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□モブとジンくんのお話
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A国で僕はマンションを借りていた。どうせ留学だし、また日本の戻ろうと考えていたからだ。そのためにじいやに借りてもらった。それに一人で何でもできるようになりたいし、勉強するためにここにきているのだ。広い空間なんていらない。掃除などの家事も僕一人でやらないといけない。だから僕が生活できるスペースさえあればいい。海道邸に比べれば少し圧迫感を感じるが、A国に来てはや2か月。大分こっちの生活にも慣れてきた。

「ジンくん!」

「あ、はい!」

となりのお兄さんだ。お兄さんはこの近くの大学に通っているらしくて、そのためにここを借りたらしい。よく面倒も見てもらっているし、優しそうな雰囲気で、顔もかっこいい部類に入るんじゃないかと思う。料理を作ってもらったりするし、きっとモテるのだろう。この前好きア人ができたと言っていたが…。まぁ、しかし外国人だけあって身なりは大きい。僕の体に合わせたこの部屋は窮屈だそうだ。一度お兄さんの家にも行ってみたい。頑なに入らせてはくれないが…。

「今日も作りすぎちゃって…良かったら食べて」

「ありがとうございます。いつもすみません」

「気にしないで!ジンくんはこの年で一人暮らしなんだから年上が面倒見るのは当たり前だよ」

「ありがとうございます」

「うん、じゃあまたね」

「はい」

いい匂いの漂うお皿とタッパを渡され、お兄さんは自分の家に入っていった。いつも申し訳ないな。しかしもうすぐ晩御飯の時間だ。少し勉強してからいただくとしようか。お皿とタッパを机に置いて僕は参考書を開いた。あ、トリトーンのメンテナンスもやらないと。ご飯を食べてからしようか。


勉強もひと段落つき、僕はもらったご飯を食べ始めた。美味しい。家庭的な味が口に広がる。留学中といっても最長期。もぐもぐと平らげていく。その時舌に違和感が。あ、髪の毛が……。お兄さんのだと思われるブロンズの髪が口から出てきた。手作りだからこそこういうことが起こるのかな…なんて考えながらも特に気にせず僕は夕食を終えた。

さぁお風呂に入って今日はもう寝よう。日本は今昼くらいだろうか。バンくん…彼は元気にしているのだろうか。僕か関係を立ち切ったのだから連絡をとれないのは当たり前だがふとした瞬間会いたいと思うのは僕が彼に依存していたからかもしれない。それを直したくてここに来たと言っても嘘にはならないんじゃないだろうか。
そう思いながらもう日課になりつつある就寝前の読書を終え、ベッドにもぐりこんだ。サイドランプを消して僕は明日に備えて眠った。明日は確か1時間目から体育だ。しっかり寝ておかないと……。



そして翌日。僕は学校に出かけた。朝ごはんを抜いてしまうのはよくないとわかっていながらも低血圧の僕には朝が辛く、いつも時間が無くなってしまうのだ。今日もそれは例外ではなく、朝ご飯を食べずに家を出た。A国の朝は寒い。しかし清々しいくらい澄んだ空気が僕は好きだ。少し上機嫌でバス停に向かう。いつもその途中でおじさんに会う。金髪で、少し拓也さんに似ているなーなんて思ったりした。僕くらいの娘がいるらしい。今日もそのおじさんは僕が来るのを見計らったように現れる。

「おはよう」

「おはようございます」

「今日はちゃんとご飯を食べたかい?」

「いえ…時間がなくて」

この前、バスが来るのが遅くて、少し待ちぼうけをしていると、いつも会うなぁ。と思っていたおじさんが喋りかけてきた。僕は最初こそ身構えたものの、話しているうちに悪くない人みたいだし、僕と同じくらいの娘を持っているということに親近感がわいた。それからは毎日話す仲になった。

「ダメじゃないか…ほら、これ余分に買ってしまったからあげるよ。バスで食べなさい」

「そんな…いつもいつも」

そう。少し前に、いつも朝ごはんは時間がなくて抜いていると話したら、体に悪いと注意され(なんだかお父さんみたいで嬉しかった)、それから僕の分の朝ごはんを持ってきてくれるようになった。申し訳ないし、どうすればいいかわからなかったが。おじさんは優しい顔で食べてくれ。と言ってきたから僕は甘えてサンドイッチを頬張った。美味しいそれに美味しいと言うとおじさんは嬉しそうな顔をした。そして、毎日朝食を届けてくれるようになった。なんだか申し訳ない。それに一人で何でもできるようにと決めていたのに、隣のお兄さんからおじさんからすごく助けてもらっている。もうすこしちゃんとしないと…。

「いいんだよ、もう見知らぬ仲って訳じゃないだろう」

「すみません。ありがとうございます」

「いや、いいんだ。また明日ね」

「はい」

そう言っておじさんは角を曲がっていった。一体何の仕事をしているんだろう。きれいなスーツを着ていたから偉い人かもしれない。そんなことを考えていたらバスがやってきた。僕は空調が聞いたそれに乗り込むと椅子に座っておじさんにもらった朝食を摂りはじめた。うん。美味しい。

「おはようジン」

「ああ、おはよう」

学校について、席に着く。少し授業の予習をして。みんなそうだ。挨拶しかかわさない。バンくんたちと学校に行っていた時の学校は賑やかだったと頬を綻ばせたが、それも忙しないチャイムによってかき消された。

「授業はじめるぞー」



こんな毎日。ずっと。留学してから。代わり映えはない。ただ同じ日を送って、ただ勉強だけしているような、そんな平和と言えば平和な日々だった。そんなある日、何も前兆はなかったはずだ。僕はもう、戻れないかもしれない。
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