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「…そうだなぁ…今日はシチューにしようか」
独り言を呟いたらバンが本当!?と嬉しそうに聞き返してきた。何だ。聞こえてたのか。
「ああ、楽しみにしとけよ」
「はい!」
ニンジンを切りながら考えた。痛み止めを飲むときのジンの怯え方を。何であんなにも怯えたのだろうか。知りたい。知ってはいけないような気もするが、知っておかなければいけない気もする。ぐだぐだと考えながらシチューを作る。…もう聞くしかない。バンなら教えてくれるだろう。そう思ったのは最初に知りたいと思ってから45分くらいたった頃だった。
「なぁ、バン」
「はい」
バンがテトテトと駆けてくる。そしてバンになんであの薬をジンは怖がったの?と聞いたらバンは少し困った顔をして教えてくれた。
「あの薬は…ジンがご主人様に使われた薬に似てたんだよ」
ご主人様。その呼び方に嫌悪が走ったがそれを我慢して少し追求してみる。
「どんな薬?」
「飲んだら気持ちよくなっちゃうんだって!でもそれでジンは「…バン君……」」
会話が遮られた。トイレから出てきたであろうジンによって。そしてジンはバンを自らの方に寄せた。
「何、話してたの?」
「…晩御飯の話だよ」
俺がジンにそう言うと、ジンは怪訝そうな顔をしたが渋々納得して椅子に座った。まだお腹を少し庇っているから、痛いのだろう。温かい飲み物でも出してやろう。
「ジン、お腹はまだ痛いか?」
「…いえ…大丈夫です」
嘘だとわかっているが、それはよかったとバンとジンにホットミルクをだしてやる。
……それより、ジンが怯えた原因は、媚薬と勘違いか。…いや、それより、この歳で使われたことがあるなんて。なんて酷いことを…。いつの間にか強く握り締めていた拳に気づき力を抜く。
「拓也さん、シチューはあとどれくらい?」
「あ、ああ…あと10分もあれば出来るよ」
「やったー」
バンがそう微笑んだ時檜山がオイル塗れになって帰ってきた。
「お湯出たぞ」
「ああ、バンとジンは先に風呂に入ってこい」
「はい」
「シチューは出てくるまでに完成させておくから」
「はーい」
バン達がお風呂場へと歩いていく。さぁ、檜山と話さなくては。
「お、今日はシチューか」
「ああ。それより…なぁ、檜山聞いてくれ」
「ん?」
「ただいま」
檜山が聞き返した時、ただいまと声が入った。もうこんな時間か、八神が帰ってくるのも当然だな。
「…どうかしたか?」
リビングに入って来るなりそう聞かれた。八神にも話さなければ。
「二人とも、聞いてくれ」
バンが話してくれたことを話す。二人の顔が引き攣り、またどんどん暗くなっていく。
「そんなことが…」
「俺達が思っているよりずっと過酷だったのかもな」
「ああ…」
バンも明るく振る舞ってはいるが実際はどれだけの傷を負ったかなんてわからない。
「何がトラウマなのかはわからない…でも極力気をつけないと」
「ああ、なるべくな」
「よし、じゃあ夕飯の用意をしよう」
温くなってしまったシチューを温め直し、パンを焼く。バン達がお風呂から上がった音がしたからもうすぐ来るはずだ。
「お風呂上がりました」
「ああ、俺達も入るよ。でもその前に飯だ」
「はい」
机に並べたシチューの前に座らせて全員でいただきますをした。おいしそうに頬張ってくれてる。身体や過去を見なければ普通の男の子なのになぁ…。そう思ってキュッと唇を噛み締めた。
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腹痛編完