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□落ちない…?
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ダックシャトルでNシティに向かう最中のこと。

「…お腹すいた…」

今はまだ真夜中。ご飯を作ってくれるジェシカはもちろん誰も起きていないだろう。そんな中無性に俺はお腹が空いて目が覚めてしまったのだ。

「食堂…」

とりあえず食堂に行こうと立ち上がった俺は部屋をこっそり抜け出した。この時部屋のベッドが一つ空いていることには気づかず。

「パンくらいならあるかな…?」

食堂の扉が開き、中に入ると声が上がった。思わず俺も声を上げる。

「ジン…?」

「バン君か…ビックリさせないでくれ…」

二人で胸を撫で下ろし笑いあう。なんだかこうして二人きりになるのも久しぶりだ。二人きりになれたのは再開当日だけだからな。

「ジン、何でこんなところに」

「少し喉が乾いて」

手元にはコーヒーカップが置かれている。コーヒーなんか飲んだら眠れなくなりそうだけど大丈夫なのかな?

「バン君こそどうしたんだい?」

「いや、お腹すいちゃって…」

ジンは、ははっと笑うとパンを焼いてくれた。トッピングもだしてくれて普通に朝食をとっているみたいだった。

「僕が料理を作れたらいいんだけど…」

「いや、これで十分だよ」

パンを食べ終わって注いでくれた飲み物を飲む。ジンもコーヒーを一口飲んで俺達は話に花を咲かせた。

「あのさ!ジンのLBX、トリトーンだっけ?」

「ああ」

「あれ、見せて!」

見てみたかったんだよね。なんかかっこいいし。あ、俺のも見せるべきかな?でも鞄に入ってるし…何より鞄は寝室にある。

「いいけど…寝室にあるんだ」

「じゃあ取りに行こう」

ジンと寝室に行き、ヒロを起こさないようにLBXをとると食堂に戻った。

「これだよ」

ジンがテーブルにトリトーンを置いた。ずっと黒が基本色のLBXだったのに今回は違うんだね。

「俺はこれ、エルシオン」

お互いのLBXを手にとって眺める。あー、操作してみたいな。

「ねぇ、ちょっとだけ操作させてくれない?」

「えぇ?」

「お願い!」

頼み込めば渋々了承してくれた。ジンのCCMを手に取る。俺のよりちょっと重いね。

「食堂破壊しないようにね」

「分かってるよ」

とりあえず歩かせてみようとボタンを押した瞬間トリトーンがジンに衝突した。

「〜〜〜っ!」

「あ!ごめん!」

このLBX反応速度が異常に速い。少し油断したら長押ししてしまうな。やっぱりジン専用か。

「気をつけて、ね」

「う、うん」

もう激突は避けようとジャンプしてみる。それは案外上手く出来て、安心する。

「難しいね…」

ヒロのペルセウスは案外簡単に出来たんだけどな…。エルシオンとおんなじコマンド打ってみようか。

「あ、バン君…くれぐれも…」

ピピピピッ

「あれ?なんだこれ?」

トリトーンが俺の肩に乗ってジンに向かって白いのをぶっかけた。ジンは固まっている。

「わぁぁぁあ!ジン!ごめん!」

「バン君…」

言うのが遅かった…。と顔に着いた分だけでも拭おうと服で顔を擦る。しかし予想以上に粘着質なそれはなかなか落ちない。

「ごめん!今タオル持ってくる!」

俺は浴場から常備されているバスタオルをひったくってくるとジンに手渡した。

「ん…取れない…」

エルシオンで言ったらパンチとキックの連続技だったんだけどな…。まさかこんな事になるとは。

「ちょっとー!こんな夜中に何…」

ドアが開いて声がしたから後ろを向くとそこにはジェシカがいた。ジェシカは俺達を見るとなんだか気まずそうにして

「お取りこみ中失礼したわ…でもそんな、バン…服や顔に向かって出すのは…どうかと思うわ」

ジェシカが俺の股間付近を見る。な、なにか勘違いしてないか?ジェシカが逃げようとするから腕を掴んで引き止める。

「ちがう!ちがうから!ジェシカが思ってるような事は断じてないから!」

ジェシカを食堂に座らせて説明をすると、あぁなんだと納得してくれた。

「で、ジェシカ、これ落とすの手伝って」

「え」

「だってこれ粘着質で落ちないんだ!」

タオルで擦っても薄く伸びて広がっていくだけだし、水も効かないし。

「…とりあえず服は洗ってあげるわ」

脱ぎなさい。とジンに促す。ジンはなんとか服を脱ぐとジェシカに渡した。ズボンはセーフでよかったね!俺が言えることじゃないけど…。

「俺服持ってくる!」

寝室に追い手あるクローゼットから服を取り出すと食堂に戻ってジンに着せる。頭と顔と手のはどうしようか。

「お風呂いく?」

「いや、それでも多分落ちない」

じゃ、じゃあどうしよう…でもあんまりタオルでゴシゴシ擦りすぎるとジンの顔が赤くなっちゃうし痛いよね。

「まさか顔につくとは…」

想定外だ…とジンが言う。俺だってそうなるとは想定外だよ!ホントどうしよう…。

「と、とにかくお風呂で洗おう!」

「ん…わかった」

ジンの腕を掴んで浴場に走った。落ちますように落ちますように。

「あら?まだ落ちてなかったの?」

浴場に着くと、洗濯機の前に立つジェシカが。そうだ洗ってもらってたんだよね。

「ふぁ…それ、アルカリ性の石鹸じゃ落ちないから酸性の石鹸で洗って」

「え…?」

「そうすればだいたい落ちると思うわ」

「ジ、ジェシカ…ありがとう!」

そうとなればすぐに洗おう!ジンの服を脱がせて浴場に引っ張る。

「もうこんな所で脱がないでよ!」

ジェシカの怒声が聞こえてきたが、謝って酸性石鹸を投げてもらう。急いで泡立たせるとジンの頭と顔を包み込む。乾燥して少し固くなっていた白いのがニュルリと溶けはじめた。

「あ、ジン落ちはじめたよ!」

「本当?よかった…」

浴場の窓から朝日がチラチラ見え始めてお腹がすいたのがいつだったかすごく前に感じた。いや、それほどに時間が経ったのかもしれないけど。

「はい、落ちたよ」

「ありがとう」

「いや、元はといえば俺が悪いから。ね、これで許して?」

チュッと不意打ちのキスをしてジンが真っ赤になった所でバスタオルを被せてあげる。

「ジン、寝る?」

やっと落ち着いたジンにそう問い掛ける。するとジンは服を着ながらお腹をさすった。

「いや、お腹がすいたかな」

「じゃあ食堂に行こう!」

二人で食堂に行く。途中でジェシカが服は後でアイロンをかけて持って行くわ。と声をかけてくれたから、お礼をして食堂に駆け込む。

「あ」

「ん?」

食堂に…ジンに当たらなかったこぼれ弾が…。ジェシカにばれないうちに拭いておこう…。

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