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「でも…」

「大丈夫。僕は我慢できるから」

バン君、きっと過去に暴力を受けたんじゃないか。今までわからなかったけど、さっき新しいご主人様が痛めつけると言った時の怯えようは少し異常だった気がする。

「俺、昔たくさん叩かれたんだ。骨は折れなかったけど…」

「…怖かったよね。もう大丈夫。僕が守るから」

「お父さんとお母さん…信用してたのに…」

売られたということか。あの人にバン君が暴力を振るわれたらきっと思い出してしまう。ダメだな。僕がいかないと。

「大丈夫。僕が何としてでも耐えてみせる」

「ジン…でもっ」

バン君、無理しなくていい。君に幸せになってもらいたいんだ。僕のことは気にしなくていいから。
それからバン君が殴られてるのを見て怖がらないように寝かせておこうと眠りを促してみる。バン君は緊張していたのもあってかすぐに眠ってしまった。起こさないようにしないと。
そして何時間がたって新しいご主人様がやってきた。

「ジン…やられる気になったか?」

「なにを…」

いつの間にか投与してもらった薬で体調は回復していた。新しいご主人様は機嫌が悪いのか額に血管が浮き出ている。これは…やばいかも…。

「早くしろよ!」

もう待てない!といった感じでゲージから引きずり出される。何時間ぶっ通しだろうか。さっき部屋のドアに鍵をかけていたから満足するまで終わらないんだろう。

「痛ッ!い、痛いっ、ぁ」

髪の毛を鷲づかみにされてずるずると引きずられていきなり手を離される。すると次は腕を引っ張られ壁にぶつけられる。あまりのことで受け身も取れずバチンと壁に正面からぶつかった。

「う゛…ぐ…」

「あ、鼻血でた?…無様だな」

手を離されて、思わず崩れる。そして膝をついて鼻を押さえる。うわ…結構出てる。痛いなぁ。いつの間にか泣いてたし。

「おら、休むな」

「、ぁ…!!」

足をつかまれ持ち上げられる。宙ぶらりんになってこのまま落ちたら頭から落ちることになるのか。

「なんだよ。見てんなよ」

今のは明らかに僕に言ってなかった。もしや…と思いご主人様の目線を追うとバン君がゲージの柵を握りしめて僕を見ていた。その眼は怯えきっていた。もう、気にしなくていいから…!

「バン、く…」

「お前もやってやろうか?あ!?」

びくっとバン君が後ろに下がった。もう見なくていいから。寝てていいから。バン君、もういいから。

「バン君!僕は大丈夫だから!」

「……ジ、ン…」

バン君はそのまま固まってしまった。大丈夫だろうか。それよりつかまれている足…加えられている力が先より強くなっている。ギリギリと音が鳴るくらいで握られて、ぁ、と声が漏れる。

「おらぁ!さっさと奥に戻っとけ!」

「バン君戻れ!!」

そう叫ぶとバン君はゆっくり後ずさる。姿が見えなくなるとご主人様がにやりと笑った。何をされる…?そんなことを考えていると、いきなり掴まれていた足を離された。変な浮遊感がしてぐしゃりと床につぶれた。

「僕は大丈夫……ねぇ…」

クククク…と押し殺したような声で笑う。しまった。そんなことを言ったか。焦りすぎて物を考えずに言ったから…。

「大丈夫なら…まだまだいけるよなぁ…?例えばこんなものを使っても」

そう言ってご主人様が取り出したのは鞭や金属の棒…鉄パイプだろうか。まさかそれで殴られるんじゃ…。これは…終わった時どうなることやら。今でも右手の薬指が折れている気がするのに。

「大丈夫…背骨と頭はやらねぇよ…」

そこは素手か鞭だろ?なんて楽しそうに笑う。それから、ほら早く服脱がないとビリビリに裂くぞと言われ脱ごうとしたら、遅い。と服を裂かれる。そして背中をバチンと鞭で叩かれた。痛みの後に叩かれたところだけ熱くなっていく。みみず腫れだけで終わってくれればいいけどきっと痕が残るだろう…。

「ひっ!ぃっああ゙!ぐぁっ」

「ほら、頑張れよ。大丈夫なんだろ?」

体中に赤い線が浮き出る。痛い。痛い。もう嫌だ。皮が剥がされていくようだ。体を丸めて耐えているといきなり蹴られて、ゴロリと転がされた。

「体中鞭の痕だらけだな」

「ぁ…あぁ…うっ…」

攻撃が止んで、少し安堵したところに鉄パイプで殴られた。思わず悲鳴が上がる。殴られた腕からは骨が砕ける感触がした。

「大丈夫なんだろ?」

「ぁ…が…うぅぅ…」

その後も振り回される鉄パイプ。当たっては骨が折れていく。脚…動くのは右足だけだ。左はスネも太股も折られてしまった。腕はもう二の腕から何から両腕が動かない。

「お?脇腹、折れてるな」

それは蹴られたとき。右の肋骨が折れてしまったのだ。肺に突き刺さらなければいいけど…。でもさっき素手でお腹を殴られたときたくさん血を吐いてしまった。内臓もけっこう…傷ついてるのかも。鼻血も止まらないし。暴力が加え始められたときからすでに丸一日以上たっていた。

「もう限界か?」

「………ぁ…ぐ…」

だめだ。もう。そう思って意識が飛び掛かった時、部屋のドアが叩かれた。ご主人様は僕を離すとドアを開けた。すると入って来たのは白衣の恰好のおじさん。……お医者さん?かな。そうだとすれば助けて。お願い。バン君だけでも…。そう思って手を伸ばした。しかしあまりの激痛にそれは成し遂げれなかった。ただ蚊の鳴くような声で呻くことしか出来ない。

「おい、またやったのか」

「うるさいな…」

そうご主人様が言ってその白衣の恰好のおじさんは僕を見つけた。そしてつぶやいた。

「これは……酷いな…」

「それ、やるよ」

「いいのか?」

やる。…ってことは…この人のものになる…この屋敷から出れる…もう、解放されるんだ。…そう思った瞬間僕は気を失った。どうかバン君も一緒に……………。





苦しさに目を開けた。そこには見慣れない天井。左手が暖かかったから目だけを動かして見る。するとそこにはバン君の姿が。………よかった…一緒に…逃げてこられたんだ…本当に…よかった。
涙が止まらなかった。

「ジン…大丈夫?」

酸素マスクが繋がれていて話すことは出来なかったけど目だけで合図した。バン君はよかったと呟いた。バン君からも涙がポロポロと溢れていた。

「おぉ…目が覚めたか」

声がして、白衣の恰好のおじさんが入って来た。やっぱりお医者さんだったんだ。おじさんに頭を撫でられて、点滴の量が増やされた。

「生きていてよかった…あいつは酷かっただろう…」

おじさんの声を聞いて、目で肯定を表す。とにかくバン君が無事でよかった。バン君にも少し血の気が戻っていたし。

「もう、安心しろ。怪我、治してやるからな」

ニッと笑って僕に布団をかけ直してくれた。後で酸素カプセルに入れるぞ。と言われまた目で肯定をした。バン君はおじさんにご飯を作るといわれて手伝いに行った。

「ジン、後でね」

一体どれくらい寝ていたんだろう。この体の激痛はいつになったら治まるんだろう。痕はどれくらい残ってしまっているんだろう。そんな疑問が次々に浮かんだが、一つ、冷静になって思った。おじさんと初めて会った時助けてって思ったこと。僕はまだ……生きていたい。バン君を守りたい。まだ…いや、もっともっと生きたい。最初は死んでしまえ。と絶望にかられてそう思っていたけど、僕はまだ、生きていたい。この体がどれだけ汚らわしいものだったとしても。僕が死んだらバン君を守る人がいなくなる。だから…僕が。
でも…また犯されたら…。また殴られたら…。少し迷いが生まれる。
そう考えているとご主人様に犯された時の映像がフラッシュバックする。あの息、声、手の感触、お尻に激痛が走る感覚。そして注がれるもの。息がしづらい。震えが止まらない。冷や汗がとまらない。声は出せないけど…怖い。
それがなくてもまた殴られたら…思考を切り替えようとするがまたそっちの方を考えてしまう。こんな体になったのもご主人様に殴られたから。麻酔が効いた今でも時折激痛が押し寄せる。それでも…バン君を守らないと。怖いけど…バン君を…。早く傷を治して、おじさんに恩返しして、バン君を守っていかないと。それが僕の生きる意味だ。そう信じてる。



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