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□慣れないもの
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今日はえらく気分が悪かった。吐き気もするし、頭も痛い。ついにはお腹まで痛くなってくる始末だ。
「聞いてるか?ジン」
「あ、はい!」
迂闊…。ミーティング中にボーっとしてしまうなんて。しんどいなぁ…。それしか頭になくて、拓也さんが話してくれた内容は全く頭に入らなかった。後でバン君にでも聞こうかな…。
「それじゃあ、今日のミーティングは終わり!」
拓也さんがそう言ってみんなが部屋から出ていく。座ったままボーっとしている簿を見かねたのかなんなのかバン君が僕の肩をたたいてくれた。そこでハッと我に返る。
「ジン?行かないの?」
「あ、ああ…今いくよ」
そう言って立ち上がった時眩暈がしたが、椅子に手を置いてなんとか耐える。こんなところ(空の上)で迷惑かけれない。みんなだって大変なはずだし。それに年上の僕が倒れてどうするんだ。
「ジン?」
「いや…それよりみんなは?」
「バトルしに行ったよ」
「僕たちも行こう」
「ああ!」
みんなの元へ向かって、僕もトリトーンを取り出す。バン君とバトルして、みんなが周りに群がってきた。
「いけ!エルシオン」
バン君がものすごい勢いで突っ込んでくる。それをうまくよけながら攻撃を仕掛けるものの、よく回らない頭に、怠い身体。そう上手くいくものではない。
「ジンさん後ろ!!」
ヒロが叫んだ瞬間エルシオンの槍でトリトーンはブレイクオーバー。油断したなぁ…。強いねバン君。なんて言葉を吐いてみるけどバン君は不服そう。気づかれたかな…。
とりあえずこの場にいたらばれそう。ということで逃げ出した。トイレに行くと言って。
「はぁ…」
立っていたら辛いからシャトルの椅子に座る。はぁ…。少し目を閉じていれば大丈夫だろう。この頭痛も腹痛も吐き気も、怠さだってなくなるはずだ。
「…………ダメだ」
無理。我慢できない。少し吐こうか。タッとトイレに走って口に手を突っ込む。胃から何かがせりあがる感じがして、今日の昼食であっただろう物がべちゃりと便器の中に落ちた。
「ぅ…えぇ…」
冷や汗が止まらない。口の中に粘り気のある液体が膜を作った。きりきりと胃が痛む。食道も熱い。吐き気はましになったが腹痛がひどくなった気がする。頭痛と怠さは相変わらずだ。
「もう…今日は休もう…」
トイレを流して、手を洗うと、ふらりとそこを出た。そして壁伝いに寝室に戻る。やっとのことでベッドによじ登ると、しっかり布団をかぶって目を閉じた。
「ぅ…うぅ、ん…」
無理だ。寝ようと思っても腹痛と頭痛のせいで眠れない。もういっそジェシカにだけばらして助けてもらおうか。いや、でもジェシカも普段の生活で疲れているはずだ。ご飯を作ったり、掃除をしたり、いろいろやってもらっているから…ランとヒロは年下だし…オタクロスは無理、拓也さんとコブラ…忙しいか…。ユウヤは…ある程度の知識はありそうだけど、心配が度を過ぎそうだ。……ダメだな。バン君…ダメ。彼にだけは心配をかけたくない。やはりユウヤか…?
「ジンー?」
パッとドアが開いてはいってきたのはまさかのバン君。嘘でしょ。君にだけはばれたくなかったのに。
「バン、く」
「あ、ジン!こんなところでどうしたの?」
眠いの?なんて笑っているがそんなことじゃないんだ。バン君、僕のことは放っておいてくれて構わないから。
「ジン…もしかして…調子悪い?」
「!」
わぁぁ!一発でばれた!ごめんねバン君心配させて。でも僕にも原因がわからないんだ。バン君の手が伸びてきて僕の額に触れる。少し冷たい手が心地いい。
「ちょっと熱ある…しんどいなら言わなきゃ」
「すまない…」
ずっと我慢してたの?と微笑んで、ジェシカと大人たちを呼びに行った。こうなるなら最初から頼っていればよかった。
「ジン、ジン…ジン!!」
パッと目を開ける。あれ、僕、眠ってしまっていたのか。起き上がろうとしても体がだるい。バン君に寝てていいよと言われ、その言葉に甘える。
「ちょっと熱上がってるから、もうちょっとゆっくりしてなよ」
「すまない…」
そのちょっと後にジェシカがおかゆを持ってきてくれて、ベッドの横に置いてもらった。そのあと大人たちが来て、ストレスでこうなったんじゃないかと言われた。
「あの…本当にすみません…迷惑かけてしまって」
そう言うとみんなが顔を見合わせた。それからみんな笑顔になって、そんなこと気にしてたの?やら、仲間だろ!やら、困ったときはお互い様です!やら、たくさんの言葉をかけてもらった。それがなんだか無性にうれしくて、なんだか、バン君がシーカーの仲間だと言ってくれた時のようなくすぐったい感覚がした。
「ありがとう。みんな」
心のもやもやがとれた気がした。今日はよく眠れそうだ。