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□大丈夫だと意地をはる僕
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今日は大雨だった。冷たい雨が降り注ぐ。そんな中傘も差さずに歩くのは僕。
あの日と同じ大雨。それだけで僕の心は深く沈んでいく。僕だけ生き残った罪悪感は拭い切れるものではない。心が、痛い。
「ジン!」
不意に名前を呼ばれて腕を引っ張られる。そしてそのままよろけて入ったのは知らない店の軒下。
「びしょびしょじゃないか…傘はどうした?」
「…八神、さん」
傘は持っていない。途中で捨ててしまった。僕が飼うことは出来ないが、捨て猫がいた。それになぜか絆されて傘をその上に置いてきたのだ。
「まったく…こんなに冷たくなって…風邪を引いたらどうするんだ」
八神さんはそう言って自らのマントを僕に掛けてくれた。
「あ、マント、濡れますよ」
「それくらいどうってことない…それより、家に帰るぞ」
八神さんの傘に二人で入って連れていかれたのは八神の家。マンションだが大きな部屋が三つもある。
「おじゃまします…」
「ジン、風呂に入るといい。服とマントは洗濯に出しておいてくれ」
「え、でも…」
「遠慮するな。風邪引くぞ」
「はぁ…すみません」
言われた通り衣服を洗濯に出し、温かいシャワーで体を暖める。途中で洗濯機の音がしたから八神さんが服を洗ってくれているのだろう。そして十分に体が暖まるとシャワーを止めた。お風呂場を出て、八神さんが用意してくれたであろうバスタオルで体を拭く。
「あ、ジン…服は…俺の着れなくなったのでいいか?渇いたらそっち渡すから」
「あ、はい。すみません、ありがとうございます」
「さ、コーヒーでも飲もう」
「はい」
八神さんは僕の分のコーヒーを入れながら食卓に座った。僕もその前に座る。八神さんはいつものスーツ姿ではなくラフな恰好をしている。そのせいもあってかいつもみたいにガッチリした体格ではなく少し華奢に見えた。本当は細身なんだなぁ。とか頭で思う。
「ミルクと砂糖は?」
「いや、大丈夫です。いりません」
何も落とさないでいれてもらったコーヒーを一口飲む。やっぱり苦い。別に苦いのが苦手という訳でもないが、苦いものは苦いのだ。
いつからだろうか。昔は甘いジュースが大好きだったのに。いつから紅茶やコーヒーを飲むようになったのだろうか。そしていつから甘みが消えたのだろう。
「ジン、夕飯食べていくだろう?」
「え?」
「一人だと寂しいからな。いてくれないか?」
「でも…」
「私の方から連絡しておくから」
「…すみません…お世話になります」
そうして八神さんの家で夕飯を食べ、渇いた服を渡され着替える。その頃にはすっかり雨も上がってしまって、じいやに連絡をして迎えに来てもらう。
「今日は早めに寝るんだぞ」
「はい」
「いつでも遊びに来い」
「…はい」
お礼を言って八神さんのマンションを出ようとした時八神さんが僕を呼び止めた。
「ジン、雨の日…は、辛いだろうと思う。でも…」
「大丈夫ですよ…心配には及びません」
「…そうか……でも、また傘が無ければ頼ってくれ。シャワーくらいは貸してやれる」
「ふ、ありがとうございます」
そんな話をして八神さんと別れた。
雨の日は確かに辛い。でもあの時強がったのは僕の心に触れられるのが怖かっただけ。
Fin.