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酸素カプセルに入れられて眠った。酸素マスクもとってもらったから少し声が出せた。さっき怪我が早く治るらしい薬を飲ませてもらったからきっとすぐ直るだろう。昔は骨折に何か月もかかったなんて嘘みたいだ。そしてずいぶん眠ったある日。

おい、もっと満足させろ。
大丈夫なんだろ?

そんな声が聞こえた気がして目を開ける。誰かがのぞいてる?まさか、ご主人様?そう思えばそう思うほど本当にご主人様がいる気がして、怖い。あの時の映像がフラッシュバックする。

「あ、あっあ、あ、あ…」

ダメだ。もうダメ。せっかく逃げれたと思ったけどどうせつかまるんだ。あの人たちから逃げるなんて不可能なんだ。そういえば…バン君は。バン君は大丈夫だろうか。もしかしたら僕がいないから酷いことされてるかも。おじさんが倒されちゃってバン君が殴られてるかも。ここは病院だから色んな器具がある。それで何かされてるかも。変な薬うたれてるかも。

「バン君!!」

体が痛いのも忘れて、酸素カプセルの扉を無理にあけて、飛び出した。バン君はどこだ。走って走って、包帯がほどけたのも、傷口から血が出ていたのも気づかず、バン君を探した。

「ジン!?」

「バン君!大丈夫?変なことされてない?ご主人様が追いかけて来てるんだ」

「ジン?なに言ってるの?ご主人様なんていないよ」

何言ってるんだ。さっきいたじゃないか。バン君、早く逃げないとつかまってしまう。今は無事でも酷いことされてしまうかもしれないよ。そんなことになったら…いくら僕でも守りきれないよ。

「とりあえず落ち着いて。ご主人様なんていないから」

「いるよ!今も僕らに快楽を求めて探してるんだ」

「ジン、話が分からないよ…いないんだって」

「バン君、君を守りたいんだ」

その時バン君が僕の身なりに気付いた。血が床にたれてしまったからだ。大声でおじさんを呼ぶ。そんな声で叫んだらご主人様に見つかってしまうじゃないか。バン君危険だから。

「バン?どうし…ジン!!」

おじさんが僕を見つけて慌てて走ってくる。人が集まったらご主人様に見つかる可能性が高くなってしまう。みんなして…見つかりたいのか?

「死にたいのか!?」

傷口にガーゼが張られて包帯を巻きなおされる。こんなことしてる場合じゃない。ご主人様が、ご主人様が来てるんだ。そんなに丁寧じゃなくていい。

「本来なら動けないはずなのに…」

「バン君、ご主人様が…!!」

「おじさん、ジンがさっきから、ご主人様がいるって言うんだ」

「え…?」

だって、今も僕たちを探してるんだよ。次は殺されるかもしれない。バン君を守れないかもしれない。怖いんだ。何もかも。君を失うのはもっと怖い。生きる意味がなくなるから。

「ジン、どうしちゃったの?」

「思い出してるんだ、あの時の記憶を。だから、幻覚とか、幻聴とか…」

そんなものはどうでもいい。幻覚?幻聴?違うよ!本当に来てるんだって。早くここから逃げないといけないんだ。また、なにされるかわかんないんだよ。怖いんだ。お願い逃がして。必死にロープを振り解こうとしても診察台にくくりつけられていてできない。

「あいつらが来たらどうなるんだい?」

「…襲われたり…殴られたりする」

忌々しい記憶。僕がどんどん穢れていく。痛くて痛くて怖くて…できれば話したくない。でも、少し冷静になってきた。

「俺も、あいつらのことずっと見てきたからわかる…酷いことをするやつらだ」

「ジンは…ずっと俺の事かばって…」

「辛かったな…もう大丈夫だ。これからいくらでも時間はある」

「そうだよジン」

「何十年、もしかしたらこれから医学が進んで何百年となるかもしれない…その中で、このことを成長の糧にして、生きていけばいい。こんなところで立ち止まってちゃだめだ。まだほんの何年かしか生きてないんだろう?人生を一日にたとえたら、今はまだ深夜。日付が変わったところじゃないか。そんなところで一日を捨ててしまうのか?そんなのもったいない。少し悪夢いを見ただけだ。朝が来るにつれて、太陽が昇るにつれて、それは取り戻せる。ジン、これからこれからも辛いことがあるかもしれない。あいつらにも会うかもしれない。それでも、何も怖がることはない。人はみんな心に何らかの傷があるんだよ。ジンはその傷がことだったってことだけだろう?」

「は、ぃ…」

「泣くな。さぁ、もう休め」

「はい」

そのあとバン君と一緒のほうがいいだろうと、大きめの酸素カプセルに入れてもらって仲良く眠った。バン君がいればなんだか安心する…。さっき言われた言葉…なんだか勇気が出た。みんなも傷があるんだ…。それでも……僕は少し傷がつきすぎたかな…。でもいいんだ。僕はバン君を引き立たせるための影だから。

「ジン、ありがとう…俺のこと守ってくれて」

「バン君…」

「ずっと怖かったけど…ジンがいてくれたから」

「僕もだよ」

バン君がいてくれなかったらきっと僕は生きることをあきらめていたと思う。だから今頃、まだあのお屋敷で殴られつ続けているんじゃないかな。人形みたいになって。

「ジン、これからも…一緒にいて」

「僕も一緒にいたい」

「いざとなったら次は俺が守るよ」

「ダメ、僕が守るんだ」

なんだよー。俺にも守らせて。とバン君が笑う。そうだね…バン君に守ってもらうのもいいけど、やっぱり僕が守らないと。バン君は僕の唯一の希望だから。

「ジン、好きだよ」

「僕も、好き」

こんな平和な日がいつまでも続けばいいと思った。結論から言えばそれは無理だったんだけど。ずっとバン君といたいな。
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