*P3P短編集(ハム子)*


□クリスマス【綾時】
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12月24日
昼休み


席に戻って携帯を開くとメールが入ってる事に気がついた。

…綾時君、からだ。


“久しぶり。今日は放課後空いてないかな?一緒にどこかいかない?”


いつも通りの軽い感じのメールだった。

いま返信しないと、もう彼と連絡が取れなくなるんじゃないかって不安に駆られて慌てて返信した。


“行く!!”


急ぎすぎてかなり短いメールだったけど、これだけちゃんと伝えられればよかった。

また彼から返信が来て、ポロニアンモールの噴水前で待ち合わせることになった。


*****

放課後
ポロニアンモール



学校が終わって1番に学校を飛び出したんじゃないかってくらいに急いでここまで来た。

イルミネーションで飾られた噴水の前に、懐かしさすら感じるマフラーが揺れた。


「綾時君!」


懐かしくて、嬉しくて…思わず抱きついていた。


「久しぶり」

「…すごく、会いたかった」

「嬉しいな。…僕もだよ」


もう泣きそう。
でも今は我慢。


「クリスマスって恋人にとっては特別な日なんでしょ?…どうしても君と過ごしたかったんだ」

「うん…私も…」

「…こんな時にごめんね」

「いいよ…そんなの」


気を取り直してイルミネーションを見て回る。
きっと彼はこんなきれいな景色も初めて見たんだと思う。


「きれいだね。街全体がキラキラしてて…君とこんな景色が見られるなんて、幸せだな」


イルミネーションの光を背に笑う綾時君が一瞬ファルロスに見えて、彼が同一人物なんだと思い知らされる。


「そうだ。君に渡したいものがあったんだ」


噴水近くのベンチに座るように促された。


「目…閉じて」


言われるままに目を閉じるとガサガサと音がして…首に何かが触れた。


「もう目を開けていいよ」

「……!」


赤いマフラー。どうしよう、すごくかわいい。


「ありがとう!大切にするね」

「そんなに喜んでくれるなんて嬉しいな」


綾時君はちょっと照れている。


「私もプレゼントあるんだ」

「…僕に?」

「綾時君と付き合った時からずっと渡そうと思ってたの」


あの時はこんなことになるなんて思ってなかった。

彼と会えなくなってからも作ることをやめられなかった手袋を渡す。


「指のとこちょっと変なとこもあるけど…結構うまくできたんだよ?」

「…ありがとう」


綾時君は手袋をつけてみせ、イルミネーションに手をかざす。


「あったかいね」

「手袋するだけで全然違うでしょ?」

「うん」


握ったり開いたりしていた彼が私に向き直り…手袋をつけた両手で顔を挟まれた。


「…あったかい?」

「うん」


彼との距離が近くて恥ずかしい。
視線を外すと名前を呼ばれた。


「もう1回目を閉じて」

「…?うん」


今度は何なんだろうと目を閉じる。

…唇に何かが触れた。
これって…

驚いて目を開くと、ほぼ同時に目の前の彼の目も開いた。
体が離れてやっとよく見えた綾時君は悪戯っぽく笑っている。


「僕にそんなに許しちゃダメだよって言ったでしょ?」

「も…もう!」


綾時君と遅くまで一緒に過ごした。


*****


「もう帰らないといけない時間だね」


もっと一緒に居たいのに。


「…うん」

「またすぐに会えるよ。君と今日、過ごせてよかった」

「私もだよ。綾時君…あのね…」

「…?」


私の挙動不審な様子に綾時君は首をかしげている。
でも、今伝えなくちゃ。


「だ、大好き」

「……!!」


綾時君の顔が真っ赤になっている。
なんだか新鮮かも…


「ありがとう。本当に嬉しいよ…」

「えっと…どういたし…てっ」


つられて照れているところで彼にきつく抱きしめられる。


「ずっとこんな時間が続けばいいのに…本当にごめんね」

「…綾時君が悪いんじゃないよ」

「31日には全部終わるから…ね?」

「うん」


…彼の体がゆっくり離れていく。


「じゃ…またね」

「うん、またね」


綾時君はイルミネーションの光も届かない路地裏へと消えていった。













「…君を殺すなんてできないよ…」

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