BOOK!!
□____怪我。
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新「で?怪我した子をつれてきたの?親切なのはいいけどね、僕はほら。闇医者だからさ、」
静「いいから早く治せ」
新「うん、受け入れるよ。だからぜひこの腕を離し、いだだだだだだだた…!骨が軋んでる音がするよ!?」
もう日課のようになってしまった●●の奇襲は、やはり今日もいつものようにやってきた。
いつものように軽く流して、
いつものように気を付けて帰れ、と言ってお互いに帰るはずだった。
『いっ…!』
新「ああ、これは…うん。骨折寸前の捻挫かな、こっち曲げたら痛い?」
『ぃっ…!触る、な!』
新「いだだだ!蹴らないで、もうしないから!」
けれど今日はいつもとは少し違って、俺に対して飛び蹴りを繰り出し着地した時、脚を曲がらない方向に曲げてしまったらしい。放っておくわけにもいかず、新羅に診てもらうことにした。
『触るなと言ってるだろ!私は臨也さん以外に触られたくない!』
新「…臨也?」
静「そいつ極度のノミ蟲史上主義者なんだよ」
『、お前……臨也さんのこと知ってるのか?』
珍しくノミ蟲のことを知っているような人間にあったからか、少し、ほんの少し●●の雰囲気が和らいだ気がする。
新「知ってるっていうか…腐れ縁かな。高校までいっしょでね、部活もいっしょだったんだよ」
『…臨也さんの……友達、それなら私も大切にする、』
一瞬だけ微笑んだ。一瞬だけど綺麗に微笑んだ。はじめて見た表情に何故か少しだけ戸惑う。
新「そっか、ありがとう。僕は岸谷新羅っていうんだ、君は?」
『…●●、』
新「じゃあ●●ちゃん、念のため他のところも調べておこうか。私は一応医者だから、」
●●はこくりと頷いて新羅の後ろをとぼとぼとついて行き新羅は俺にリビングで待つように言って部屋を出ていった。
今日セルティはいないらしく一人リビングに残された俺はやることもなく、とりあえずソファに腰掛ける。
他に怪我してなきゃいいが、
なんだかんだで心配していた。何度も自分のことを殺そうとしているやつのことを心配するのもどうかとは思う、
新「…ずお、静雄!」
静「……あ?あー、…俺寝てたのか。悪りぃな、…あいつは?」
どうやら俺は寝ていたらしい。最近あまり寝ていなかったからか、まだ頭がぼーっとした。新羅に起こされて時間を確認してから周りを見渡すと●●が見当たらなかった。
新「あぁ、彼女はいま着替えてる…じゃない!●●ちゃんのこと、君は知ってたの?!」
静「知ってるって…俺を殺そうとするノミ蟲依存のガキ、だろ」
ああ、やっぱり。そんなような呆れた顔で俺を見た。それからいい?よく聞いて、なんて少し真剣な顔をした。
新「彼女、大人だったんだ。」
静「……は?どうみてもガキだろ。あのなぁ新羅。んな冗談腹抱えて笑えるような人間じゃねぇってことぐらい分かってん」
新「冗談じゃないんだよ!●●ちゃん今年で21だって!」
静「………はあ?」
あんなガキが21なわけねぇ、チビだし、…出るとこはでてねぇし。その辺のガキと変わらねぇ。それに21ならもう少し話し方があるはずだ。臨也の前ではこんな話し方ではないと言ってはいたが、それにしても違和感がある。
新「もし君が●●の身体のことを考えてると想定していうけど、サラシ巻いてたよ。君を…殺そうとするときに邪魔だって。セルティまではいかないけど結構大きぶふぉ…っ!」
静「……他は?」
自分を殺そうとする少女、いや、女のことを何も知らないと気付いた俺は新羅の話に耳を傾ける。
新「いてて…あー、あとこれは静雄には言うなって言われてたんだけど…」
静「なんだよ、」
俺に言いたくないあたりあいつの弱点とかそんなような話だと思った。
新「なんで彼女があんなに臨也に依存するのかって話。」
静「…聞かせろ、」
新羅はまた真剣な顔になって少し眉間にシワを寄せた。どうやらそんなに明るい理由ではないらしい。
新「……暗い部屋から連れ出してくれたって言ってた。自由にしてくれたんだって、臨也が。だから…、臨也のためなら何でもするって。」
静「な、!それって…」
監禁、
そう言おうとしたときにちょうど●●が戻ってきたので、口を噤んだ。そう言うことなら臨也に過剰に依存していることも成長が遅れていることも、話し方に違和感があるのも頷ける。
『……何さっきからじろじろ見ている、平和島静雄』
静「……お前21だったんだな」
『……なんだ、私の身体を見てそう思ったのか。言っとくがなこの胸だって臨也さんのためにあるようなものだ。お前になんて使ってやるか、この童貞が』
うわー、語彙数少ないと思ってたのにそんなこと知ってるんだね…!と新羅が少し引いていた。まあ、こんなの今に始まったことではないの気にしないでおく。
新「あ、そういえば!●●ちゃん、さっき臨也から電話があってね。」
『え…臨也さんから、!』
新「うん。心配してたよ、大丈夫かって。でも今出てて迎えに行けないって言ってた。」
ノミ蟲から心配されていたことが余程嬉しかったのか●●は顔に手をあてて頬を染めていた。
こう見ると普通の女なのに、
『一人で、帰れます。お金…今度持ってきます、ごめんなさい…』
新「ああ、お金なんていい、いい!どうせ臨也が払ってくれるしね。あー、問題は帰りのことなんだけど……静雄、送ってあげて。●●のこと」
はあ?と●●と俺の声が重なった。怪我人を運ぶことに対しての声ではなく、自分のことを殺すと言う女が果たして順応に運ばれるのか疑問に対して。もちろん●●の方は俺を心底嫌がってあげた声だと思うが、
新「松葉杖がちょうどなくてさ、セルティも仕事に行っちゃったし。いいよね、静雄」
静「、俺は構わねぇけど…」
視線をずらせば明らかに嫌だという顔をしているのが新羅の隣に一名。これでもかというほど俺の方を睨んでいる。
新「ねぇ、●●ちゃん。まあ、ちょっと嫌かもしれないけどさ、ほら。一人で帰ってその途中にまた怪我したら臨也が心配しちらうよ、」
『…、心配されるのは、嬉しい……けど、臨也さんに余計に迷惑はかけたくない。から、』
新「うん。仕方なく静雄の背中に乗ってあげて?」
おい、とつっこもうと思ったが●●が素直に頷いたのを見て言うのをやめた。
そして●●に背を向ければ一度背中を蹴られたもののその後はゆっくり体重をかけてくる。
21歳だとは思えないほど軽かった。が、背中にあたる柔らかな膨らみが21歳の大人だということを確信させる。
『新羅さん、今日はありがとう。感謝している、』
新「うん、静雄をどうにかしようとするのは僕が口を出すことじゃないけど、怪我には気を付けてね。」
君は女の子だからね、なんて背中にいる●●の撫でる新羅の顔は穏やかだった。新羅は仮にも医者という立場だからか●●の扱いがうまいと思った。
新「じゃあ、静雄も。くれぐれも死なないようにね」
静「てめぇな…。まあ、ありがとな。助かった」
そう言って新羅の家を出てしばらく沈黙は続いていたが●●によってそれは破られた。
『…平和島静雄。』
静「ん?」
『私は……ガキに見えるのか』
静「……。見え…てた」
今の言い方だと俺がこいつのことを"ガキ"と言っていたことを少なからず気にしているようで。嘘をつくのには気が引けて語尾を過去形にした。
『そうか…臨也さんはガキは好きじゃないと思う…。だ、から…ガキの私は臨也さんに嫌われるかもしれない、』
首のあたりに髪が当たるから、●●は俯いているのだと分かる。いつもならこんな体制でいたら首筋を思いっきり噛まれるんだろう。が、いつになってもそんなことは起こらなかった。
静「今は見えねえって。臨也の前じゃ女っぽい口調で喋んだろ。それにほら、やめたらいいだろ。巻くのを、」
サラシを、とは言わなかったが●●には伝わったらしい。
まさかノミ蟲の話を俺を殺そうとする女とする日が来るとは、
『…お前、さっきから胸のことばかりだな。そんなに胸が好きなのか。分かった、臨也さんに報告しよう』
静「てめえ…」
言われたことは気に食わなかったが、いつもの調子に戻っているあたり先程よりは元気になったようで言い返さずに点滅している信号を見る。
『まあ、私の胸は波江さんには叶わないがな。臨也さんはたくさんの胸に囲まれながら生活しているんだ。
羨ましいだろ、平和島静雄』
静「…、」
今の一言にどう返せばいいのかよく分からず、青年は困ったように赤にかわった信号を見つめた。
誰だって結局は人の子。