TEXT2

□02
2ページ/2ページ

Side 檜山



「無理だろう」

屋上に一人で街の灯りを眺めていた俺に、八神はバカにした声をかけた。

「……」

「あいつらの事、分からなさ過ぎる。俺達の手には負えないんじゃないか?」

落ち着いた八神の声に俺はチラリとそちらを見て、また小さな灯りが瞬く街を見下ろした。

「ああいう小難しいのは、真野さんの所が良いんじゃないのか」

真野さんと云うのは、同じ街の同じような子供たちの集うグループの保護者的存在で、もともとは俺達もそのグループにいたが、高校も卒業したし、それぞれこっそりと胸に飼う夢のために距離を置いていた。

「……かもなぁ」

あちらの方が人数は多く、もっと様々な過去を持つ者も多く、二人、特にジンのケアが出来るかも知れないと俺はふと考えた。



Side拓也


「すみません」

謝るジンの赤くなった肌に俺は炎症止めの軟膏を塗ってやっていた。

「お前のせいじゃない」

一体この二人はどんな生活をしてきたんだ。一体ジンは心にどんな傷を負った?バンは比較的話せるし目にもまだ光がある。怖い思いはさせられたみたいだけど。でもあのジンの濁った目は何なんだ。
一度しかってきっちり話を聞こうとすると、話そうとしたジンは震え上がって声がでない。するとバンがまたあの緩い笑みを浮かべて話してくれた。

内容は凄惨なものだった。
バンを襲おうとした大人からジンはいつも見を呈してバンを守ったという。そして、ジンを汚いと罵った大人がさらに汚すためにつけた傷がこれ。バンはジンが毎晩犯され、時には血が出るまで殴られていたのを見たといった。いつもバンを護るためバンの分まで仕打ちを受けたジン。時にジンは指一本動かせないほどに衰弱した事もあるらしい。その時はバンが犯される。それがバンについた三つの痕らしい。でもそれ以外はジンについているってことは………。
それを聞いた時、俺は怒りに指先が震えていた。
表面だけではなく、骨も何度か折ったかも知れないと、腕の小さく出た骨の突起に俺は静かに息を吐いた。

「ジン、お前達の両親は?」

「……」

一番柔らかい布のシャツを着せてやり、俺はジンの正面に回ると逸らし続けるジンの顔を覗き込んだ。

「両親……?」

「わからないんです…バン君は」

エヘエヘと笑いごめんなさいと呟くバンをよそにジンが言った。

「わからない?」

「僕の両親はトキオブリッジ崩落事故で死んだ。でもバン君の両親は…」

二人の頭を撫でた。俺が感じていた既視感は、間違いなかった。
俺の仲間の中にも、人と目を合わせず曖昧な笑みを浮かべている子供がいた。彼は物心つく前から親類の家をたらい回しにされて、どこの家でも厄介者扱いをされていた。幼い子供が生き延びるために身につけた媚びた笑みと、目をつけられないように誰の事も見ない目は、時に人の加虐心を煽る。そして、優越感を得るための道具にされる。

「お前達、腹減らないか?」

俺に顔を向けながら決して俺を見ないバン達の手をひいて、俺はキッチンへと向かった。



NEXT→03
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ