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□熱いコーヒーはいかが?
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熱いコーヒーを飲むと嫌でも思い出す。
「檜山…」
あの時の通話。全員乗ったぞ。それを信じたのに。それを信じたばっかりに。あいつを置いてけぼりにして、俺だけがここにいる。
「なんで…っ」
あいつはいつも俺をからかって、でもいざという時には助けてくれた。俺が接待で酔い潰れて檜山の所に行っても介抱してくれた。弟が出来たみたいだと言ってくれた。
「兄さんも檜山も…俺をおいていく…」
コーヒーを飲み干して、花束を持つ。そして向かったのはSATURNの爆発した場所。忌まわしきあの海道の死んだ場所でもあるが同時に俺にとって大切な檜山の死に場所でもある。
意を決して脚を踏み入れ、花束を置く。そして線香をたてる。
「あれからもう…一年もたったんだな」
もう一切の返事が返ってくる事はないと知っていて話し掛ける。
「俺は色々あった…バンや郷田もみんなも成長したんだぞ」
「ぁっ…」
声がした。檜山ではないのは解りきっていること。それに後ろからだ。パッと振り向くとそこには見知った顔。
「ジン…」
「拓也さん…」
檜山の一周忌であると同時に海道義光の一周忌であることは解っていた。それでもジンと会うことはなんでか予想できなかった。
「すみません…僕、またにしますっ」
クルッと後ろを向いて走り出そうとするから思わず肩を掴む。ジンがビクリと動きを止めた。
「いいよ、別に気を使わなくても」
ジンだって家族同然の人をなくしたんだから。例えそれが怨まれる人であっても亡くした側は一緒なんだから。
「ジン、この後暇か?」
「はい」
「コーヒー…飲みに行こう」
「いいですよ」
ジン、お前の目が腫れてること、誰にも言わないから。だから、だからさ、俺が泣いてるってことも誰にも言わないでくれよな。特に檜山には。また、笑われてしまう。
「じゃあ、車で待ってるから終わったら電話してくれ」
「はい」
そう言ってジンを残して俺は車に戻った。きっとジンにも話したい事があるはずだ。
なぁ檜山、知ってるか?俺がいつも花束にコーヒーの花を入れること。
Fin.