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□似合ってるよ
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「誰かがやらなきゃならないんだよ!な?」
「だからって何で僕なんだ!」
みんなに詰め寄られてもなお反論するジンに言う。まぁ、普通はこうなるよね。でも俺、絶対似合うと思うんだけど。
「女子が居るじゃないか!」
「だから、女子達は全員参加してるんだって」
それでも後、一人だけ足りない。配ってしまったチラシには.13人と書いたが、今このクラスには12人しか女子がいない。運動部の子が骨折して入院しているからだ。
「頼むよ一日だけだからさぁ」
「!?」
もうすぐ、文化祭で、俺達のクラスはメイド喫茶をやることになった。男子は裏でお菓子の盛り合わせ。
「頼むよ…女装してくれ」
そう。ジンがさっきから何を嫌がっているかと言うと誰が女装するか。でジンが向いていると推薦され見事決まってしまった事だ。
「バン君とかも居るじゃないか!」
俺?俺は無理だよ。だって、盛り付け係りのリーダーだもん。でもジンがかわいそうだし、俺が人肌脱いでやるか。まぁ女装はジンに代わりないけど、
「ジン、やってくれたら俺がカニワールド連れていってあげるよ」
「えっ…本当?」
…やっぱりぐらついた。さ、ここでもう一押しだな。カニがかっこいい…わからんこともないが…。
「当たり前だろ、そのあと海行ってカニ探ししようか」
「えっ…う、うーん」
「飼育員の人に頼んで餌やりもさせてあげるよ」
「しっ……、しょうがないから…やってあげないこともない、かな…」
ほらおちた。ま、これでジンとデートに行く約束も出来たし一石二鳥だね。
「別にやりたくてやる訳じゃないんだからね…バン君がどうしてもって言うからなんだからね」
「ありがと」
ハグしてから耳元で囁く。ジンの身体がビクッとゆれた。そして、頭を撫でてやった。…可愛いなぁ…。
「じゃ、準備しようか」
アミがそう言うなりみんなが何かを探し出した。一体何なんだ?
「何を探してるんだ?」
「さぁ…」
解らないのは俺とジンだけだ。再びみんなが揃った頃には各々手に何かを持っていた。
「はい。ジン、女の子用のメイド服ね」
渡したのはアミとその友達。みんなのよりスカートが短くてフリフリも多いらしい。あぁ、楽しみ。
「頑張れ、お坊ちゃま。あ、いやお嬢様」
冷やかす連中はいたが、殺気立ったアミがどこかに連れ去り、それから冷やかしはなくなった。アミは一体何をしたんだ?
「さ、ジンもOKしてくれた事だし最終準備に取り掛かるわよ」
「おー!」
お菓子を仕切の向こうに運んで、埃が乗るからとしいてなかったテーブルクロスをしく。
「ジンの写真!」
メイドの指名表にエクステとメイクだけしたジンの写真を貼付ける。ああもうこの時点で女じゃん。
「上出来ね」
さ、あとは明日を待つだけだ。ジンの女装、早く見たいな。
「じゃあまた明日!」
「ばいばい」
そして長い長い夜を越えて、やっと今日がきた。
「おはよう!」
ガラッと教室のドアを開けるともう大半が来ていた。そのど真ん中には人だかり。
「何してるの?」
「ジンの着付け」
着付けって…着物じゃないんだから。でも俺も見たいな…。
「や、アミさん…スカート短くないかい?」
そりゃみんなよりは短いけどジンの生足は最高だからいいよ。
「そうねー、でも私にかかればジンが男だなんて誰にもばれないわ…知り合い以外」
おお、すごい自信。まぁでもメイクすごいしな。本当、女の子みたいだもん。
「さ、出来た。」
後ろにエクステをつけ終わり、ジンは立ち上がった。ヒールの靴で良いスタイルがよりいっそう際立つ。
「おー」
「可愛い…」
「…アミ、さん」
ジンがアミの方を向くと、アミは何かネックレスを持ってきた。
「それは?」
「ボイスチェンジャーよ。いくらなんでも男の声のままじゃ…」
そうか。それもそうだよね。アミがジンにそれを付けると女の声に設定してジンに喋らせた。
「どうかな…?」
「女だ!」
か、かかかか可愛いぃぃぃい!なにこれ天使?アミ、尊敬するよ。
「ジン!可愛いよ」
「バン君…太股がスースーする…」
スカートを引っ張りながら言うもんだから、余計に可愛いく見えて、もうどうしよう。
「大丈夫だよ」
「でも…恥ずかしい…」
「ジン、あと15分だからはやく準備して」
「…はい」
アミの殺気に俺達はサッと準備を急いだ。あのまま嫌がってたらジンはもっと酷いことになってたね。
「さ、準備は良い?」
だんだんと教室の外が騒がしくなってきた。時間きっかりにアミがドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
校門前に大きく張り出した写真が大正解だったのか沢山の人が押し寄せた。可愛く着飾った女子はもちろんの事、ジンもあたふたと接客をこなす。
「君、可愛いね」
「ぇっ…」
ジンが知らない男に話し掛けられてる…。いけ好かない男…。あ!今!ジンのお尻触ったでしょ!くっそー。あの男許さない。
「あ、あの…ちょ、」
「ね、名前は?メアド教えてよ」
「ひ、ぅっ…や、やめて下さ」
「ねぇ、良いじゃん教えてよ」
「パンツ…が!」
ジン、パンツ?今パンツの中に手入れられてるの?なんで抵抗しないの?あ、腕捕まれてるじゃん。この男ぶちのめしてやろうか。
「すみませーん。手荒な真似は止してください」
「バ、バン君…」
「は?手荒な真似って…俺は何にもしてないって」
あくまでシラを切るつもりか。このゲスが。ジンに触っていいのは俺だけなんだよ。
「写真には写ってるけどね」
「…!」
「どうすんの?ばらまいてもいいんだけど…」
「っ…帰りゃいいんだろ」
ガタンッと席を立ってお金を追いてでていった。ふん、ざまあみやがれ。
「ジン大丈夫?」
「バン君…」
「ジンは俺が守るよ」
「うん、ありがとう」
「あ、あと写真は嘘だから心配しないで」
「えっ!」
はやく接客しなよ。と肩を叩いた。だってこんなに混んでるんだもん。いや、アミの殺気が怖いから…。
「いらっしゃいませ」
そこから何時間も経ってやっと営業終了。ふー…なんだかすごく人気だったな。
「ジン、メイク落としするわよ」
「ふぁ…やっとか…」
「勿体ない…」
「明日で終わりだから頑張ってね」
「はぁ…」
クレンジングオイルでメイクを落とすとエクステも全て外した。あぁ、男の子に戻ってしまった。まぁどっちでも可愛いけどね。
「明日も頑張るのよ」
「う、うん…」
準備をして学校を出る。明日で終わりか。なんだかこんなに可愛いジンを他人に見せるのは気が引けるけど、こんな時でないと、こんな事やってくれないだろうし、我慢しよう。
「じゃあまた明日ね!」
ご飯を食べてお風呂に入って眠ったらすぐ朝になった。今日はもっとお客さんが来てくれるといいな。
「さ、ジン、メイク!」
「う、うん…」
またメイクが始まる。今日のジンも可愛いな。また昨日みたいな女の子に生まれ変わって、開店時間を迎えた。
「いらっしゃいませ!」