TEXT2

□明日には会える
2ページ/2ページ



そして冬になった。

「おい、ジン」

また何かするつもりか。いい加減にしてくれ。僕がやり返さないのはバン君との約束があるからだ。それがなかったら今頃…。

「来いよ」

連れていかれたのはプール。今は少し…中央以外は氷が張っている。プールサイドには雪が積もっている。ロンドンの冬は寒い。

「冬休みになるしな一発やっとかないとな」

いきなり胸倉を掴んだかと思えば僕のリングの通ったネックレスを引きちぎった。

「やめろ!」

「あ?やめねーし」

まさか、まさか、まさかまさかまさかまさか。それをプールに入れるんじゃ…

「なんだこのリング、大人用のじゃねーか…しかも…古いな」

「やめろ、返せ、頼む…!」

「お前には似合わねーよ」

ヒュッとリングが宙を舞った。そして、チャポンと
間抜けな音をたててプールの中央…まだ氷の張ってない所に沈んだ。

「うわぁぁぁあ!!?」

僕は上着と靴を脱ぐとすぐに氷を割ってプールに入った。冷たさなんて少ししか感じない。

「わ、マジで入った」

「ありえねー…」

「正気かよ…」

バシャバシャと落ちたであろう所まで行くと周りを見渡した。これで太陽が照っていたらもう少し探しやすかったかもしれないのに。

「帰ろうぜ、つまんね」

「ああ、馬鹿だよあいつ」

「そのまま凍えて死ね」

三人はどたばたと帰っていく。まだリングは見つからない。そのまま探し続けるが、何しろ小さい物だから見つからない。じいやには遅くなると電話しておこう。電話をすると了解の返事で、CCMをプールサイドに置くとまた捜索をを開始した。

それから大分経って…もう夜になってしまった。頼りなのは倉庫から持ってきた懐中電灯だけだ。

そしてそこからまた2時間くらい経った時だ。キラッと反射するものを見つけた。急いで拾い上げる。…やっと見つけた。チェーンはリングについていなかったが、きっともうちぎれて使い物にならないだろし、それにあれは僕が買った物だ…もういい。リングさえあればそれでいい。御祖父様の形見としてもらったこのリングさえあればそれで。

ザプンッとプールから上がる。濡れた服が既に凍り始めている。制服とかばんを拾うと靴を履いて僕は外に出た。帰り道、落ち着きを取り戻すと、猛烈な寒さに襲われたが、何とか家に帰る。するとじいやに何事かと聞かれたが雪に足を取られてこけたと話せば納得して、すぐにシャワーを浴びさせてもらう。
服も洗って干す。リングは洗って念入りに磨く。そしてベッドに倒れた。

「げほっげほっけほ…」

風邪、か…。そういえばここのところ調子が良くなかった。今日ので本格的に体調を崩したか…。それじゃあもう寝よう。じいやに迷惑かけないためにも…。
僕は布団を被ると目を閉じた。……会いたいなバン君に。


そして翌日。案の定熱が出た。学校を休む。……頭がガンガンする。
その時家のドアがノックされた。じいやはなにか用があるといって行ってしまった。僕が出なければ…。

「あ、はい……」

よろつきながらも壁に手を着いて出てみると、訪問販売の人で、寒い玄関先で長い話しを聞かされた。やっとの事で断るとドアを閉めた。…ついてないな…。

「げほっごほっ……」

悪化したかも…。やばい…しんどい…。ベッドに転がり込むと僕は布団に包まった。
一人で怠さや節々の痛みを我慢して荒い息を立てる。辛いのか生理的なのかわからないが涙が溢れた。

…もういやだ。

バン君に会いたい。会って、笑って、話しをして、バトルして……たくさんやりたいことがあるのに。遠い…距離が遠すぎる。
…飛行機に乗ればすぐだけど、何も言わずに留学を決めたのは僕だ。自分を変えるためにここに来たんだ。なのに…甘えるな…僕。会いたいなんて思っちゃダメだ。電話だってダメだ。自分に蓋をしてうずくまる。胸が痛くて痛くて涙が止まらなかった。

「ぁ…はぁっ…はぁっ…」

それから数時間。物を考えることも出来ないくらいしんどくて。生理的な涙が止まらない。布団を何枚も被っているのに寒気は収まらず、ガクガクと膝や肘が笑う。吐き気もするような気がした。

「…バン……く………ん」

じいやはまだ帰ってこない。こんな姿を見たら心配するだろうからいいんだが…。

「おい海道ジン」

いきなり足元から声がした。侵入者か?さっき玄関の鍵を閉め忘れたのかもしれない。

「大丈夫か?…この薬を飲め」

小さな男の人は僕に白い薬を飲ませた。これで楽になると言って話を続けた。薬は効くのが遅いのか視界がぐらぐら揺れながらの説明となった。

「今日の昼、日本でLBXの暴走が起こった。原因はディテクターという組織で………」

耳に届いているのだが頭には入らない。でも少し薬が効き始めたのか楽になってきた気がする。

「宇崎拓也、山野バン、大空ヒロの手によって救われたが……」

山野バン、その単語を聞いた瞬間体がドクンと脈打ちふつふつと煮えたつように熱くなった。

「次狙われるのはこのA国だと予想されている…日本のメンバーもこっちに来るし」

日本のメンバー……バン君がここにくる!バン君に会える!僕が力になれるのか。だったら、迷わずYESと答えよう。また……会えるのだから。

「ここからもジェシカ・サイオスが派遣される…海道ジン、お前も力を貸してくれ」

「…はい」

Nチップの話はすべて頭に入っていなかったが、もう一度説明を受けれることになり、新しいLBXも貰った。バン君はいつ来るのかと聞けば明日と返ってきて、頭が真っ白になったが嬉しくて嬉しくてしんどさも忘れて喜んだ。

「俺の名前はマングース、明日また迎えに来るから」

そう言って出ていってしまった。…バン君と会える。嬉しい。早く体を治さないと。最悪の状態は脱したといえまだ熱はあるし気怠さも残ったままだ。

「バン…君…」

そう呟いて僕は眠りについた。早く治りますように。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ