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□俺のせいで
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偶然電車で乗り合わせ、しかも下りる駅が一緒だった。だから一緒に帰ることになり改札を出た。

「ジン」

「なんだい?」

いきなり声をかけられた。さっきからなにか考えているようで何を言っても無愛想な返事しか帰ってこなかったのに。

「俺…海道義光に…勝てるのかな」

正直面食らった。いきなり弱音とは…

「……何を言い出すかと思えば…そんな事…僕もいるし、みんなもいる。だから勝てるよ」

ね?と笑いかければ、驚いた表情をしてからバン君も笑った。

「そうだね」

「というか…何でさっき驚いたんだい?」

「あぁ…ジンが笑うなんて珍しいなーって思って」

いつも笑うときは貼付けたみたいな笑い方でしょ?愛想笑いっていうか。と、言われそんなに分かるのか。と少し自分の演技に落胆した。

「あれ…どの階段上ったらいいんだっけ」

地下鉄の改札からTO社に一番近い出口は右側だ。少し車通りが激しくて危ない。

「右だよ」

「あぁそうだ!」

そうして駆け上がっていく。僕も急いで後を追うが、上り切るか切らないかくらいの所で急にバン君が振り向いた。

「俺ーー…」

「っ危ない!!」

後ろを向いていたから見えてなかったのか、階段の外に出た体半分が車が来たことに気づかず、轢かれそうになっていた。

「!」

バン君の手をとる。思いっきり引っ張るとバン君はバランスを崩してこちら側に倒れてきた。急いで掴んだ手を手すりに持たせるとそこでピタリと止まった。

「ジン!」

その代わり引っ張った時の反動で僕の体が後ろ向きに宙へ浮いた。バン君は手を伸ばしたけど時、既に遅し。そのまま転がるようにして一気に一番下まで落ちた。
意識をなくす寸前バン君が僕の名前を呼んだ気がした。





Side バン

冗談でしょ…?ねぇ…夢かなにか?…

「ジン!」

すぐに病院に運ばれた。
カズやアミ、仙道、郷田、拓也さんも仕事を早引きしてきた。

「バン!」

「アミ…」

1番に来たのはアミ。
そこから質問攻めにあう。

「ジンが階段から落ちたって…」

「うん、俺を助けようとして」

「で、ジンは!?」

「まだ……治療中」

運ばれてからもう3時間は経つがまだ治療中なのだ。

「バン!」

「バン!」

カズ達が来た。アミと同じ事を聞かれる。俺のせいで…俺のせいでジンが。

「山野君、海道ジン君の治療が終わったんだけど…説明したいから保護者の方と一緒に来てくれる?」

看護師が走って来る。俺に行く資格なんて…

「アミ…みんなだけで行って…俺は…行けない」

「え?」

そう言った途端走り出していた。みんなの制止を振り切って。

「はぁっ…はぁっ…」

俺…何してんだろ…。現実から逃げて。何がしたいんだ。今するべき事はなんだ。

「バン!馬鹿…ジンが…」

「アミ…」

いきなり後ろから引っ張られたと思えば息を切らしたアミだった。探してくれたのだろうか。

「帰ろう…みんな待ってる。拓也さん達も、ジンも」

「ごめん……ア、ミ…」

「ちょっと…泣いてどうするの?それに謝るならあたしじゃなくてジンでしょ」

病院に戻るとカズにジンのところまで連れていってもらった。

「ここだよ」

「…集…中…治療室?」

横には拓也さんや仙道もいて郷田に入るよう促される。そして一緒にガラスで隔てられている集中治療室が見えるような通路に入った。みんなは俺が来るまで待っていてくれてたようだ。

しかし入った途端俺…いや、みんなは大きな衝撃を感じた。ジンの怪我があまりにも酷すぎたのだ。

「………これ……っ助かるんだろうな…?」

「馬鹿なこと言うなよ!」

仙道がボソリと呟いた言葉を郷田が否定する。

「キタジマでバンから電話で聞いた時は……悪い冗談だと思った……」

俺だって…俺だってそう思いたい。何かの冗談だって。わるい夢だって。

「左腕と…右足の脛が開放骨折してて…大腿骨も圧迫骨折で…あと…肋骨が…三本…ふ…粉砕…骨折…っ…は…肺…に刺さっ…てたっ…て…」

「アミ…泣くなよ…」

カズが宥める。アミは説明の途中で泣き出してしまった。

「バン…ジンな…頭や身体も酷く打ってて…擦り傷や切り傷とか…打撲だらけなんだ」

「拓也さん…」

「今…ガラスで仕切られててわからないけど…この電話…ジンと繋がってる…とにかく聞け」

拓也さんが差し出したのはジンが寝ている部屋に繋がる電話の受話器。そっと耳に当てると聞こえるのは電子音。ピッピッと心音だけ……

「あ……れ…?」

「ジン…まだ心配してるんだ…」

聞こえたのは電子音にまじって聞こえるか聞こえないかくらい…電話がマイク代わりになっているからこそ聞こえるくらいの声。

「……ン…く………バ…ン…く…」

バン君。ジンが言ってる。…俺の事。

「ジン!」

「バン…こんな時に言うのも何だけどよ…ジンについて大事な話がある。落ち着いて聞いてくれ」

「郷田…?」

大事な話?怪我の事はもうアミに聞いた…はず。

「ジンは…簡単なLBX操作…いや…普通の生活さえ…出来るかどうかわからないんだ」

「え?」

………普通の生活?どういうこと。もう出来ないって。何で。

「あくまでも可能性があるだけだ…必ずという訳じゃない」

仙道が付け足す。可能性って、嫌だそんなの。

「ジン……」

それから一週間ジンは眠りつづけた。ずっと。昏々と。
そしてやっと起きたかと思えば麻酔で意識は朦朧。酸素マスクで話すことも出来ない。そんな状態だった。

「ジン…」

ほっとした。そこから身体に力が入らなくなりみんなに支えてもらう。アミやカズ達も毎日来ていた。みんなジンが心配なんだ。

アミがベッド脇に腰を下ろす。ジンは一時意識が戻ったことにより一般病棟(個室だが)に移された。今はその部屋にいる。

「今日は俺…帰るね」

「え?」

「明日…また来るから…じゃあ」

「ちょっと!バン!」

そのまま家に帰る。…このまま…もし…ジンが死んでしまったら。

「ジン…ッ!」

俺は…何を。あそこは危険だって分かってたじゃないか。なんで俺じゃなくてジンなんだよ…。

「ごめん…ジン…ッ」

俺は…何をしてやれる?会う資格なんてあるか?例え最先端医療で回復が早くても体の自由を奪った俺が会えるのか…?ジンに。

その時俺のCCMがなった。

「…もしもし…」

「バン!?」

「カズ?」

「ジン!目が覚めたんだ!早く来い!」
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