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「ど、どうしよう…!」

「落ち着いて…」

男はどんどんこちらに近づいてくる。僕たちも手探りで進むが距離は縮まるばかり。半泣きに近い状態でバンくんにつかまった。

「ジン、おれがおとりに…」

「みーつけた。」

「「!!!?」」

男が近くにいた僕を松葉杖で殴った。すごい衝撃と痛みに僕は息が詰まった。動けなくてうずくまったら男が僕の足をつかんで宙ぶらりんにした。なぜか今あの時の記憶と重なった。ご主人様にもこうされた……。

「あ…ぁあぁあぁああ…」

「よくもやってくれたな…俺の人生めちゃくちゃにしやがって…」

「ジンを離せ…」

「うっせー黙ってろ!!!」

男は松葉杖をまた振り回すとバンくんにあてた。当たり所が悪かったのかバンくんはその場に倒れしまった。僕はフラッシュバックと現実に訳が分からなくなってただひどくわめいた。

「うるせーよ…」

男は松葉杖を捨てると僕の服をはいだ。そいて耳元でこうつぶやいた。「殴り殺されるのと、おかされるのどっちがいい?」死にたかった。本当に死にたかった。だけど僕が死んだらバンくんは…?早く病院に連れて行かないと…死んじゃったらどうしよう…。それに次はきっとバンくんの番だ。すこしでも時間を稼がなきゃ。

「お…犯してみろ…そんな、勇気もないくせに…!!」

震える声が情けなさすぎて自嘲的な笑みが出た。しかしそれが良かったのか悪かったのか男の癪に障ったらしい。男は僕をおろし、組み敷くと、まだ触りもしないつぼみに指を突っ込んだ。ご主人様と離れてから一度も使っていなかったそこはまた固く閉ざされていて、叫ばなくてもいいような痛みでは済まなかった。

「ひっ…!!あっあああぁあぁぁああああ!!!!」

「お前入口はかたいくせに中はどろどろじゃねーか」

男が胸にかみつく。しかしその痛みは感じない。後ろが痛すぎるのだ。僕は何とか痛みをごまかそうと動き回るが、手錠が邪魔をする。

「おら…体中痕まみれにしてやるよ」

かみついたり吸い付いたり、しかし後ろは休まらず、僕はまた暗い闇に堕ちていく感覚に陥った。あの時と一緒。そしてさらに汚い身体になりつつある。僕はもう普通じゃないから。バンくんの影として…生きて生きてそして…。その時思考が停止するかと思うくらいの痛みが走った。男の自身をいれられたのだ。息が詰まる。苦しい、吐き気が止まらない。

「あ…ぁ…ぅぁ…」

「お前最高だな…キツくてマジとれちまいそう」

「け……て…………ぁ…す…け……」

助けてすらまともに言えなくて。男は腰を振りながらもキスマークや噛み跡を残すのを忘れない。それも消えないようなやつを。死んでしまいそう、どうにかなってしまいそう。やっぱり殴り殺してもらえばよかった。僕はなんでこんなことしてるんだっけ…。思考回路がショートして僕自身何を考えているのかわからなくなった。ただ頭を巡るのはご主人様に嬲られたあの日々と目と感覚が訴えてくる現実だ。おじさんと過ごしたあの幸せな日々ならどれだけよかったか。僕はただ恐怖にしばりつけられ、声も出なくなった。体がしびれたように動かない。フラッシュバックと現実の映像、今はただそれだけだった。




side バン

起きないといけない気がして目が覚めた。お腹に鈍い痛みが走る。そうだ、俺あの男に松葉杖で殴られたんだ。それで気を失ったのか…。まだ起き上がれないから眼だけでジンを探す。

「ジ……ン……………?」

まだ少しぼやける視界に腹立たしさを感じながら俺は周りをできる限り見た。パッと後ろを向くと男がいた。ドキッと心臓が跳ねた。まだ、いただなんて。待て、男がここにいるのはなぜだ。ジンも松葉杖で殴られたんじゃないのか?トラックに戻して運ぶはずなのに。それなのに、なぜ、ここにいる。少し考えてから俺は頭から血がサァッと引いていくのが分かった。ジンは今…また…。

「ひ…………ぐっ……ぁ………」

喘ぎ喘ぎ伝わってくるジンの声。きっともう挿れられている。苦しいのが声でわかる。きっとジンのことだからまた俺をかばったんだ。そのせいでジンは………。
なんだか俺の中の血がのたうつ感覚がした。酷く冷静になっていくのがわかる。ただ心臓はものすごい速さで動いている。これは………殺戮衝動。

俺は手錠の金属音を鳴らさないようにその辺にあった岩というには少し小さい石を取った。そして男の背後に気付かれないように回った。男は夢中でジンを犯している。体中に痕を付けまくり腰を振り続けている。ジン酷く汚い言葉を吐き捨てながら。俺は唯一の理性が途切れた気がした。人が野生に戻るときってこんな感じなんだ。俺はもう人間じゃない…。
フッとかかげた石を男の頭めがけて振り下ろした。男は悲鳴をあげながら横に手をついた。ジンから引き抜くと、こちらを見据えた。でも俺はもう何も怖くなかった。今の俺は人間ではなかったからだ。男はよろけて立ち上がれないのか、そばにあった松葉杖を手に取った。だけど俺にはその振り回す間妻杖さえスローに見えて。よけながら僕は男を突き飛ばしマウントポジションについた。こんなにも体格差があり、大人と子供なのに、男は反抗一つできない。一発目に殴ったのが聞いているんだろうか。俺はまた石で殴った。気が済むまで、何回も…何回も……。

殴っているうちに男の動きが止まった。そして俺はだれかに強く引っ張られた。キッとそちらを見るとジンだ。ジンが泣いている。なんで?俺が助けてあげたのに。ジンに酷いことをする奴はもういないんだよ?ごめんごめんと謝るジンに俺は理解ができなかった。ジンが泣き続けて、俺は何の感情ももたないような目で、ただジンを抱きしめていた。

「バンくん…バンくん…ごめんね…ごめんね…」

「ジン…?どうして泣いてるの…?」

「僕が弱いから…バンくんに…こんなこと…」

こんなこと…?俺、ただジンを守っただけだよ。そんなに悲しまないで。おじさんにお金も入った。あとはどこか知らない街で二人で暮らそうよ。孤児院でもいいじゃないか。ご飯があって、寝る場所があって、俺たち二人がいればそれでいいじゃないか。ね、ジンはそうじゃないの…?

「バンくん……元に戻ってよ……!」

ジンが俺をぎゅっと抱きしめた時、何かが吸い取られていく感じがした。実際には何も吸い取られていないのだろうけど、ただ落ち着いた。ジンのぬくもりに触れたからだろうか。そのあと俺は正気を取り戻した。そして自分がやったことに驚いた。

「俺……なんて、こと…」

「バンくん……ごめん…」

俺は人を殺した。人殺し。いくら悪い奴だからって、こんなの許されるわけがない。俺は全身の力が抜けていくのを感じた。この人はもう立ち上がらない、息もしない。それはすべて俺のせいで。

「バンくん…助けてくれてありがとう…」

「ジン、俺そんな場合じゃ…」

「バンくん、ばれなければいいんだよ…」

その声にハッとした。なんて感情のこもってない声なのだろう。さっきまで泣いていたのに。パッとジンの方を見るとジンはボロボロで、犯されていた現実を物語っている。纏っていた服を探すと近くに落ちていたからそれを着せる。目はこれでもかというほど濁っていた。また、この前に戻っちゃたね。ごめんね…。

「バンくんは何も悪くないよ…正当防衛…」

「正当防衛……」

「ここから僕たちが居たって言うことを消そう」

ジンが犯されていたところに新しい砂をかける。汗や体液でばれたらどうしようもない。俺が殴った石はきれいに拭いて砂をまぶせた。男の足元に石を置いて頭の上にも殴った石を置いた。まるで事故で死んだかのように見せかける。こんな山奥に警察なんて来ないし、大きく道を外れているから気づく人なんかいないだろう。それにきっといつかこの死体はなくなる。クマが食べてくれるかもしれないし、腐って大地に戻るかもしれない。そこまでやってハッとする。俺は…本当に殺人者だ…。

「ジン、やっぱ俺……」

「バンくん、僕を独りにするの…?」

ああ、本当に壊れてしまったんだ…。なぜかそう感じた。男の懐から手しょうの鍵を盗んで、手錠を外す。そしてジンの手を引いて川に向かう。体を洗ってから街に出よう。川でジンの服を脱がせた。そして体を見た瞬間俺も、ジンも固まる。


「これ…」

「ぁ…汚い…よね、ごめん、自分で洗うから」

ジンの体にはもう消えないような跡がびっしりと刻まれていた。また怒りがこみ上げたが、何とか抑える。泣きそうなジンにふとささやいた。

「ジン、俺はどんなジンでも好きだよ」

「バンくん…」

「まもれなくてごめんね…」

冷たい水で体を洗う。服も洗った。そして乾いたころ俺たちは街を目指して歩き始めた。

「お腹すいたね…」

「うん…」

もう何日も何も食べてない。街にはまだつかないのだろうか。あれから歩き続けてやっと舗装された道に出た。車は一台も通らない。その時後ろから俺たちが乗っていたトラックが走ってきた。まさかと思って目を凝らす。するとあのお兄さんが乗っていたのだ。

「よお坊主、じゃなかった、バン、ジン」

「お兄さん…!」

これにはジンもびっくりしたのか表情が緩んだ。こうしていつかもとのジンに戻ってほしいな。俺は自分の目も濁っていることになんか気づかず微笑んだ。

「町までだろ?乗ってけよ!食料もあるぞ!」

そう言われて乗り込まないやつがいるだろうか。俺たちはすぐに乗り込んで町に向かった。そしてお兄さんにこれまでのことを話した。二人で抱えるにはどうしても大きすぎた。お兄さんなら信用できると思ったから。でも案の定お兄さんは真剣に聞いてくれた。

「そうか…そんなことが…」

「俺どうしたら…」

「俺に任せろ…死体は何とかしてやる」

「え?」

「だから、殺人はなかったことにしておくって!」

俺は耳を疑った。俺がしたこと、なしになるの…?お兄さんはどうやってあの死体を処理するつもりなの?聞きたいことが浮かびすぎて上手く口から出てこない。そうしたらジンが横から口を挟んだ。

「バンくんの罪、消えるんですか…?」

「そういうことだな、バンが話さなければ」

「良かったね…バンくん」

「う、うん…!」

俺のしたことの事実はなくなったけど、罪は消えないんだよ。そう言えたら誰だけ楽か、でもジンには言えない。言ったら今より壊れてしまいそうで、俺はなんだか泣きそうになった。

「着いたぞ、俺はさっそく処理してくる」

「本当にありがとうございます!」

「じゃあまたな」

お兄さんとはそこで別れた。俺たちはこれからどうしようか。とりあえず路地で落ち着こう。ジンの手を引いて路地に入る。そして座り込む。そうしてできるだけ明るく「やっと着いたね、俺たちここまで逃げてこれたんだよ…」と言った。ジンはなぜかうかない表情をしている。

「バンくん、ぼくら、どうなる、の」

「ジン…とりあえず俺がなんとか食料貰ってくるよ」

下手に出れば何とかなるだろうと想像する。市場に行って、お母さんとはぐれたとか何とか言って同情を買って、お腹すいたの…なんていえば何かくれるだろう。腹黒いとは感じるが生きていくためには仕方ないだろう。

「僕も行く…ひとりに、しないで」

「ジン…」

その表情も雰囲気もまるであのご主人様のところを出た時だ。きっと思い出している。昨日あったことでフラッシュバックしているだろう。昨日やられたことよりご主人様の記憶がきっと頭を支配している。昨日のことはもうジンの中でなかったことになっているかもしれない。俺が無事だから…。

「いこう」

そうして俺たちは市場に出た。そして話しかけてくる大人全員に同じ対応をした。

「お母さんと、はぐれちゃって、お腹すいてぇ…」

へらへらと笑顔を振りまく。ジンは男に話しかけられるたびにビクリと肩を揺らす。そういう態度が加虐心を煽ると気づくのはまだ先だろう。きっと今ジンに言っても治ることじゃないだろう。

「大丈夫かい?」

また人のよさそうなのが来た。お決まりの困ったような笑顔と台詞。俺が前で対応しているとおじさんはジンにも話しかけた。焦ってジンの方を見るが、ジンは感情を押し殺しているのか淡々と答える。

「そうかそうか、これでも食べながらお母さんを探しな」

おじさんは今買ってきたであろうリンゴを俺たちに差し出すと手を振って歩いて行った。ジンに大丈夫?と聞くと
ろじにもどるというからすぐ路地に戻った。

「僕、話せてた…?」

「うん、でも無理に話さなくていいから。俺が全部話してあげるから」

「ありがとう…」

それからジンは必要最低限しか話さなくなった。話すと怖いんだそうだ。何かが溢れ出してくるらしい。俺は必殺のへらへら笑いと猫かぶりがあるか大丈夫だよ。だいぶ身についてきて、本当の俺が埋もれちゃうくらい。

「さ、今日も市場いこう」

「うん」

そうして市場に出た。でも今日はいつもとちょっと違った。変なことになってしまった。こんなはずじゃなかったのに。

「お前ら、親いないのか…?」

急に話しかけられた言葉に俺は対応しきれなかったが、すぐにへらっと笑った。するとその男は来いと一言言って歩き始めた。ご飯でもくれるのかと思ってついて行ったのが間違いだった。

「なんかついてきた」

「どうせものでもやったんだろう」

男が三人何か話し合っている。ついて来いと言ったのはあの男のはずだ。ジンを見るととても困惑した顔をしていた。それもそうか。ここで暮らせとか言われたらまたあんな生活が待っているかもしれないからね。

「また、ご飯のたびに、奉仕するの…?」

震える声で聞かれて俺もそうかもしれないと思った。でも、なんとしてでもジンを守らなきゃ。この時ジンも同じ気持ちなのは見て取れた。




過去編終わり
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