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□寂しいんだ
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「バン君、行かなきゃ」
「…ジン?」
「今日は、命日なんだ」
「…え?」
ジンは少し青ざめた顔で、とり憑かれたように外に出た。そして花屋で花束を沢山買って、向かったのはお墓。
「今日は、父さんと母さんの命日なんだ」
「なんで…」
朝、ニュースでやっていた。トキオブリッジ崩落事故があったって。
「バン、君、」
「ジン…」
その顔は今にも泣きそうで、でもどこか影があって、複雑な表情をしていた。一体今、ジンは何を考えて、何を思っている?
「僕があの時…海に行きたいって言ったんだ。僕があの時もう少し遊ぶって言ったから、」
「ジン、」
「雨が降っていたから早く帰るって言って…でも、」
「違う、大丈夫だから」
線香の灰になった部分がぼろりと落ちた。抱き着いたジンは嗚咽に体が揺れた。
「僕のせいなんだ」
「違う…」
「御祖父様だって、僕が」
ギリッとジンの握り締めた拳から音がしたような気がした。俺から見えない瞳は涙に濡れているのだろうか。
「二人がいなくなってから、御祖父様は僕の全てだった。御祖父様が喜んでくださるなら、なんだって、なんだってやったのに…なぜ…ッ!」
風が強く吹き抜けた。と同時に首が濡れた。あぁ、やっぱりジンは泣いているのか。
「御祖父様は、死んだのかい?でも、遺体は?遺骨は?灰は?そう考えればそう考えるほど、まだいきているんじゃないかって…」
「ジン、それは違う…」
「違わない!僕は、御祖父様を…」
「ジン!もう、海道義光は居ない…レックス、檜山蓮が殺した!見ただろ!?アンドロイドだって!」
俺はジンを引きはがすと肩を掴んだ。骨がミシッと軋んだ音がする。
「わからないのか!?過去を引きずっていても何もかわらない!」
「わかっている!でも…ッ」
「その、でも。がいけないって言っているんだ!」
ずっと過去を引きずっていて、それでジンは幸せになれるのか?両親はそれを望んでいる?それに、俺の気持ちは?
「バン君…」
はっ、とジンが息を呑んだのがわかった。ねぇ、俺はジンに幸せになってほしいんだ。
「泣いてるときには俺が笑わせる」
いつでも駆け付ける。ジンがそれで、笑うなら俺はなんでもしてあげる。
「家族が居ないなら俺が家族になる」
「バン、君…」
「ジンを置いて死んだりなんかしない」
「本、当…に?」
何があっても幸せにする。もう過去に執着するなって言う。きちんと前を向いて歩いてほしいんだ。
「俺、ジンが好きなんだ。好きで好きでどうしようもないくらい」
「なんで、」
ジンが口元を押さえて目を見開いた。何なんだ、その反応。瞳が揺れているのはなぜ?
「なんで、やめてくれ、もう、失いたくないのに」
「だから、!俺は絶対先に死なない!」
「そんなこと言ったら、僕…勘違いする…」
また涙が溢れ出したから、指で拭ってやって、次は優しく抱きしめる。この、華奢な体にどれだけの不安を抱え込んでいたんだ。
「勘違い、してよ。」
「え……?」
「ジン、今はまだ経済力もないし法律でも無理だ。でも、後5年経ったら、」
「経ったら……?」
「結婚しよう」
そう言って、ジンの涙でぐしゃぐしゃの顔。小さくて綺麗な唇にキスを落とした。
「ジン、今何て思ってる?」
「ありがとう」
「え?」
「ありがとうバン君。本当に、本当にありがとう」
「ジン、」
「僕も好き。結婚したい。バン君に助けてもらいたい」
「そっか、じゃあ、帰ろう」
「うん」