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□はやく、蓋を
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「えーと…次は…腕のパーツを買って、その次は武器を買って…」
「………」
指でこれからやるべきことを数えながら、隣でぶつぶつと独り言を言っている人。アキハバラキングダム2連勝中のキングこと山野バンを横目で見つつ、おれっちはキングの真横より少し先を歩く。
どうしてこんなことになったのか。
何故、おれっちがキングとアキハバラに買い物に来ているのか。それは昨日の昼まで遡る。
「あ!」
「何だよ、マジョラム?」
そう聞いたおれっちにマジョラムは言った。
「買い出しに行ってきてほしいデース」
「あ?…別に…構わないけど…他の奴らが行っているんじゃ…」
そう尋ねる俺にマジョラムは苦笑した。…なんなんだよ。
「実は他にも買ってきてもらわないといけないものがあったのデースが、買い出しのリストに載せ忘れちゃったのデース…」
「なるほど…自分で行け!といいたい所だが、明日、久々にキングと出掛けるから買ってきてやるよ」
「助かりマース、…ではお願いしマース」
そして現在に至るというわけだ。
「あのさ…重くないの?やっぱり俺、もう少し持つよ!」
キングは言う。現在、荷物の大半はおれっちが持っている。そして、互いに無言で次の店へ向かう道を歩いていた。
「いい…おれっちが持つからキングは好きなもの買うんだな」
突き放すようにそう返すと、キングはしゅんとした表情を浮かべた。別に、そんな顔する必要はねぇだろ。おれっちが荷物を持つ。キングが買いたい物を買う。話すことなんて別に無い。話したら気持ちが溢れ出そうで怖い。ん?でも、何なんだ?この気持ち。考え込もうとするが、ふと気づいてはいけないような気がしてまた景色に気を移す。というより、キングに荷物なんて持たせれるか!
「でも…わ…っ」
その時おれっちの背後でキングが声を上げた。今度は一体何なんだ?
「………?何やって…早く行くぞ、って…」
おれっちが後ろに振り向くとそこには地面にへたり込むキングの姿。
「…ったた…」
よく見ると眉根はハの字に寄り、目に涙を浮かべている。
「ご…ごめん…転んじゃって…」
「ったく、何してんだ…さっさとしないと置いてくぞ?」
そう言いおれっちはキングに背を向けた。そして再び歩き始める。
こんなこと早く終わらせたい。ちがう、終わらせないといけないような気がする。
「う…うん…っ」
キングは俺の言葉に慌てて立ち上がろうとした。しかし、再びへたり込んだ。
「…痛…っ」
「おーい、早くしろって…キング、足…痛めた?」
「ごめん…捻っちゃったみたい…でも大丈夫!」
努めて明るく振る舞おうとしているがその怪我はどうやら相当痛いらしい。
無理やりの笑顔に涙が滲んでいる。
「でも…キング…」
「大丈夫!」
「………はぁ。」
おれっちは一つ溜息を吐きキングへと近寄る。そしてその場に荷物を置き背を向けてしゃがみ込んだ。
「ほら」
「え…」
「早くしろ。ハッカー軍団の基地までなら連れて行ってやるから」
キングはおれっちの行動に呆気に取られている。別におれっちだって好き好んでこんなことをしているわけじゃない。
ただ…
「怪我ごときでキングにキングを抜けられると、迷惑だ」
「ヤマネコ」
「せっかく、キングとハッカー軍団で連携が取れたのにさ…」
おれっちの言葉にキングはくすりと笑みを浮かべた。そして俺の肩を掴む。
「ありがとう、やっぱり俺、ヤマネコのこと、好きだ」
「…っや、やめろよ」
ただオレはすこし楽しいからキングのことを利用してやってるだけだ。ということにしておく。だって、絶対服従のハッカー軍団がキングに恋するなんて、禁断だろ。今はまだこの気持ちが何なのかは気づかないフリを決め込むことにしたおれっちはキングをおんぶしようとして見事失敗に終わった。
「やっぱ体格的に無理だったか…」
「るせぇ!人の優しさを」
俺も1年たって大きくなったと思ったんだけど…、やっぱりキングには敵わない。
「ははは、そんな所も可愛いよ、大丈夫。来年も、再来年も、その先もずっと…、アキハバラキングダムだけは優勝して見せるから」
「何なんだよ…当たり前だろ」
「ということで肩貸して」
「…わかったよ」
……ああ、だめだ惚れそう。はやく、この気持ちを押さえる蓋を探さなきゃ。