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□ごめんね
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「「も、もう!」」
「ジンなんて嫌いだ!」
「バン君なんて嫌いだ!」
その言葉が重なった時、俺達はフンッとお互いに背を向けた。ダックシャトルの中は静まり返ってしまっている。
「ち、ちょっと二人とも…そんな、喧嘩しなくても」
「だってジンが悪いんだもん!」
「これは、バン君が悪いんだ!」
また綺麗にハモっている。何なんだジンのやつ…。俺に被せてきやがって…。ギッとジンを睨む。
「もう二人とも…」
「ラン、放っておきましょう…二人で解決するまで」
「う、うん…」
ジェシカが奥に消えていった。すると気まずいのかランはミネルバのカスタマイズしよー。と言って女子部屋に行ってしまった。
「バ…バンさん…」
「ヒロ!いくよ!」
「は、はぁ…」
ジンとユウヤを残して俺は男子部屋に飛び込んだ。そしてヒロの肩を掴むとガタガタと揺らしてみた。
「ちょ、ちょっバンさん!」
「もう許さない!」
「きっとジンさん泣いてますよ」
そんな訳無いよ。ジンは今頃ユウヤに怒りをぶつけているところだろう。なんなんだ。もうジンなんてユウヤとくっついてしまえばいいんだ。
「ヒロ!もういいんだよ!ジンが謝りに来るまでで放っとけば」
「でも…」
ヒロが口ごもる。それでいいんだよ。だって全体的に見ると悪いのはあっち(ジン)だからね。
「いいの!それよりバトルしない?」
「えっいいんですか?」
「ああ!ストレス発散に付き合って」
その後はヒロをブレイクオーバーしまくってエルシオンをしまう。
「な、なんだかいつもより強くないですか?」
「気のせい…いや、ジンのせいだよね」
「…はぁ、あ、もうそろそろご飯の時間ですね。行きますよ」
ヒロが時計を見て言った。食堂に行ったらジンに会わないといけないじゃないか。でも食べないなんて事したらジェシカに怒られるしなぁ…。渋々腰を上げて食堂に向かった。
「バン!ヒロ!遅いわよ早く席について」
食堂に向かう途中俺が行くのを渋ったからか、俺達が着く頃にはもう全員集まっていた。
「いただきます」
ジンはランとユウヤに挟まれ向かって斜め左に座っている。俺はコブラとヒロの横。ジェシカの作った美味しい料理に手を伸ばす。
「おい、バン」
「なに?」
「ジンと喧嘩したんだって?」
コブラが小さい声で聞いてきた。俺も声を抑えて答える。ジンは一度こちらを見たがすぐにユウヤに話し掛けられていた。
「ジンが悪いんだよ…!」
「まぁ両方の言い分を聞いてみねぇ事にはわからないが…」
「ジンが謝ってくるまで許さない…!」
「そうかい…」
そう話すと俺は料理と向き合った。いつもと変わらないはずなのになんだか今日はすごく不味く感じた。
「………」
それを食べ終わるとヒロとお風呂に行って、寝ようとした。俺達がベッドに入るくらいにジン達がお風呂に行こうとしていたから早く寝てしまえば顔を会わせなくてすむだろう。
「ヒロ、寝よう」
「あ、はい」
電気を消して目を閉じる。でもジンとの喧嘩が頭をぐるぐると回って眠れない…。くそ…これじゃあ安眠妨害だ。寝よう寝ようと思えば思うほど頭が冴えていって。途中でヒロの寝言が聞こえたからヒロは寝たんだと確信した。そしてとうとうジン達が帰って来てしまった。慌てて寝たふりをする。
「それじゃあユウヤ。お休み」
「お休みジン君」
ゴソゴソとベッドに入る音を聞きながら俺は目を開けた。ユウヤが寝息をたてはじめた頃ジンは起き上がるとゆっくり男子部屋を出て行った。
「?」
不審に思った俺は物音を立てないようにジンの後を追った。ジンは飛行機みたいになっている部分の座席に座って景色を見た。
「…バン君」
いきなり名前を呼ばれてびっくりした。気づかれたのかと思った。でもそれはジンの独り言で、俺に向けられたものではなかった。
その後ジンは景色を見続けていたけど、不意に嗚咽が聞こえた。
「…!」
泣いてる。ジンが泣いてる。どうしよう。俺のせいかな。ジンも悪いけど俺も悪かったし…。謝らないと……でも…。あれだけ怒っといてなぁ…。自分の小さなプライドが邪魔をする。
「あ…」
いいこと思い付いた。どっちにしろ俺から謝ることには代わり無いけどこれならまだ許せるかな。
俺はエルシオンとCCMを持つとさっきいた場所に戻った。さっさと設定を済ませてジンの所に向かわせる。
「エルシオン…?」
『ごめんね、ジン…仲直りしよう?だから泣かないで』
「バン君!」
ジンが立ち上がった。俺はそのままジンの方に向かって行って、ギュッと抱きしめた。
「ごめんね、好きだよ」
「バン君…ごめ、ごめんっ…僕、が…悪かっ…たから…」
「もういいよ」
「謝、ろ…とも…思っ、たけど…んむっ!」
「これで仲直り」
キスして黙らせて、涙を親指で拭ってやる。まだ鼻をぐずぐず鳴らすジンをもう一度強く抱きしめる。
「さ、もう寝ようか」
部屋に戻るとみんな寝てて。俺達もベッドに入ったけど、何となく寂しくてジンを俺のベッドに呼んだ。
「一緒に寝ようよ」
「うん…」
狭いベッドだから二人で入ると落ちてしまいそうだ。だから俺はジンを引き寄せギュッと抱え込むとそのまま目を閉じた。
ジンにこのドキドキが伝わってませんように。