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□ホットケーキ
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「ジン、」
休みの日、朝起きて顔を洗っていると誰かに呼ばれた。振り返ってみるとそこには灰原ユウヤの姿。
あの一件があってから八神さんの家に僕達は所謂居候をしている。
「ユウヤ?」
今日は八神さんはお仕事。だけど僕達は何もないからこうやって遅めの朝を過ごしている。
「お腹、すいた」
「あ…」
そういえば、今日はじいやもいないんだっけ。朝ごはん…僕が作らないと。
棚を漁るとホットケーキミックスが。これなら僕でも作れるかも。
「ユウヤ、一緒に作ろう」
「…うん」
腕を引っ張ってテーブルにつかせる。そして卵と牛乳とホットケーキミックスをボールに入れて手渡す。
「僕がホットプレートを用意するからユウヤはそれを混ぜておいてくれ」
ユウヤは黙って頷くと黙々とそれをかきまぜはじめた。少し口元が緩んでいる。楽しいのかな。
「油を引く…のでいいんだな」
袋の裏を見ながら必死にホットプレートを準備し、お皿とはちみつとバターを取りに行く。
「ユウヤ、お待たせ。もういいよ」
そういうと、ユウヤはホットプレートにいくつか丸く先程混ぜたホットケーキミックスを流し込んだ。
しばらくすると、ぷつぷつ気泡が出来てきて、ふわりと甘くいいにおいが鼻を掠めた。
「ひっくり返すかい?」
ユウヤにフライ返しを渡すと、微妙な変化だけど嬉々とした様子でくるりとひっくり返した。
そしてそのまま少し待ったらホットケーキは完成。
「ユウヤ、食べようか」
またユウヤは頷いて、僕の渡したはちみつとバターをホットケーキにかけた。また甘い匂いが広まった。
「美味しいね」
ユウヤの笑顔から見て美味しいのだろうと判断する。二人で作ったから美味しいのかな。
「まだ余ってるけど…焼くかい?」
「…焼く」
また円形に垂らしていく。ジュゥ…と小さく鳴る蒸発の音がまた食欲をそそる。食べ盛りの時期だからすぐに食べてしまうだろう。
その時CCMが鳴った。ユウヤに詫びを入れてそれに出る。
「ジン?久しぶり」
「バン君!」
「今度出かけるの日曜日になったよ」
「わかった。わざわざありがとう」
それから少し話す。最近会ってなかったからどんどん話題が出てくる。
だけど僕は食事中。ユウヤを待たせているし、後でまたかけ直そう。その趣旨をバン君に伝えるとバン君は素直に了解してくれた。
「うん、じゃあねー」
「ああ、それじゃあ」
CCMを閉じ、席に戻る。もうホットケーキは焼けたみたいだ。次のホットケーキミックスが流し込まれていた。
「ユウヤ、ありがとう」
そう言って食べようとお皿を見るとそこには何とも可愛らしいハート型のホットケーキが。
「これ、ユウヤがしたのかい?」
ユウヤが頷く。僕はどうしようもなく嬉しかった。好きな相手にこんな事されたら当たり前かな。
「可愛い…ありがとう。次は僕が焼くよ」
ユウヤにハート型のホットケーキを焼くとお皿に乗せた。その時ユウヤが笑ってくれたから僕も満面の笑みで笑い返した。
「ありがと、ジン」
「ああ、」
「美味しい」
「僕もだ」
「ふふ…」
「ユウヤ、今週の日曜日空けておいてくれ」
「?…うん」
後でバン君に電話した時ユウヤも行っていいか聞かなくちゃ。きっとバン君ならいいと言ってくれるだろうが。
あぁ、僕、やっぱりユウヤの事、好きだなあ。
日曜日が楽しみだ。