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□特等席だったのに
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あれから1週間がたって。僕とバン君がデートをする日。この前はごめんね。と僕の大好きな笑顔で言うから、別に構わないと伝える。僕はバン君が好き。さっきみたいな笑顔も、なにもかも。でもバン君は違う。僕じゃない。バン君が好きなのはカズ君だ。

「どこに行く?」

「バン君が決めてくれ」

「じゃあ映画行こうよ」

「わかった」

そう言って歩きがそうとすると手をとられた。やめてくれ。また期待してしまう。僕のことを好いていてくれるって勘違いしてしまう。心が揺らぐ。たとえバン君がカズ君を好きで、心が僕のものではなくても付き合っているもは僕なのだからいいじゃないかって思ってしまう。

「ジン?」

「バン君、手痛いから放して」

「あ、ごめんね!大丈夫?」

「あ、ああ」

ごめんね。痛いって言うのは嘘なんだ。ただこれ以上やると泣き出してしまいそうで。その後バン君は大丈夫?LBX出来る?と繰り返し聞いてきたから、大丈夫と言い張って早足に映画館に入った。

「もう始まるって!行こう」

「ああ」

ブザーが鳴って館内が暗くなる。でも映画が始まっても僕はそれに集中できなかった。カズ君とは遊園地に行ったみたいだ。映画はきっと僕に合わせて選んでくれたんだろうけど考える時間がありすぎてむしろミスだ。
なんて言おう。別れよう?それとも浮気の理由を聞く?聞いたら聞いたできっと疑問しか浮かんでこないのだろうけど。
僕のどこがいけなかったんだろう。僕は決して可愛くないし綺麗でもない。口数も少ない方だと自分でも思う。一緒にいてつまらなかったんだろうか。じゃあ今まですごしてきた時間はなんだったんだ。ただバン君につまらない時間を過ごさせていただけ?愛想笑いをしてもらっていただけ?いっきに不安がつのる。
映画もクライマックス。もうすぐ終わってしまう。早く考えをまとめないと。この際だからすべて言ってしまおうか。それじゃあいつ言おう。そうだなあ。このままお昼を食べるだろうからそれが終わってからでいいや。もう、知らない。

そして映画が終わる。内容なんてまったく頭に入ってなかった。ただスクリーンを眺めていただけだったから。

「はー、おもしろかったね」

「う、うん」

「俺お腹空いてきちゃったお昼食べに行こうよ」

「わかった」

お店に入って注文を済ませる。これが終わればバン君とももう終わりだね。胸がズキンと痛んだ。料理が運ばれてくるとそれを口に運びながらバン君がさっきの映画の話をする。僕は相槌を入れながら別れの言葉を考える。

「ジン、聞いてないでしょ」

いきなりそう言われてびっくりする。何でそうわかったんだ。

「ジンって違うこと考えてると何回か右下見るんだよ」

「えっ…」

まさか自分にそんな癖があるとは思わなかった。でもバン君に俺だけが知ってるんだよ。って言われてまた気持ちが揺らいだ。

「すまない」

「いいよ。それでね」

「ああ」

ご飯を食べ終わる。言わなきゃ。心臓の音がうるさい。でも胸は痛い。

「バ、ン君!」

「ジン?どうしたの?」

口が、手が、震える。怖い。言ってしまっていいのだろうか。ギュッと手を握り締める。

「僕たちさ…、ッわ、」

バン君が息を呑んだのがわかった。もしかしたら、いや、きっとバン君だってこれを望んでいたはずだ。

「別れよう…」

自分で声に発した瞬間涙が溢れた。バン君も下を向いて押し黙ってしまっている。

「なん、で…?」

バン君が発した一言がそれ。なんで?それは君が僕のことを好きじゃなくなったからだろう?

「…………カズ君とお幸せに」

バン君がハッと顔を上げる。その顔は困惑していて、もうどうにでもなれと思った。

「ジッ…」

「さよ、…なら」

僕に言える精一杯も言葉を述べて僕はバン君に背を向けて走り出した。もう忘れようこんなこと。バン君のことだって忘れてしまおう。学校だって転校していまえばいい。ずっと敵のままだったらよかった。こんなに苦しいのなら恋なんてするんじゃなかった。
早く忘れなくちゃ。忘れろ。忘れろ。忘れろ。忘れろ。忘れろ。忘れろ!!
何で泣いてるんだ。もう泣かなくていいのに。胸が痛くて涙が止まらない。

「ッジン!!!」

バン君の声がした。条件反射のように僕はまた走り出す。何とか撒こうと道を横切ろうと走った。道を飛び出す瞬間バン君が叫んだ。何だ。周りを見ようとした時クラクションが鳴り響いた。そしてそっちを見る余裕もなくものすごい衝撃が走った。

「ジン!ねぇジン!」

激痛の中最後に見たのはバン君だった。

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