BOOK!!
□____返礼。
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『っ死ね!!!』
静「……っ」
『くそ、お前から刺されにこいっ』
静「いや、なんでだよ」
『っこの…!』
静「……はあ、」
今日も今日とて俺を殺しにきたーまあ全く殺せるような兆しはないーが、今日はいつもと違うらしい。いつもならあいつが向かってくるのを軽くあしらって、何度か繰り返すと帰っていくのだが、やはり今日はいつもと違うらしい。
『今日こそ殺す!今日は臨也さんのナイフがあるからな!!』
いつもは素手で突っ込んでくるあいつは今日はノミ蟲の入れ知恵なのか、ナイフを握っていた。
静「んな危ないもん振り回すんじゃねえよ」
『っ離せバカ!』
静「じゃあお前も止まれ、」
『うるさい!』
静「…はあ」
二度目のため息をはく。首筋のあたりが少し切れた気がする。どうしたことか、俺は刃物を持つやつらにどうも"好かれるらしい"。やつらといってももうリッパーナイト以降あのような騒動はないのだが。
『っ……な!思いっきり突き立ててんだから刺され!』
静「1ミリも刺さってねえって」
『ん〜!!!』
静「あ、」
こんな風に、思い出したくもないが、ノミ蟲と同じものを使って同じような行為をされるとついこいつがごく普通の女だったということを忘れてしまう。
静「おい、言ったそばから顔、ほら右頬切れてるぞ」
『そんなこっ、と気にならなっい!!』
よりぐっとナイフを突き立て、ているつもりらしいがまあ多少かゆい程度である。こいつの動きをどう止めようか、考えていたところ今度は人差し指にぷつりと血が滲む。
ノミ蟲の野郎はいつもべたべたナイフを触ってるから自分のことを切ることはない。が、こいつは触りたての触りたてで、見てるこっちが心配になるようなたどたどしさがある。現に自分の手と頬を切っている。
静「…あー、お前が怪我して帰ったら、ノミ蟲……臨也の野郎が心配すんだろ」
『っ!』
ノミ蟲の名前を出したら今までの動きが嘘のように止まった。ナイフを握っていた手をダラリと下ろし刃の部分を中に入れ、大切そうにポケットへしまった。
『…お前にしては良いことを言うな』
静「なんか、あれか。貼るか、絆創膏とか」
『こんなん舐めときゃ治る』
そう言って●●は先ほど切れた人差し指を自分でくわえた。
静「傷が残ったら困るだろ、女なんだから」
『知らないのか、唾液には酵素が含まれてるから治療にもなる』
静「お前難しいこと知ってんだな」
ツバつけときゃ治ると言ったのは本当にらしい。そうか、本当なのか。
静「……」
『っな、!お前、首でも締める気かっ!』
静「締めねえよ、……」
『…っひゃう』
静「………」
そうは言っても自分の頬を自分で舐めることは出来ない。と、考えて屈んで●●の頬を舐めたのだが。
『っおい!』
静「…………」
いつもと違って、女みたいな声が出るのかと、こいつの襟を掴んだまま固まってしまった。
静「…あ、悪ぃ」
『………』
襟を掴んでいたのを離し、姿勢を戻して●●を見ると、俺が舐めた方の頬をおさえたままジロリとこちらを睨んで黙っている。
静「何だよ、」
『………〜っ!』
静「ん、」
ジロリと睨んだまま動かないと思ったら今度は●●の方から俺のYシャツの襟を掴んできた。
静「あ?」
●●の力で引っ張られた程度では動かないのだが、剥きだしたような殺意は感じられないし、それに従う。
チロッ
静「…な、」
気付けば首筋に顔をうずめられ、舐められていた。
『お前から施しを受けた借りを作りたくない、からだ』
静「…おう、」
屈んで、襟を掴まれたままで、顔が近いままで。そうするとふわりといい香りがする。石鹸のような、やわらかい香り。
『っいつまで近いままでいる!もう離れろ!帰る!』
じっと見て黙っていたのに耐えられなくなったのか、どんっと俺を押して踵を返し歩いて行った。襟を掴んでいたのはお前だろという言葉は飲み込んで。
忍び寄る、蝕む。