く。
なんだこれ、
『…OZの一部サービス利用不可?原因は何らかのウイルスもしくは…、ハッキングAI?私が寝てる間に何してくれちゃってんの、』
とりあえず皆の所に戻ろうとしたときどたどたと皆が納屋に向かっていくのが見えた。
『…翔太、何事?』
翔「●●!こいつが犯人なんだよ!OZの混乱の!」
『え、健二くん?』
健「僕は無実です!助けてください、●●さん!」
『お、おうよ?』
26歳未だ独身である私の有給休暇はそうのんびりとしたものではないらしい。
07月31日、
新しい戦争の幕開け。