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□何で僕だけこんな目に
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男子部屋のテレビの前に居るヒロ君にバン君が声をかけた。

「ヒロ、何してんの?」

「いや、テレビでも見ようかなーと…」

ヒロ君がリモコンを手に取った。バン君やユウヤも集まって来る。僕もベッドに座って画面に目を向けた。

「何のテレビ?」

「なんか…ドキュメンタリーですかね」

パッとついたチャンネルを見る。なんだっけ。…外国人が再現する番組なんだけど。

「今回は…えーと…ストーカーの…」

ストーカー?そう聞いた途端身体にゾワッと悪寒が走り、気分が悪くなった。吐きそうだ。

「ジン?見ないの?」

「僕は…いい」

口元を押さえてトイレに向かった。さっき食べた夕食が胃からせり上がって来る。トイレの前に膝を着くと、口から夕食であったものが出てきた。

「うぇ…え…ぅっ…」

口の中に特有の酸っぱさが残る。何か飲まないと。水を…それを求めて食堂に向かった。

「はぁ…はぁっ…」

水を飲んで落ち着こうと椅子に座り机に肘をついて頭を抱えてみる。
落ち着け。もう、あんな事起こるはずがない。捕まったんだから。それに今はみんなが居る。そして空の上だ。大丈夫。怖くない。暗示でもかけるかのようにぶつぶつと呟いて溜め息を吐き出す。

「あ、ジンいた!」

「CCM鳴ってるよ」

「…えっ…?」

バン君が部屋に忘れたであろう僕のCCMを持って食堂に現れた。なんで電話?もしかしてまたあの人からだろうか。なんで、着信拒否だってしたままなのに。

「も、しもし…」

「あぁ、坊ちゃま?」

「じいや…」

じいやか…よかった…そうだ。あの人なはずがない。安心してもいい。じいやとの話を終わらせるとバン君にお礼を言う。

「ジン、少し顔色が悪いよ?」

「え、いや、なんでもないさ」

「そう?ならいいんだけど」

じゃあ俺、部屋帰るね。とバン君は言って去って行った。僕も落ち着かないと。明後日にはミッションもあるし、しっかりしないと。

「戻ろう…」

部屋に戻ろう。早く寝て気分を切り替えないと。明日の作戦会議にも影響がでそうだ。

「うわっ」

「怖っ!なにこれ…」

バン君達はまだテレビを見ていた。チラッと画面見ると男の人がにやりと笑って家に押し込む瞬間だった。サァッと血の気が引いて、身体が震えはじめた。早く、早く忘れないと。ダメだ。寝てしまわないと。

「ジン寝るの?」

「う、うん…もう寝る…」

「ちょっと!顔真っ青じゃないか!」

バン君がすかさず僕の腕を取る。しかし、僕はバン君の腕を振り払った。

「ジン…?」

「さ、触ら…ないで…許して…お願い!…も、もう見逃してぇっ…」

気づかない内に涙がぼろぼろと零れていた。ヒロ君がいつの間にかテレビを消していて、ユウヤと二人で背中を摩ったり、ティッシュを取ってくれたりした。(らしい)

「ジン!?どうしたの?」

「やめて!嫌!来ないで!許して…許してよ…」

「ジン!!!落ち着いて!」

ビクッと肩を揺らしてバン君を見る。そしてバン君は僕に抱き着いた。暖かい。身体をがっちり抱きしめられ、恐怖に支配された頭がだんだん落ち着いてきた。呼吸が安定してくるとバン君は僕を放した。

「落ち着いた?」

「少し…は」

「なにがあったの?」

「…それ、は…」

また涙で視界が霞む。バン君が大丈夫だよ。と言ってくれて涙をぐっと堪える。胸が痛い。

「言ったら楽になるよ。わからなかったら俺達も相談とか乗れないしさ」

「うん…あのね…」

「うん」






事の発端は無言電話から始まった。いたずらかと思って大して気にも止めなかったが、それがだんだんとエスカレートしていったのだ。

「もしもし?」

「ずっと見てるよ」

「え?」

ブツッ。ツーツー…。こんなこともあった。不気味な声で、ずっと見てるよ。何て言われて怖くないはずがない。それからその電話番号を着信拒否に設定して、電話は来なくなった。僕はA国で一人暮らしだったからセキュリティはしっかりしないと。と、ちゃんとドアにチェーンだって付けた。
しかしそれから数日経って、今度は手紙が来るようになった。封筒は分厚く、中を開けると『いつでもずっと見てるよ』と書いた紙と、いつどうやって撮ったのかもわからない家の中の写真や通学中、学校での写真など様々なものが入っていた。

「な、なんで…!」

怖くなって全てごみ箱に捨てた。するとCCMが鳴った。通話ボタンを押して出てみると、前に電話をかけてきた人だった。なんで僕だけこんなことされなきゃいけない。なんで僕なんだ。

「写真見てたよね…どう?なかなか上手く撮れてたでしょ?…でもなんで捨てるの?頑張ったのに」

「ぁ…や…」

「あ、なんでかけれるかって?そんなのジン君のCCMにハッキングしたからだよ…メールもちゃんと読んでるから。文も素っ気ないね」

怖くなって電源ボタンを押した。電源を切っておけば大丈夫だ。それでも、どこから見られているかわからない。僕は布団を頭から被って眠った。そして朝は通勤ラッシュに紛れて登校した。毎日毎日気を張って生活して、それでも写真は届く。CCMの電源を付ければ着信履歴は全てその人で埋まっていた。4分ごとに電話がかかってきているのだ。その間にもまた電話がかかってくる。僕はCCMをベッドに投げ捨てると、とにかく警察に行こうと、上着を着た。エスカレートしていくストーカー行為は僕をどんどんボロボロにしていった。僕の体重は5kgも落ち、髪も伸びたまま。ご飯もろくに食べれない。食べても吐いてしまうのだ。どんどんやつれて、このままでは危ない。
そしてCCMを置いて家を出ようと靴を履いた。ドアのチェーンを外し、鍵を回して、ドアを開けた。その時だった。

「やっほー。ジン君。やっと会えたね」

ドアの前には電話と同じ声。そう。ストーカーの犯人が立っていたのだ。僕は急いでドアを閉めようとドアを引っ張るが、大人の男の人だ。力で勝てるはずがなく、ドアは開けられ男の人が家の中に入ってきた。そして僕の腕を引っつかむとベッドに押し倒した。僕は恐怖にどうすることも出来ない。声も出ない。身体は硬直してしまっている。ただどうしようもなく怖くて涙だけが溢れつづけた。

「ジン君痩せたよね。うわ、肌白い。すべすべだし。いい匂いだね」

「ぁ…ぁぅ…」

「さ、おじさんと楽しいことやろうね」

その人は唇に噛み付くようにがっついて、気持ち悪い唾液が顎を伝った。そしてシャツを破かれ胸を弄られる。怖い。怖い。そう思うばかりで身体は硬直したままだ。

「さ、入れてあげるからね」

大してならしもせずその人は僕の後ろに突き立て、一気に腰を沈めた。あまりの痛みに僕は声もでない。その人は楽しげに腰を振り、僕の中に欲を吐き出した。

「ジン君の締め付け最高だよ…」

にやりと笑ってその人はでていった。学校に行かなければならないが、外で待ち構えているかもしれない。何より体中が痛くてそんな気にはなれなかった。そんな中僕は意識をなくした。
そして目が覚めたのは真夜中。体中の激痛で目が覚めたのだから何とも目覚めは悪かった。しかしお腹の中に精液は残ったまま。何とかお風呂に入ってそれを掻き出す。

「…怖、い」

本当、早く警察に連絡しないと。でもCCMはハッキングされている。それに触りたくない。外に出るのも怖い。連絡手段は無いに等しかった。それでも助かる方法はそれしかない。CCMを使うのは嫌だったからそうっと外を覗く。人影はない。音をたてずに警察署を目指す。明かりが見えて走った。走って走ってもうすぐ着く。と思ったら腕を引っ張られた。振り向くとストーカーの人で、僕は背筋が凍るのを感じた。

「ジン君、どこ行くの?」

「あ…あぁ…」

「まさか警察とかじゃないよね。ふざけたこと言ってたら、ぶっ殺すそ!!」

そう叫ばれ身体が硬直した。腕を離されへなへなとその場に崩れ落ちた。その人はまた気持ち悪い笑みを浮かべると、また明日行くね。と言って去って行った。このまま僕は警察に行くべきなんだろうか。でもその時だった。

「君、こんな時間に何してるの?」

腕を捕まれまた身体が跳ねる。しかしその人を見ると警察官の人で、僕はボロボロに泣きながら経緯を説明した。すると警察の人は僕を保護してくれて、明日来ると言うことを話せば、家で囮を使って捕まえると話していた。

「もう大丈夫だよ。怖かったね」

暖かい飲み物を貰って、真っ赤に腫れた目を冷やしてもらう。そしてそのあとカウンセリングを受けた。

「今日はここに泊まるといいよ」

「はい…」

そして翌日、ストーカーは見事捕まえられた。僕の家にあったカメラや盗聴器も全て回収され、写真も全て燃やされた。これで一連の事件は幕を閉じたのだ。






「そんなことが…」

涙がぼろぼろと零れて止まらない。泣きじゃくる僕にバン君は拳を握りしめていた。

「許せない…」

「怖かったね…」

ユウヤも優しく背中を叩いてくれる。バン君はまた僕を抱きしめて、ジンは俺が守るから。って言ってくれた。みんなも頷いてくれて、僕は泣きつかれたのかそのまま意識を失った。

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