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□プール掃除
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「いっけー!」
「バン君!あまり力を入れすぎたらダメだ」
「わかってる!」
今俺達はLBXバトルをしている。アタックファンクションは使っちゃダメのルールで。
「んぐぅ…決まらないな…」
なぜかと言うとDキューブなしでバトルしているからだ。
まさか俺達どっちもDキューブを忘れるとは思わなくて、でもどうしてもジンとバトルがしたくて、しょうがなくDキューブなしに踏み切った。
第一、LBXは危険なおもちゃとして販売中止になり、Dキューブの中のみ使用を許されているくらいだ。ここは学校。先生に見つかったらたたじゃすまない。
「やっべぇ!」
「まて!郷田!」
ん?足音がこっちに向かって来る…郷田?と…この声は…歴史の先生じゃないか?
「ジン、」
「なんだい?」
「やばいような気がする」
「え、−−−」
その後はお察しの通り郷田は俺達の前を通りすぎ、歴史の先生には見つかり、郷田の前にお説教。
「なんて危ないことをしているんだ!」
「すみません…」
ジンが反省した声で謝る。それにつられて俺もすみませんと呟いた。
「罰として二人でプール掃除して来い!」
「ええ!?」
思わず声をあげる。嘘!プール掃除!?二人で?あの汚いプールを?
「明日は土曜だろう、水は抜いておくから朝から来てやりなさい」
「まじか…」
「それとも…保護者の方に連絡しようか?」
保護者。そのワードにジンがピクリと動いた。あ、そうか。もうプール掃除するしかないな…。
「やります…」
「お、山野偉いな。海道は?」
「やります…」
「明日は体操服で来いよ。先生は付けないから気をつけてな」
「「はい…」」
そう言って先生は出て行った。一気に緊張が解れる。
「最悪だね…」
「でもまぁ僕達が悪いよ」
「明日、頑張ろ…」
「うん…」
そして翌日。プールに行くともうジンは来ていた。なんだか体操服のジンなんて見慣れないな。体育で見てるはずなのに。
「あ、バン君…掃除用具はとってきた」
「ありがとう!じゃあ行こうか」
「ああ」
ジンが持っていた掃除用具を半分持ってプールサイドに向かった。
「………うわ」
「…予想以上だ…」
プールは一年近く使われてなかったせいもあってか酷い有様だった。
「水は無いよね…」
「とりあえず壁からやっていこう」
「うん」
汚れは少し擦ったら取れるが、何しろ範囲が広い。早く終わらせてしまわないと。
「ジンはそっち半分ね」
「わかった」
うわ、階段のとことかやばい。触りたくないんだけど…どうせホースで流すし、触ってしまえ!
「うわ、ぬるぬる…」
最悪なパターンだ。って…ジンは大丈夫なのかな。ジンを見ると案の定固まってしまっている。
「ジン」
「バ、バンく…ぬるっ…ぬるぬるっ…これ」
「あーうん。手袋貰いに行こうか」
その後無事に手袋を貰い、壁を磨き終わった。後はこの床だけだ。うーんぬるぬるして歩きにくいなぁ…。
「じゃあ床磨くよ」
「うん…」
ごしごし磨いていけば案外簡単に落ちて行く。けど広いなぁ…日が落ちる前に終わらせたいな。
「とりあえず5mラインまで終わらせよう!」
「うん」
集中して磨いていけば黒い汚れが浮いてきて、それをホースでざばざば磨いた後を流していく。
「バン君こっちにもホー……うわっ!」
「うわぁっ!」
いきなりホースが暴れだした。水を俺達に振り撒いてもなお動きを止めない。どこかが今まで水使ってたのかな。それをやめたから水圧が増えたのかも…。
「…うわ…びしょびしょだ…」
「とりあえずホースを止めようか」
「そうだね」
プールサイドに上がって蛇口を捻って水を止める。一気にホースが静かになって、ホッと一息。
「このままじゃ風邪引くよね」
「…風邪を引く前に終わらせよう」
「そうだね」
タッとプールの中に入って走り出した。…かった。ズルッとぬるぬるに足を取られて体が宙に浮く。
「わぁあっ!」
「バン君!」
ジンが伸ばした手を掴んだ。でもそれはジンを巻き込むことになってしまって二人でぬるぬるの上に滑り込んだ。
「痛…ぅ…」
「ごめん!ジン!大丈夫?」
パッと顔をあげるとジンが俺の下敷きになってて、ジンが呻いている。慌てて上からどいてジンを起き上がらせる。
「ぬるぬる…もうやだ…」
「冷たいけど…シャワー浴びる?」
「うん」
震えながらシャワーを浴びてぬるぬるを落とす。さっきはジンが泣きそうだったからちょっと焦ったよ。
「あと4分の1くらいだからちゃちゃっとやっちゃおう」
「…うん」
あー…機嫌悪いなこれは。早く終わらせないと。ブラシを持つ手に力が入る。
そして1時間。掃除が終了した。すぐにジンと私服に着替える。二人で更衣室でガタガタ震えて笑い合う。
「ごめんね、転んじゃって」
「いいよ。楽しかった」
「そっかよかった」
「掃除お疲れ様」
「ジンもね」
しばし沈黙。でも心地好い沈黙。しばらく経って二人で向き合う。ジンもきっとこう思ってるだろうな。
「ジン」
「バン君、」
「「寒いね」」
やっぱり。寒いんだったらお互い温め合うしなかいじゃん。暗黙の了解で抱き合う。温いなぁ。
「暖かい」
「俺も」
「バン君キスしてよ」
わ、ジンから言ってくれるのなんていつぶりだろ。これは雰囲気に酔ってるな。俺もこんなチャンスを逃すほど馬鹿じゃないし。
「いいよ」
短くキスする。唇まで冷たいな。早くジンが温まればいいんだけど。
「ねぇ、バン君、さっき転んだ時、僕、下敷きになっただろう?」
「ああ…ごめん」
「ううん、ちがうんだ。その時僕、ちょっとその気になったというか…期待しちゃった」
「それって…」
「うん」
「いいの?」
「…バン君なら」
「嬉しい」
まさかこんな事になるなんて。プール掃除してよかったかも。ジンったら可愛いんだから。
そうやってジンを押し倒して手をだそうとした時声が響いた。
「山野ー!海道ー!掃除は終わったかー!」
「っやば!」
「……残念」
「ジン!また帰ったらね」
「!…うん」