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□味の無い水
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酷く喉が渇いた。喉がカラカラでカラカラで死にそうだった。
「水…を…」
呟いても返事はない。それもそれもそのはず俺の周りには今誰もいない。
「郷田、」
「レ、…ックス…?」
俺の前には居るはずのないレックスがいて、コーヒーを一杯持っている。
「喉が渇いたんだろう?」
俺は頷く。喉が、乾燥して、唾液ももうでなくて、レックスの持っているコーヒーが無性に飲みたくて手を伸ばした。
「だ!、郷田!」
目を開ける。そこには居るはずのないレックス…ではなく紫の髪の仙道がいた。
「仙道…?」
感覚で俺が寝転んでいることがわかった。頭が痛い。仙道は俺の顔を覗き込むように見ていて少し目を逸らす。
「何…無茶してるんだい?熱中症で倒れるなんてねぇ…」
「熱中症…」
そうだ、俺は倒れたんだ。熱中症か…こんな事になったのはいつ以来だろうか。
「馬鹿だねぇ…」
周りを見渡すとそこは仙道の家のような所だった。後から聞くとここは確かに仙道の家で、重い俺を引きずるようにして連れて来てくれたらしい。
「ほら、水飲みなよ」
ペットボトルに入った水を投げられ慌ててキャッチする。そして仙道にお礼をしてから口を付ける。
「…水だ」
「あぁ?当たり前だろ…」
水なんだから。という仙道を見る。コーヒーの味がしない。仙道はレックスではない。コーヒーじゃない。味のない水なのだから。
あれが夢だと覚醒しきった頭で初めて気づいた。
Fin.