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□これは食べ物ではありません
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すごく綺麗で。真っ白で、美味しそうだった。どんな味がするんだろう。甘いんだろうか。それともやっぱり鉄の味がするのかな。少し。少しでいいからかじってみたい。
「ジンの指…美味しそうだね」
「え?指?バン君お腹すいてるの?」
「ううんちがうんだ…綺麗で…美味しそう」
すべてはいらないんだ。そんなに欲張りじゃない。だから小指の先でもいい。少しだけジンを食べたい。
「美味しそうだったらいいんだけど」
「ううん、とっても美味しそうだよ」
「食べてみる?」
「いいの?」
「噛みちぎらなければ」
それじゃあジンの肉は食べれないのか。でもいいや。ジンの小指を口に入れた。甘くないはずなのにすごく甘く感じた。くらくらする。
「ん…くすぐったい」
「美味しいよジン」
「それはよかった」
このまま口の中で溶けてしまえばいいのに。氷のように。そうして俺が飲み込んでジンを吸収するんだ。
「少し噛んでいい?」
「少し…だけね」
「うん」
ジンの指を、痛くないように、あとが残らないように甘噛みする。なんだろう。すごくおいしい。柔らかい。弾力がある。ジンがピクリと指を動かすだけでまた違うように感じる。
「バン!ジン!ご飯よ」
ジェシカの声がした。そうだ。夕飯の時間だった。ジンの指から口を離す。
「また食べさせてね」
「構わないが…バン君、僕の指は食べ物ではないからな」
「分かってるよ」
Fin.