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「名前はなんて言うの…?」
「僕は…海道ジン」
「俺は山野バン。よろしくね」
「うん」
忘れようとした記憶の断片を繋ぎあわせようとして、目を閉じる。
「ジンはなんでここにいるの?」
「パ…パとママが事故で死んじゃって…引き取られた所の人に売られたんだ」
「そうなんだ…俺もそうだよ…ねぇ、友達になろうよ」
「いいの…?」
「うん!じゃあ今日から俺達は友達だよ!」
「うん」
何が一緒かは明確にはわからなかったが、バン君はすごく優しい光に見えた。そして眩しすぎた。でもこんな僕を友達だと言ってくれたバン君を大切にしたかった。いろいろな気持ちが織り混ざっていたがとにかく僕みたいにはさせたくなかった。
「着いたぞ!早く降りろ!」
売手の人が僕達が入っている檻の扉を開けた。急に光が射す。目が対応できなくてチカチカしたがじきに慣れた。
「早く歩け!」
列を作って大きなお屋敷に僕達は入った。その時僕達は5歳だった。
「これで全員だな」
すると売り手の人はタキシードを着た偉いと思われる人が来て紙にサインしてもらっていた。
「それではこれで。煮るも焼くもそちら様の自由ですから」
売り手の人はどこかへ行ってしまった。車のエンジン音が聞こえたからもう帰ってしまったのだろう。僕達はここに置き去りな訳で。要するにここの人に買われたということを幼いながらに理解した。
「さぁ、こちらに来なさい」
サインを書いた男の人が僕達を連れて奥の部屋へ進む。そして大部屋に入れられたかと思えば扉の鍵を閉められた。
「ジン…」
「バン君、」
「これからどうなるんだろう…?」
不安で。叔父さんの時も怖かったけど、同じくらい怖くて無意識にバン君の手を握った。バン君だって不安だったはずだが、僕の手をしっかり握り返してくれた。ああ、なんて優しいんだろう。絶対にこの人に傷をつけてはならない。心の中でバン君は僕にとっての存在意味だった。
「わからないけど酷い事されるんだよ…きっと」
「怖い、ね」
「うん。…でも大丈夫。バン君は僕が守るよ」
自分を犠牲にすることなんてもう厭わない。こんな僕ならもうどうなったって構わない。僕みたいにさせてはいけない。
「ありがとう」
そう言って僕達は手を繋ぎあって眠った。明日からどんな事が起こるのかもわからずに。
「起きろ!」
男の人の声で目を覚ました。他の人達もムクリと起き上がっていく。
「今から仕事の振り分けをする」
男は全て土木作業だ!そう言われたから僕達も外に行こうとしたら男の人に子供か…と呟かれ横にいた女の人に預けられた。
「ご主人様の所へ連れていけ」
「はい」
召し使いさんだろうか。フリフリした白いエプロンを付けている。その人に手を引かれ、ご主人様と呼ばれる人のところへ連れていかれた。
「入れ」
ノックをして入室許可が下りると女の人は僕達を連れてその部屋に入った。
「失礼します」
そこにはご主人様という人がいて、女の人は今回の売り物のなかにいた子供です。とだけ言うと逃げるようにこの部屋から立ち去ってしまった。怖い人なのだろうか。
「やぁ坊や達…名前はなんという?」
すごく偉い人なんだって事はわかった。服も綺麗だし、整った髪も、細かなアクセサリーも、少し威厳のかかった風貌がそう見せた。がたいだっていい方だ。でも思ったとおりの人って訳ではなかった。
「山野バンです」
「海道ジンです」
「バンとジンだな…」
優しく微笑んで頭を撫でてくれた。なんだ、酷いことなんてないじゃないか。そう思ったのもつかの間。
「お前達はあそこで生活しろ」
強い力で引っ張られて押し入れられたのは大型動物を飼うようなゲージ。ガシャンと鍵が閉まる。
「俺を楽しませろ。そうしたら飯をやる」
そう言ってゲージをガタガタと揺する。無性に怖くてバン君と抱き合った。
「お前等の内どちらか一人でも俺を楽しませたら、飯をやる。生き延びるためには…俺の言うことを聞くしかないんだよ」
目を見開き、荒い息のままニィッと笑い、震える僕達を視線にとらえた。怖い。その感情が僕を押し潰しそうだった。それでも震えるバン君を見たら僕は精一杯の虚勢を振りかざしてその人を睨んだ。
「赤い目…まるで宝石みたいだな…でも、その反抗心もいつまで持つかな?」
そういうやつほどぐちゃぐちゃに歪めてやりたくなる。と口から洩らすように呟いて僕を見た。
何かが背中を駆け巡って僕はたじろぐ。冷や汗が垂れる。目線が…痛い。
「…ふっ、俺の事はご主人様と呼べ。騒ぐな。いいな?殺されたくなかったらそうしろ」
「ジン…ッ」
「バン君…」
同い年だ。怖くて当たり前だろう。僕だっていざそうなってみると怖くて仕方なかった。
「気が向いたら言いなさい…いつでも相手をしてあげよう」
男の人は立ち去り、この大きな部屋にはゲージに入った僕達だけになってしまった。それでも生きるためには……。
「怖い…ね」
「けど、やるしか、ないよ、ね」
声が震える。でも生き延びるためにはやらなくてはならないのだ。例えそれがどんなことであろうとも。
「……うん」
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