裏TEXT

□例えばそれは
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それは例えば、



闇。









世界が遮断されている。闇が笑いかけてきて非道く不快だ。いや、そんな気がする。

痛め付けられた身体が悲鳴を上げるように軋んだ。手足にはまだ安っぽい縄が絡み付いていて、その雑な造りだからか肌に血を滲ませ続けている。
血など躯の至る所に滲むどころか流れていて、手足の血など可愛いものだと笑いたくなった。
闇に飲み込まれそうだ、いや、いっそ飲み込まれてしまいたい。飲み込まれて闇に溶け堕ちて消えてしまえばどんなに楽になるだろう。と、笑いたくなった。

『お前の考える事ななんて全てが手に取るように解る』

「ゃ、だっ……ひっ」

ごつごつした張り型がお尻の穴に突き入れられその突然の衝撃と刺激に何度もイく。さっきまで嫌という程犯されたからか知らないが僕の性器からは少量の精液しか出なかった。ように思う。

真っ黒い布が視界を遮断しているから全ては推測でしか無い。

「っ…もう、止めて……抜いて、…やっ!」

いくら言ったってこの人には通じない。張り型を乱暴に出し入れして僕の抵抗する声さえ掻き消す。

視覚を奪われた事で他の感覚はより優れるから余計に苛々する。ぐちゃぐちゃと耳に付く音も内壁を擦り付ける張り型の存在も。それに伴い嫌でも感じる快感も。全てが鮮明になって吐気がする。

『くっ……変態め…』

「……あぁっ!…も、ぁッ…」

『…けど、一つ理解出来ない事がある』

粘着質な動きは止まる亊を知らず執拗に嬲るように蠢く。早く終れと願えば願う程それは叶わない願いとなるようだった。

『なんで海道義光が死んだ時、表情一つ変えなかった?』

何故こんな時にそんな事を聞くのかその意図が理解出来ずにいた。こいつに聞かれる筋合いは無い。

苛々する。

それよりも押し寄せて来る快感が邪魔をして、思考が定まらない。きっと最初に飲まされた薬のせいだ。

「んっ、ぁ…知らな、っ…やめっ、ぁ…」
 
『押し殺していたとは思えないし…』

「あぁっ!!……、早く…終れ、」

『…どうした?やめて。はもう言わないのか?』

こいつの声なんてもう雑音にしか聞こえない。五月蝿い、騒々しい。あの人の名を出して僕を揺さぶろうなんてくだらない。
この人の全てが終れとそう願っただけの事。

ずるり、と汚れた張り型が引き抜かれその衝撃に飽きもせず女のような声を出す僕。この人が終るなら僕も終ってしまった方がいい。
いつから僕はこんなになってしまったんだろう。御祖父様が居ない世界はこの目隠しが無くても生きている事さえ不自由だ。

けれど、そう、御祖父様が死んでしまった時、確かに僕は何も考えられ無かった。レックスの言葉だけが鮮明に蘇り目眩がする。

『おい寝るなよ、まだ終りじゃない』

「いゔっ!…嫌っ、やめっ…」
 
先程まで張り型が突っ込まれていた尻穴に今度は汚らわしい男性器。
目眩がする。
吐気がする。
苛々する。
気分が悪い。
感情は無い、
ただ生理的な拒絶が非道い。腰を打ち付けられる度に憎悪が増して、御祖父様に褒められる事が僕にとって一番嬉しかったことを思い出す。

「あっ、あっ!…うあっ、ぁ…」

『なんだ…泣いているのか?』

乱暴に目隠しを取られれば急に世界が開けて眩しさに付いていけない。ゆっくり瞬きをすると、確かに涙が落ちた。

『今頃弔いか…、精が出るな』

「違うっ!、ちが…んんっあ…ゃっ」

馬鹿にするような言葉に殺意が芽生えた。抑えきれなかった感情が殺意なんて可笑しい。

「あっ、あぁっ…ひぁ!!」

ぐちゃぐちゃと淫猥な音が激しくなり快感もまた押し寄せてくる。感情が殺せるのならば欲求さえも殺せれば良かったのに。
僕はまた、精液を吐き出す。それはもう透明で先走るそれと何も変わらなかった。

『…また付き合えよ、海道ジン。』
 
僕の髪を掴み、そう吐き棄てると口元を歪ませて笑った。

これは罪だ。御祖父様に何も出来なかった僕はこれから永遠に御祖父様との思い出に照らされながら真っ暗な世界の中で生きていく。

罪深いと笑って、汚らわしいと笑って、ねぇ。言ってよ。





それは例えば、








牢獄。

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