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□天性の弱虫さ
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「ユウヤ、調子はどうだ」

カララ…と病室のドアが開いていつもお見舞いに来てくれる見知った顔が見えた。毎日変わる花束に心を躍らせながら僕は起き上がった。あの暴走から目覚めた当初からは随分時間が経って、それに従うように体調も良くなった。今は病院内を歩いて回れるくらいだ。

「あ、ジンくん。今日は気分もいいよ」

そうか。よかった。ジンくんはそう言うと、いつも座る丸椅子を壁際からとってきて僕の隣に座った。黒いジャケット、紫のライン。いつもの、そんな何も変わらないひと時。でも、今日は違った。この僕にとっては当たり前である日々が崩れようとしていた。

「ユウヤ、ここに僕が来るのは今日で最後だ」

「…え?」

酷く動揺した。なんで?ジンくんはもう僕のところに来なくなってしまう。僕は見捨てられたんだろうか。なら僕は、僕は誰に頼ればいいの。大きな不安が心を掠ってまた手が震えてきた。

「留学するんだ。A国に」

ジンくんが、暖かいとは言えないようなそんな手で、震える僕の手をすくい取ってくれた。留学…?外国に行っちゃうの?ジンくんとはもう会えないの?僕はどうしたらいいの?わけがわからなくなって過呼吸になりかけた僕をジン君は優しく抱きしめてくれた。

「まだ…早いとは思うんだがこれと、これ」

落ち着いた僕を離してジンくんが手渡してくれたのは小さなロボット。それと手紙。僕はそれを受け取る。なんだか読む気になれなくて手紙はサイドテーブルにおいた。そしてそのロボットを手の上に乗せる。

「それはリュウビというLBXだ。ユウヤが回復したら使ってくれ。そしていつかバトルをしよう」

「いいの…?」

「ああ、好きに使ってくれ」

これがジンくんにもらったお花以外の最初のプレゼント。大事にしよう。そう思ってベッドの上の棚に置いてもらった。こうすればいつでもジンくんにもらったリュウビを見れるでしょう?ジンくんにありがとうとお礼を言って、他愛ない話をする。そしてジンくんが帰る時、いつもの確認をする。今回はもう長い間会えなくなってしまうとわかっていたから丁寧に。

「ジンくんは僕のこと好き?」

「ああ、好きだよ」

「一人にしないよね?」

「ああ、一人にしない」

「……忘れないでね」

「ああ」

そう言って軽いキスをしてジンくんは病室を出て行った。そして僕は甘い香りのする花束のとなりで泣いた。ジンくんに貰った未開封の手紙を握りしめて。




それから1ヶ月が経った。最初の方こそジンくんが来るような気がしてずっと待ってたりして、寂しかった。でもじいやさんが来てお世話をしてくれたり、ジンくんの細かい気遣いに温かみを感じたし、自立するためにはいつまでもジンくんに依存していてはダメだと頑張れるようになった。そしてジンくんからの手紙を読もうと決意した。丁寧に封を切って、彼らしい几帳面な字の詰まった紙に目を通す。

「ジンくん…会いたいな…」

内容は僕を心配するようなものばかりで少し笑みがこぼれた。僕って愛されてるなぁ…なんて。伸びてきた髪の毛をまとめて、2枚目にも目を通した。退院したらじいやに言ってシーカーで保護してもらうこと。(話はもう付けてあるってすごいなぁ)、いつでもいいと拓也さんは言ってくれてるってなんだか嬉しいな。マイペースでいいんだ。最後の方に、住所が書いてあった。向こう、A国のジンくんのおうちの住所。行ってもいいってことかな?でも、僕は自立するって決めた。だからここに行く時は僕が君の力になれる時だ。でも、手紙くらいはいいよね…ジンくん。

「じいやさん、ジンくんに手紙が書きたいんだ」

「では今すぐ紙とペンをお持ちします」

じいやさんが部屋を出てから僕は、手紙に何を書くかを考えた。ジンくんは元気かな。もうあっちの生活には慣れたかな。ああでもジンくんのくれた手紙への返事もしないと。これは長くなりそうだ。僕は髪をくくり直して、じいやさんの持ってきてくれた紙とペンを受け取って手紙を書き始めた。

「ジンくんは…」

まだ字を書く事には慣れてないけど、僕なりに一生懸命、伝えたい言葉を選ぶようにして書いた。それがなんだかドキドキワクワクして、気持ちを伝えられることが嬉しかった。手紙だけど、本人に直接言うわけじゃないけど、ジンくんと繋がれているのも嬉しかった。僕は時間が経つのも忘れて手紙を綴った。この気持ちがジンくんに届けばいいな。

「じいやさん!できたよ!」

「ではじいやが封筒に入れて出しておきますね」

「うん!ありがとう!」

「ユウヤさん、食事の時間ですので」

「わかった!」

その日一日。僕は幸せでいっぱいだった。あの手紙はいつジンくんのもとに届くだろう。外国だからなぁ…きっと時間がかかるんだ。でもジンくんは必ず返事をくれる。次はもっとうまく手紙が書けるように明日から少しずつ練習しようかな。


そして何日か経ったある日、じいやさんからジンくんの手紙が届いたと僕に手紙が差し出された。その時は嬉しくて嬉しくてすぐに封を切れなかったよ。ジンくんは僕の手紙を読んでくれて、それに返事を書いてくれた。それってすごく嬉しい!
しばらく封を切っていない手紙を見つめて、心がポカポカしてきたのを感じると丁寧に封を切った。その中には2枚の手紙と写真が入っていた。繊細な字を目で追う。

「じいやさん、ジンくんねあっちでたくさんのお友達ができたんだって」

自分の心が急激に冷えていくことがわかる。嫌だな、ジンくんの手紙を見てるのに。こんな気持ちになるなんて。

「そうですか」

「あっちはすごくいい所なんだって」

「そうですか、また行ってみましょうね」

「……うん…」

たくさんの友達が出来た。という知らせ。また、すごくいいところだからまたユウヤを招待したいと言ってくれた。でも、ジンくんにたくさんの友達ができると同時に僕の居場所がジンくんの心の中からなくなってしまいそうで、不安になった。ジンくんは僕のこと、好きだよね…?

「あ……」

封筒から出てきた写真はA国の風景とか、街の様子とか、誰が撮ったかもわからないジンくんの写真とか、みんなの輪の中にあるジンくん。言いようもない不安で写真を全部じいやさんに預けた。ここに僕は入れない。僕の居場所はあっちにない。なんで?ずるい、あっちにいる人たちはジンくんと普段どんなことをしてるの。僕とジンくんは君たち以上の関係で結ばれているのに。きゅっと握りしめていた拳を見て、ああこれが嫉妬という気持ちなのかもしれないと、まだよくわからない頭で考えた。もう、ジンくんなんて忘れた方がいいのかも。

「ユウヤ様?」

「ジンくんも…頑張ってるんだよね……だから、僕も頑張らなきゃ」

本当に笑えてたかはわからなかったけど、じいやさんは僕に何も言わなかった。さあ、今日はリュウビのメンテナンスをしてタイニーオービット社の拓也さんのところまで顔を出しに行ってみよう。僕は僕の居場所を作らないと。


そしてその日の夜、一人病室のベッドの上で座り込む。

「…………」

ジンくん、君は留学するほど頭がいいし、とても優しいからすぐに友達もできる。自分の意思も持ってるし、何より見せない情熱が本当に人を惹くものがある。それに比べて僕は、まだ何もわからないし、君から僕の居場所がなくなっただけで、強い嫉妬をしてしまう。ねぇジンくん。君と僕とのこの埋まらない差はどうやったら埋められるのかな。
こんなことを考えていることはジンくんに知られたくない。でもちょっと気づいて欲しい。わがままだとは思う。でも心配するだろうから手紙には書かないよ。少し体調が悪くても元気だと書くし、会いたくても会いたいとは書かない。

「じいやさん、この手紙、だしておいてくれないかな」

「わかりました」

こんなにも君を想うと苦しいのに、ただ声に出して、ジンくんを求めて、大好きだと、僕だけを見てと、そう言えれば楽になるのに。僕は今日もまた嘘をついてジンくんにいいところだけを見せる。僕はいい子にしてるから、ジンくんは僕を忘れたりしないよね?

「本当に…僕は……」

天性の弱虫だ…。ツッと涙が頬を伝っていたのに気づいて乱暴に拭う。ジンくんを信じよう。自立して、ジンくんを迎え入れてあげられるような人になろう。でも、だから、今日だけはこのまま泣かせてよ。
拭っても拭っても止まらない涙と嗚咽が病室に反響した。それでも君は、このことを知らない。



fin.





↓↓後書き


素敵企画様に提出させていただいたジンユウちゃんです。イメージソングは「天ノ弱」です!うまく表現できなかったのですが、ジンユウちゃんにはこういう歌も似合うなぁと…。新しい挑戦になりました!ありがとうございました。誤字脱字等ありましたら知らせていただければ幸いです。


君と僕の歌様に提出

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