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Side 八神
「俺、どうしたらいいんだろうな」
笑いながら檜山は頭を抱えた。
「お前は、自分で思ってるほど強くないって…いい加減知ったほうがいい」
檜山の不器用なりの優しさに、実際俺や拓也は何度も救われていた。
あの二人の小動物のような所に檜山が構いたがる気持ちも分かっていたが、バン達はペットではない。
「……また捨てろって?」
チラリと見た檜山に俺は詰まった。たった二日間で、三人ともバン達に情が移っているのだと思い、このままでは共倒れだとも考えた。
「真野さん、の所なら……」
きっとあの人たちなら、あの二人を普通の子供にしてやれるのではないかと感じて俺は口を開くが、語尾は頼りなく消えた。ほんの少しだけ、自分ではない誰かのために生きれるような期待が俺達にはあったのだ。ほんの少しだけ、夢に近づいた錯覚が。
「無理……か、」
檜山は空を仰いで、瞬く本物の星を見つめた。
「すみません。ご飯、ありがとうございました。お風呂もありがとうございました。シャツもありがとうございました」
不意に聞こえた小さな声に檜山と俺は戸口に振り返った。新しいシャツを着て、うっすらと頬を染めるバンと赤い、濁った目をしたジンが立っていた。
へらへらとした笑みで、誰も見てはいないが、バンが三人に別れを言いに来たのだと、二人の背後に立つ拓也の表情で二人は悟った。
「お腹いっぱいで、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げるバンに、檜山は立ち上がる。
「どうすんだ」
目の前に立った檜山から目を逸らして、バンはまたありがとうございましたと呟いた。
「バンっ…」
普段よりも固い檜山の声に俺と拓也は檜山を見つめた。
「笑うな」
バンの顔だけ檜山に向けられた。
「笑わなくて良いんだ。笑いたくないのに笑うな。俺たちはお前に見返りなんて望んじゃいねえから。機嫌取りしなくて良い」
俺は、あーあと呆れたように肩をすくめた。
「お前が本当に笑いたい時に笑え。本当に楽しいって思った時に、一緒に笑おう」
檜山の向けた笑みにバンはキョロキョロと首を振って、拓也と俺を順番に見た。
拓也は仕方ないなと肩を落としてバンに頷いて見せてやる。俺は頭の上で手を組むと、やっぱり仕方ないなとため息をつきながらバンに頷いてやった。
「おまえの事なんにも解ってやれない。けど、飯と寝る場所くらいは分けてやるよ」
「っバン君!」
返事をする前にジンがバンの事を呼んだ。今までに聞いたこともないような必死の声。声は掠れていた。
「ジン?」
「本当に信じるの?また、酷い事されたら…僕、」
普段なら私達を何だと思っている。といっただろう。でもジンのあの身体を見た後だ。ジンは信じられなくて当然だと思った。
「この人達は大丈夫だよ。きっと」
バンがまた緩く笑う。