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僕の怪我が大分治ってきて(といってもご主人様が残した痕や傷跡は残ったまま)、リハビリを続けているとき。

「ジン、あと少し」

「はぁっ…はぁっ…」

腕の骨折は治ったみたいで、リハビリも順調。肋骨は手術でくっつけてもらったこともあって案外はやく治った。後は脚。脛と太もも…歩くリハビリが思ったよりもきつい。ずっとズキズキと痛んでいるし時々鋭く痛むときがある。バン君に支えられて歩くのがやっとだ。

「よし。今日はここまで。よく頑張ったな。晩飯に…ぐ、ぅゲホッゲホッ!」

「おじさん!?」

「大丈夫ですか!?」

バン君が駆け寄る。僕もそうしたいけど動けないから声だけで安否を確かめる。一体どうしたというんだ。おじさんにいったい何があったんだ。

「だ、大丈夫だ…」

「おじさん、血が出てるよ!」

バン君にそう言われて目を凝らす。するとおじさんの口を押えていた手にべっとりと血がついていた。それは口からもだらりと垂れている。

「大丈夫…大丈夫だから」

「早く、病院に」

「おいおい、ここは俺の病院だ…」

それでも、なんでこんなこと。おじさんがなんで。病気だっただなんて。それなのに僕らを助けてくれて…。僕は、何かできないのか。おじさんに恩返しできないのか。

「これは…今の医療じゃ…院長になった俺でも払えない高額の医療費がかかる…今の俺じゃ治せないんだ」

「そんな…」

お金…お金があればおじさんを助けることが出来る。でも今の僕じゃ働くことも出来ない。それにバン君を一人働かせるなんて出来るわけがない。僕でもお金を稼げる方法。すぐに…たくさん…。

「バン、ジン、部屋に戻っていてくれ」

「…はい」

「行くよジン」

「ああ」

バン君に支えられて部屋に戻る。足に負担がかからないように座らせてもらって、バン君と向き合った。話しは自然とおじさんの話になった。

「お金…稼がないと」

「うん。恩返ししなくちゃ」

「どうすれば…」

僕らにとってすぐにたくさん稼げる方法…幼い頭で必死に考えて考えて、出た答えは一つ。否、この方法しか知らなかったのだ。今の僕らにとって。たくさんのお金が手に入る方法なんて。

「売られる…」

「やっぱりそれしかないよね…」

「せっかく逃げだしてきたのに…」

それでも…命の恩人を見捨てることなんてできない。次に売られるところでも…あんな…こと、されるかも、しれないけど…、きっと、何とかなる。バン君がいれば僕はいいんだ。
思い出そうとしてやめた。がたがたと震える体をいなしてギュッと拳を握り締める。震えあがってしまって声が出ない。怖い。もう、思い出したくない。

「ジン…!、思い出さなくていいから」

バン君がギュッと抱きしめてくれる。、あ、やばい。バン君に迷惑かけてる。落ちつけ、リラックスだ。自分で感情をコントロールできるようにおじさんにカウンセリングもしてもらったじゃないか。

「だ、…い…じょうぶ、」

「ジン、それ以外に何か方法はないのかな」

「でも…」

考えた結果がこれだから…。バン君も少し考えてやっぱりないね。と溜息を吐いた。僕たちに自由はないのかな。これからも…いや、きっと日が昇り始めたら、いいことがあるんだ。……きっと…。

「ジン、聞いて。きっと運ばれるのはドアの付いた積み荷に入れられてだ」

「?…うん」

「絶対に逃げられる」

「え?」

「できるよ。そんな気がする」

そんな気がするって…。でもバン君が言うなら付き合うし、最大限の努力はする。それじゃあ行かなきゃ。おじさんに見つかる前に。ステンレスの松葉づえを持って外に出た。
外に出ると秋の活気づいた声がしていた。病院の中からでは何も気づかなかったこの声。こんなにも活気のある町だったのか。いつも窓から眺めるばかりの街並みに今いるんだと思ったら少しうれしくなったが、今から売られるんだと思いだして、その感情が消えた。

「路地裏…行ってみよう」

「うん…そうだね…」

その時張り紙を見つけた。人買います。の表示。…これだ。思ったよりも少し多めのお金がもらえそうだ。バン君を後ろに回して張り紙に書かれている場所に向かった。そして案外近い場所にあったそこに入る。むわっと煙草のにおいがして顔をしかめる。

「誰だ」

男の人が僕たちに気付く。バン君を後ろ手に抱きかかえるようにして僕は言った。僕たちを売ってくださいと。そう言えば男の人は一度きょとんとしてから、にやりと笑った。

「いいだろう…こっちにこい」

ソファに座らされ品定めするように顔をまじまじと眺められる。バン君も見られてる。手を出したらたとえ怪我をしてるとしても絶対反攻してやる。

「顔はきれいだな…ん?お前怪我してんな」

「大丈夫で…ッぁ!」

「ジン!」

お前が大丈夫でも、買い手のお客は大丈夫じゃねーの。と言われバチンと頬をたたかれた。痛い。バン君が叩かれなくてよかった。この男も暴力を振るうんだ。…また…大怪我させられるかもしれない。そう思ったら身体がまたカタカタと震え出した。頭が痛い。苦しい。目の前が真っ暗になる。その時の映像だけが脳内で繰り返される。それに気づいたバン君が強く手を握ってくれて我に返る。ここでパニックにならなくてよかった…とにかく発言には気を付けないと。

「いいか?売り物はきれいなのが一番なんだ。だから…お前みたいに怪我してたり…そういう痕とか…最低」

「!」

服を着ていたのになんで僕に無数の痕があることを知ってるんだ。いったいなぜわかったんだ。僕じゃ売り物にする価値すらないってことか。幼い心と頭でもその言葉は深くそこにつきささって、なんだか泣きそうになって。いっそうこのことを誰にも知られたくなくなった。これからだ。人目をびくびくと気にし始めたのは。そういっても前から、人を見る度何かされるんじゃないかってびくびくしていたのだが。

「まぁ…お前ら金がほしいんだろ?変わった金持ちもいるってもんだ売ってやるよ」

「ぇ…?」

「そうだな…小切手でいいだろ?ちょっと待ってろ」

この人は僕たちがまだほんの何年かしか生きてない子供でもちゃんとお金をくれる。…そこはいい人なんだろうな…。でも…怖い人。
男の人は奥に消えていった。その途端バン君がピョコリと動き出した。バン君!何してるの?見つかったら…と小声で話しかけてもバン君からは同じくらいの大きさで大丈夫、まってて。と返ってくるだけ。一体何をしているんだ。その時奥の部屋から、あ、あったあった。と男の声がした。早く、バン君、戻って。

「あった!」

バン君が何かを見つけると同時に男がこちらに返ってくる音が聞こえた。早く、バン君!それでも大声は出せない。

「おい、何して…あれ、何かしてなかったか?」

「気のせいじゃないですか?」

「そうか?それより、この金額でいいな?」

ゼロがたくさん並んだ小切手。今の時代人買いなんて見つかったら即死刑だ。だからこそ報酬も半端ない。それを僕は受け取った。

「じゃあ、それはどこに振込もうか」

「すぐそこの病院の院長に送ってください」

「院長?もう金持ちだろ?まぁ…理由は聞かないが…あとお前らは明日運ぶ。今日は下の部屋で待ってろ」

そう言って連れて行かれたのは、まるであの時のような部屋。最初の部屋。叔父さんに売られた時もこんな部屋に連れてこられた。そうだ。あれから1年くらいたった。翌日のトラックの中でバン君と知り合ったんだっけ。これからどんなことが起きるのかもわからず。

「ジン、聞いて」


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