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□今日は僕が
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「美しくない」
「え?」
思わず聞き返してしまった。声の主はコウスケ君。一体何が気に障ったのか…。
「大体、君は山野バンからなにか仕掛けてもらわないと何にも出来てないじゃないか」
コウスケ君にバン君との事を聞かれたから話したのに。ダディの方がかっこいいやらなんやら言われて、あげくの果てにダメだしとは…。
「海道センセーの孫なんだろう?LBXをしているときみたくもっと積極的になるべきだね」
「で、でも具体的にどうすれば…」
積極的になれって言ったって、どうすればいいかなんてわからない。
「いつも山野バンにどうされてる?」
「どうって…デートしたり…ハグしたり…バトルしたり…」
言ってて恥ずかしくなってきた。でも、僕ら…キスだって…したことあるんだから。
「じゃあ逆に君は?何をしてあげてる?」
「え…ぇー…えっと…」
改めて考えてみると思いつかない。あれ、僕、これじゃあバン君に尽くしてもらってるだけじゃないか。
「ないだろう!?だからそこなんだよ!」
「はぁ…」
「次は君が山野バンをリードしなよ。普段やってもらってる事をやったらいいんだ」
「う、うん…頑張るよ」
「そうだな、じゃあ……」
そうして、バン君と遊びに行く日になった。頑張らなくちゃ。コウスケ君と必死になって考えた計画表を見る。
「ジン!」
「バン君!」
バン君がきた!緊張する…なんでだろう。と、とにかくリードしなきゃ!
「どうしたの?急に遊びたいだなんて、珍しいね。まぁ俺はジンと遊べてうれしいけど」
「へっ!?いや、ぁ…えと…バン君と会いたかったんだ…うん」
「ふーん」
わわわ、まさかそんな事聞いてくるとは…。予想外だ。これは…臨機応変に動かなくちゃならないな。
「さ、行こう?」
「行くってどこに?」
「ぅ…映画だよ」
「そうなんだ!わかった行こう」
バン君が歩きだしたから慌てて後を追う。僕、何にも出来てないよ…。しっかりしないと…。あっ!そうだ手を繋ぐんだった!今からでも遅くない。早くしないと!
「バン君…手、繋ごう」
「え?あ、うん。いいよ」
ギュッと手を繋いで歩く。第一関門突破!次は…チケットを僕が買って…ジュースもいるよね…あと座席まで誘導して…それにえーと…。
「ジン?聞いてる?」
「え?ああうん」
「……それでさ」
そこからは話しが盛り上がったからよかったものの…。もっと気を引きしめなきゃならないな。というかもう会話中に考え事するのやめよう。
「あ、着いたよ」
「本当だ。じゃあジンはジュース買ってきて、俺はチケット買ってくるから」
「えっ…あ、うん。わかった」
すでに作戦失敗。なんで…。お昼ご飯は僕がリードするぞ!
「何になさいますか?」
えーと…確かバン君はオレンジジュースが好きだったよね。前も飲んでたし。
「オレンジジュースとアイスティーで。あとポップコーン一つ」
「かしこまりました」
しばらくしてジュースとポップコーンが乗ったトレーが渡される。よし、早くバン君のところへ行こう。
「バン君」
「あ、ジン!ちょっと待ってね」
チケット売り場…すごく混んでる。バン君は僕がこの混雑に巻き込まれないようにわざと…。こんなのじゃダメだ。もっと積極的にならないと。
「お待たせ」
「うん、じゃあ行こう」
でも、席にも結局バン君に誘導してもらい、僕はジュースを渡すだけとなった。…最悪。
「あ、バン君ポップコーン食べる?」
「うん!」
「はい」
「ありがとう」
これは僕、成功したんじゃないかな。オレンジジュースも喜んでくれたし。よかった…次も成功しますように。
「始まるね」
ブザーが鳴って場内が一気に暗くなる。そういえばバン君が選んだ映画って…?
チケットをチラリと見るとそこにはよくCMとかで流れてるホラー映画の名前が。………僕…苦手なんだけどな…。そんなことを思っても映画は始まった。
スリリングな場面が続く。女の人の悲鳴と…うわわわ!今怪物が!びっくりした…。
「ジン、大丈夫?」
「う、うん…わっ!」
ぎこちなく笑う。うぅ…怖い…。あ、そうだ!ここでも手を繋ぐんだっけ。それなら恐さも半減するし、今すぐ繋ごう。
「バン君…手つないでていい?」
「うん、いいよ」
そうすればなんだか安心して、不意に眠たくなった。ぅ、ううん…少しだけなら、大丈夫だよね…。
「っは!」
凄い音に飛び起きた。映画ももうクライマックスだ。一時間も眠ってしまったか。バン君をチラと見ると映画に夢中の様子。
そして映画は終了する。バン君の手も僕と離れて。僕はジュースの紙コップとポップコーンの容器を捨てにごみ箱まで走った。そして慌ててバン君の所へ戻る。
「バン君お昼は…」
「なんでもいいよ」
「えっ…」
なんでもいいよ。何て言われても…。どうすればいいんだろうか。バイキング?それは重過ぎるか…。それじゃあハンバーガー?でも足りないよね。
「……ラーメン食べよっか」
「うん…」
うわー!また決めさせちゃった。僕が遅いから。バン君がラーメン屋さんに向かうのを見て後を追う。今のうちに計画表を見ておこう。
「食べさせてあげる…」
よし、今度こそ成功させる!バン君とともに注文して席につく。運ばれてきたラーメンを僕がつまむと少し冷ましてバン君の口元に差し出した。
「ジン?」
「食べて」
「いいの?」
「うん」
バン君はパクりとくわえるとそのまますすった。美味しいよって言われて安堵の息が洩れた。
「じゃあ…俺も食べさせてあげる」
バン君はラーメンをつまむと僕の口に押し込んだ。熱いし苦しい。しかも量が多い。
「ふ、むぐっ…ぅ」
「早くラーメン食べちゃってね」
「?」
バン君は自分のラーメンをさっさと食べてしまうと食べ終わったら店の外で待ってて。と言ってどこかに行ってしまった。僕も早く食べないと。
そして会計を済ますと外に出た。バン君はまだかな?ベンチに座って計画表をチェック。全然出来てないな…。後出来るのは…恥ずかしいけど…ハグとキスと…ん?この殴り書きは?コウスケ君だな…えーと…ベッドに連れ込む…そんなの無理だよ。
「はぁ…」
本当、何にも出来てない…。いつもバン君がやってくれてることの大変さが痛いほどわかった。これからは迷惑かけないようにしないとなぁ…。
「ジン」
「バン君、お帰り」
バン君が帰ってきた。かばんが膨れてるって事は何か買ったのかな?
「ジン、これからどうするの?」
「え?」
「俺、もう帰っていい?つまんない」
「あ、ごめん…帰ろうか…」
つまんない…。そんなこと思ってたのか…ひどい…。そりゃあ僕が何も出来てないのも悪いかもしれないけど…帰るなんて言わなくてもいいじゃないか。
その後電車に乗っている間もグルグルとその事を考えて。なんだか気分が悪くなってきた。うぇ…泣きそう。
「着いたよ」
「……うん」
改札を出てバン君と向かい合う。バン君の無表情を見ているとなんだか余計に涙が出そうで思わず唇を噛んで下を見る。
「何?」
「いや…なん、でも…な…」
「そう、じゃあ帰るね」
クルッとバン君が後ろを向いて歩きだす。僕はとっさにバン君の手をとった。するとバン君が振り返る。
「何?」
「ご、ごめんね…僕…何にも出来なくて…流石のバン君でも愛想つかすよね…」
「ジン」
「でも…」
涙が流れた。でも気にしない。だって拭っている間に帰ってしまいそうなんだ。
「僕だって…バン君に恩返ししようと…頑張って…頑張って…」
「うん」
「でも失敗して…」
「いいよ、もう」
「好きなのに!バン君の事…」
そう言うとバン君がギュッと抱きしめてくれた。僕から抱きしめないといけないのに。
「無理しなくていいよ、俺がリードする」
「でも…」
いいからと言われて。どうしようもなくなって。何だろう。キスしたい。キスするしかないような気がする。あいにく人は居ない。もうするしかない。
「ジ、むむっ」
「ん、ふ…バン君」
頑張って頑張って、前にバン君がやってくれたみたいに舌を絡めて、苦しいけど…バン君がそれに応えてくれるから。
「ねぇ、ジン…そんなに焦らなくても大丈夫だよ」
「でも…」
「俺も焦ってたけど、そんな事しなくていいってわかったし」
バン君も焦ってたって…。いつも余裕で、僕の事まで配慮して…なにが焦ってたなんだ!なんだか一気に涙が引いた。僕が出来なさすぎなのも一理あるけど…バン君が焦ってたなんて信じられない。
「なんなんだ」
「え?」
「僕ばっかり馬鹿みたいじゃないか…」
「ジン…だから…」
「バン君…あそこ行こう」
バッと指さしたのは怪しい雰囲気のホテル。バン君はえぇっ!?と慌てる。コウスケ君…君の言うとおりになったよ。今日は僕が!なんとしてでも満足させてやる。
「抱いてよ」
「後で泣いたって止めてやらないよ?」
「僕の台詞だよ」
Fin.