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Side 八神
「お前、おねしょとか…」
「大丈夫、です」
「寝相、悪かったらベッドから放り出すからな」
私は溜め息をつくと、先にベッドに上がり、隣りを空けてやる。ジンは曖昧な笑顔のまま頷いてベッドに上がり、私は灯りを消した。じゃんけんで負けただけで、なぜこんなにイライラしてるんだ。
「おい。おいおいおい」
灯りを消して、もう寝ちまえと拗ねた私にジンの手が伸び、寝間着のズボンを下げられた。
もぞもぞとさ迷う指が私の股間の物を握った瞬間、私は跳ね起きた。
私はバッと毛布を捲る。そして私の腰の辺りにいるジンも引き剥がした。
「な、なにをっ」
「……明日と今日…の分」
「はぁ?」
ジンが私へと顔を向け、しかし目は逸らして、また手を私の股間へと伸ばす。
「だから、お前は何をしている」
「ご飯、食べさせてもらいましたから。仕事…あと、バン君の事もよくしてくれたから…」
下着に手をかけたジンを突き飛ばすように私はその手を払った。
「おっ、お前なっ!」
「……?」
私はジンの襟元を両手で掴むと額がつくほど顔を近づけた。赤い目は私の黄色い目を見ない。しかし、なぜだかその目はすごく濁っていた。本当に見えているのだろうか。
「私をお前にエサをやってた大先生と一緒にするな」
「……」
きょどきょどと目を合わせないようにするジンの顔を乱暴に自分に向かわせる。
「お前の飯と引き換えにするほど、私は困ってはいない。だから、さっさと寝ろ」
ジンを隣りに突き飛ばして、私はジンに
毛布を頭からかけた。
「……し、ごと……」
「こんな仕事、なんかしなくても、お前に飯くらい食わせてはやれる」
私はジンに背を向けて、自分も肩まで毛布を引き上げると、もう一度低い声で寝ろと告げ、固く目を瞑った。
Side 檜山
翌朝、俺がキッチンに向かうと入り口に拓也が突っ立っていた。
「どうした?」
「……」
すっと避けた拓也にキッチンを覗き込む。そういうことか。
「……」
キッチンのテーブルにはバン達が。レンジの前には八神が。
「……」
八神は鬼のような顔をして、パンケーキを焼いていた。バン達はひたすら目の前に積まれたパンケーキを食べていた。
「……なにをしてるんだ八神」
「うるさいっ、邪魔するじゃない」
はいはいと笑って俺はバンの隣りに腰掛ける。我に返った拓也は、自分と俺達とバン達のコーヒーをいれ始めた。
「ウマいか?」
パンケーキを頬張るバンに檜山は笑顔で訪ねてやると、バンはエヘエヘと笑って返した。
「どんだけ焼くつもりだ」
「こいつらが腹いっぱいになるまでだ」
八神は機嫌が悪い。しかしバン達の口の動きが鈍くなってきたと気づくと、フライパンをシンクに放り込んだ。
「夕べ噛みつかれでもしたのか?」
拓也は立ち上がってホットミルクをバン達にいれてやり、残りを自分のコーヒーに足した。
「……」
八神は不機嫌な顔のまま、続き部屋の窓際に行ってしまった。なんなんだ。と、俺と拓也は理由も分からぬまま、バン達二人でたいらげるには苦しいパンケーキをつまむ。
その日は良い天気で、しかし俺も拓也も八神も仕事がなかった。
拓也は、仕事のない日はどこかへ出掛けてしまうのだが、朝の出来事と新しい同居人の手前出掛けるのを止めていた。
「なあバン」
ポカポカ陽気の中で、腹が膨れて眠たそうな顔をしていたバンは、口元を緩め俺を見上げた。
「お前ら、最後に風呂入ったのいつだ?」
「……忘れました」
と、考えるバンをよそにジンが答えた。そう、だろうなーと俺は笑ってバンとジンの頭を撫でた。二人から漂うすえた匂いに八神は機嫌を悪くしたのかも知れないと俺は立ち上がる。
「よし!今日は風呂でも沸かすかっ」
地下にあるボイラーは死にかけのポンコツで、生活には簡易発電機を使っていた。だから風呂を沸かす事はめったになく、ほとんどは水を浴びていたが、この二人には可哀想だろうと俺は考え、今日は暇だし、ボイラーの機嫌を取ってくると工具を抱えて出て行った。
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