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□頼ってよ
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今日はバケツをひっくり返したかのような大雨。
帰る途中、橋の上に見知った人影が居た。この大雨の中傘もささず荒れ狂った川面を見つめている。何かあったのだろうか。

「ジン!」

そう呼び掛けたが反応がない。仕方なく隣まで行くとやっと気づいた。

「バン…君…」

「こんな所でなに……ジン…泣いてたの?」

雨で解りにくいが目元が少し赤く腫れている。鼻も赤い。

「……そんなことないよ」

「…ジン…」

瞳が悲しみの色で支配されている事に本人は気づいてない。

「…びしょ濡れじゃないか…ほら傘入ってよ」

すっと自分が入っていた傘を差し出す。

「いいよ…バン君が濡れちゃ……う…よ」

ニコリと愛想笑いを浮かべて傘を返してきた。

「ねぇジン…」

「……ぅ…」

また傘を差し出そうとした時だった。

「ジン!?」

ドサリとジンがこちら側に倒れ込んできた。慌てて支えなおすと雨に濡れて冷たくなっているはずの身体が熱かった。

「ぅ……はっ…はぁっ…」

「すごい熱だよ…ねぇ」

ここからだと俺の家に近かっためすぐに俺の家に連れていった。

「ぅ…バ…ンく…」

目覚めたジンが俺を呼ぶ。うーん…声色からして調子悪いよね。

「服濡れてるよね?乾くまで俺の着といて」

バサリとTシャツを渡す。サイズが大きくてまだ俺は着てないから大丈夫だろう。俺で大きいくらいだからきっとジンでちょうどいいくらいだろう。

「ぅ…ごめん…」

意識が朦朧としているのか手は震え頭も揺れている。そんなジンを見ながら俺はすっかり重くなったジンの服を受け取り、絞ってお風呂場にほした。次にズボンを受け取る。パンツはジンが拒否してきたからそのまま。なんでだろ。変ながらなのかな?まぁいいけど。

「じゃあジン、寝ててね。俺薬買いに行くから」

「でも…」

「いいから…」

ドサリとジンを押し倒す。力が入らないのか弱く押しただけでバランスを崩した。

「ゎっ…」

「ほらこれ貼って寝てて!」

冷えピタを額に貼り掛け布団をかける。熱を計らせると体温計が示した温度は39度近く。それも僅かな差だ。これは辛いだろうな。

「ぅ…さ…む…」

「寒いのか…」

生憎最近壊してしまったから暖房器具はないし布団もこれ一枚だ。

「げほっ!…げほっ…げほっ」

「わ、大丈夫?すぐ薬買ってくるよ!」

でもジンがこんなに弱った所は初めて見た。いや、見たくはないんだけれども。あぁ、そうだ。後で病院にも行かなくちゃ…。そうして俺は薬を買いに出掛けた。
薬の種類はアミに聞いた。よく効くって言ってたからその薬にした。さぁ、早く帰らなきゃ。傘をさして走り急いで帰路につく。

「ジン!」

ドアを開けるとジンはまだ寝ていた。

「ぅ…ぁっ…」

「ジン?」

声をあげるから振り向くとジンは泣いていた。寝ているが涙がこぼれているのだ。きっと夢を見ている。怖い夢。

「ゃ……だ……うぅ…はぁっ………」

大粒の涙が引っ切りなしにこぼれる。指で拭ってやるが間に合わないほどに。

「俺がついてるから」

「げほっ!パパ…ママ……ぉ…てか……な」

……あ。…そうだ。あの日も雨だったんだっけ。熱にうなされる度にこれを思い出しているの?ジン。

「ジン!」

見てられなくなって、思わずジンを起こした。ジンは虚ろな目を揺らしてこちらを見た。

「大丈夫?うなされてたよ」

「……夢…ああ…大丈夫」

「薬買ってきたから飲んで」

「バン、君…ごめ…」

ジンに薬を飲ませて俺は氷枕をジンの頭の近くに置いた。これ、冷たくて気持ちいいんだよね。

「さぁ、寝ようか」

「ごめん」

ジンはそう謝るとまた寝息をたてた。すると俺はすることがなくなってボーッとジンの事を考えた。
…こんなに熱があるってことは前から風邪引いてたのかな。何で気づかなかったんだろ。しんどいのに人の前では愛想笑いを作り元気なふりをする。なんで…人を頼らないんだ…。ふつふつと怒りが沸いて来た。
せめて俺くらい頼ればいいのに。それとも仲が良いっていうのはただの俺の自惚れだったの?ジンは俺の事なんて所詮ライバルとしてしか見てないのか?でも…それでも…。必死で張った虚勢が。平気を装っただけの心身が。ここまでボロボロになるまで我慢するなんて。間違ってる!

「はっ…はぁっ…ぅ…」

「頑張れ…」

ギュッと右手でジンの手を握る。白く細い手は力を入れれば簡単に折れてしまいそうだった。

「……えーっと…お粥…は…どうするんだったかな」





「んぅ…」

「あ、おきた…ジン?」

ピクリと手が動いて声がしたから見てみるとジンの目が開いていた。

「調子はどう?」

「僕…あれからずっと…」

まだ全然熱は下がってないし、寧ろ上がってる。
なのに…

「ごめ…も…帰、る」

フラリと立ち上がると服を干してある風呂場に壁伝いに歩きだす。

「ジン!」

「遅くまで…めー…わく…だ…から」

歩きだしたもののすぐに足がガクンッと折れその場に座り込んだ。

「ジン!」

すぐに駆け寄るがジンはまだ立とうとしていた。

「は、はぁっ…はっ…」

不規則で早い呼吸が引っ切りなしに漏れる。ゼェゼェと苦しそう。

「…病院行く?」

「じいやに迷惑かけたくないんだ」

早口に言い切ると、はぁっと息を吐いた。そういう訳か。なんだか納得。

「じゃあなおさら俺のとこで寝てなよ」

「でも……」

「ほらもうすぐお粥出来るから寝てて!」

ジンを担ぐとベッドに寝かせた。もう、おとなしくしててよね。


Fin.

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