*P3P長編(キタ&ハム兄妹編)*
□2009.11前編
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11月2日(月)
朝
月光館学園
「おはよう、有里くん」
「おはよう」
ひさしぶりに朝から風花と一緒になった。
風花は心なしか表情が固い。
「…いよいよ明日ですね」
「だな」
「寮の皆さんもピリピリしていますし…と、とにかく落ち着いて、いつも通り頑張りましょう!」
「…風花もな」
「えっ…あ、は、はいっ…!」
***
夜
巌戸台分寮
1階ラウンジ
仲間が全員集まっている。
今日は幾月さんはいない。
…当たり前だが、荒垣先輩もいない。
先輩のいた席にはいつも立っていたアイギスが座っている。
「いよいよ明日ですね…」
「半年とちょっと…長かったようであっという間だったね」
「…色々あったな」
「楽しいことからきっついことまで…ぜーんぶ経験させられたよな」
「…うん。予想外の事ばっかだったね」
二年生メンバーがポツポツと話し始める。
この半年…本当に色々な事があった。
“命がけの戦い”なんて自分がやる事も、“命”について考えさせられるとも思わなかった。
「“力”を得て2年半…長かったがついに終わるんだな」
真田先輩はどこか感慨深げな様子だ。
「真田さん、2年半ってすごく長いっすね…てか桐条先輩はもっとか…」
「それならアイギスもじゃない?影時間ができる前からだし…」
「私は眠っていたので実稼働は極めて短いであります。なので先輩方の方が経験豊富かと思われます」
「…私は幼い時から影時間に適性があったからな…。タルタロスにお父様と一緒に行った際にペルソナ能力に目覚めたんだ。私は安定制御下でペルソナを召喚できた最初の例だったらしい」
桐条先輩がペルソナ使いとしての最初の例…
そこからこの仲間たちが来るまで、きっといろいろな実験の被験者にされたんだろう。
先輩はそんなことなど全く触れず、申し訳なさそうな表情で俯いた。
「…もっとも、私が力を覚醒させなければこんな事にはならなかったのかもしれないが…」
「美鶴がやらなくても誰かがやったさ。とにかくここまで来たんだ。明日、俺達はシャドウを倒す。ストレガが邪魔するようならストレガも倒す…あいつらにはシンジの件で死ぬほどお礼をしたいところだからな」
「…そうですね。頑張りましょう」
最後の大型シャドウとの戦いを前に仲間たちがひとつになっていくような気がした。
***
会議終了後
みなラウンジで話したり食堂で夕食をとったりしている。
だがゆかりの姿がない。
ゆかりを探して上の階へと行ってみた。
***
2階ロビー
「…ここにいたのか」
「…湊…君」
ロビーの椅子に座るゆかりの表情はどこか暗い。
隣に座ってよくよく見たが、緊張しているのとは違うようだ。
「怖い?」
「…うぅん、違うの。明日最後のシャドウを倒せたとしても…さ…」
「倒せたとしても?」
「お父さんのしたことってなくなるわけじゃないでしょ?あの事故で亡くなった人たちは戻ってこない。…罪は消えないよ」
「……」
…ゆかりはそんなことを考えていたのか。
「私…お父さんの何を信じればいいのかな…」
「全部じゃなくていい。ゆかりの知っているお父さんを信じればいいと思う」
「…え…」
「最悪の事態を避ける方法は遺してくれた優しい人だよ…大丈夫」
「…不思議だよね。湊君が大丈夫って言うと本当に大丈夫な気がする。…私、頑張るよ」
「無理させるつもりはないよ。ゆかりは大切な人だから」
「…ッ!ま、またそんなこと言って…シスコンの湊君はどこ行っちゃったのよ?最初のころは結衣さえ守れればそれでいいって感じだったじゃない」
「まあ…それ以外はどうでもいいって思ってた」
「ハハ…なんか、ホント変わったよね」
「…結衣だけを守っていても結衣も僕も幸せにはなれない。いつまでも2人で生きている訳じゃないって気づいたから」
「湊君…」
「とりあえず…ゆかりはどうでもよくない」
真っ赤になったゆかりに部屋へと誘われた。
…長い間ゆかりと過ごした。
…もう少しで、わかる気がする。
どう守って、何を覚悟するべきなのかが…
僕の“答え”が。