TEXT4

□だってそそるんだ
1ページ/1ページ

 
がりっ。嫌な音と嫌な感触。そのあとすぐ来る痛みと鉄の味。ぐっと唾を飲み込んで口を結ぶ。さっきダックシャトルが大きく揺れた。その時に口内を勢いよく噛んでしまった。これはあとで口内炎になりそうだ。

「ジン?どうしたの?しかめっ面して」

「ああバン君。いや。なんでもないんだ」

「そう?それならいいんだけど」

バンくんはそう笑ってヒロたちと話し始めてしまった。僕はまた外を見る。今日の移動はバン君の隣に座れて、最初は二人で話していたけど、だんだん周りの目が痛くなってきて、僕たちは互いにちがうことをした。例えばバンくんはヒロたちと話す。窓側の僕は外の風景を見る。とか。風景といっても空の上だから空しか見えないんだけど。でも僕たちの手はつながったまま。みんなから見えないところでバンくんの手と僕の手がつながってる。バン君の手はあったかくてなんだか安心する。そんな事を考えていたらなんだか眠たくなってきて、さっき口の中を噛んだことなんてすっかり忘れて眠ってしまった。

「ジン!」

名前をよばれてびくりと目を開ける。な、なに…?と情けない声が出てしまった。まだ覚醒してない頭でバンくんの声にこたえる。僕は安心しきって熟睡してしまっていたようだ。バンくんの手は握ったままだし…迷惑だったかもしれないなぁ…。

「ごめん…なに?」

「もう着いたよ」

「え…うそ」

体を起こしてみると座席には誰もいなくなっていた。がらんとしている。静かだ。僕とバンくんしかいない。

「みんなもう行っちゃったよ」

「すまない…行こうか」

「そうだね。俺たちは日用品の買い出しだから早く行こう!」

「ああ」

タッと走って外に出た。外はじりじりと熱くて、ジャケットを着てきたのを後悔した。バンくんを見るといつもの赤いジャケットを羽織ってない。よく見ておけばよかったと少し自嘲してやっと着いた近くのデパートの日用品売り場にバンくんと笑いながら入る。

「何が必要なんだ?」

「えっと…シャンプーと歯磨き粉と…待って確認する」

歯磨き粉。それで僕は自分の口を噛んだことを思い出す。気にし始めたらなんだか痛みが強くなった気がして思わず舌でそれを探る。触れた瞬間鋭く痛みが走ってまた顔をしかめた。

「ジン?」

「いや」

「………ふーん…ならいいけど」

バンくんはあっちだよ。と言って僕の手を引いた。何を買うんだっけ。ああシャンプーだ。あと歯磨き粉。



「いやー…重いね」

「そうだな…」

ぎっしり詰め込まれた袋を二人で持ちながら帰り道を急ぐ。もうすぐ夕飯の時間だ。みんなあはもう帰ってきているだろうか。バンくんと話すのに夢中で僕のCCMがなっていることに気付かなかった。
そしてダックシャトルに戻ると誰もいない。電気すらついていない。まだ誰も戻ってないのだろうか。荷物を置いてCCMを見るとジェシカからご飯食べて帰るからジンたちもそうしてね。とのメールが。だから誰もいなかったのか。

「バンくんジェシカたちは夕飯を食べて帰ってくるらしい」

「え!そうなの?じゃあ俺らも食べて帰ってきたらよかったね…」

「今から行く?」

「遠いよ…何か作ろうか」

「ああそうしよう」

キッチンに行って電気をつける。何か簡単に作れるものはないのかな。バンくんを見ればトマトやレモンを持っている。しみそうだし出来ればそういうのは食べたくないんだけど…。

「バ…」

「ジン、誰もいないんだしさ、キスしてよ」

「えぇ!?」

なんでいきなり…。バンくんは笑顔だし断れるっちゃ断れるけど…機嫌を損なうのもどうかと思うなぁ…一度だけなら…みんなもいないしいいかな?

「一回だけだよ…」

「うんっ」

ちゅっ。唇をあてる。それで終わりだと思ってたんだけど、今日のバンくんは気分がいいらしい。僕の顎をつかむと舌をすべり込ませてきた。バン君の舌が僕の口の中で動き回る。ぬるっとすべてを舐めようとしてるみたいに。だんだん息が苦しくなってきてバンくんの胸をたたく。それにこのままいったら今日噛んだところにバン君の舌が!!もし見つかったら絶対にそこばかり攻められるからはやく終わらせないと!!

「ん、ふぅ…バン、く…も」

「あ、これ?ちょっと血の味がする」

「んん!あ、そこ…ダメ、あ!いたぃっ!!」

いつの間にか頭を抱えられてて、逃げようもない。息はどんどん苦しくなる一方だし、バン君は相変わらず攻撃をやめてくれない。痛いし苦しいし、いつのまにか涙が出てて、足ががくがくしてきた。

「んん!!ん、んっ…んぅう!」

「ふ、もういいよ」

「はっ!はぁっ!ゲホッ…バンくん…痛いよ…」

思わず床に座り込む。足がまだがくがくしてる。

「ジンのそういう顔好き」

ええ!?なにそれ…もう僕疲れたよ…。バンくん…。そんな目でバンくんを見るとバン君はにこっと笑って僕をひょいっと持ち上げた。慌てる僕をしり目にバンくんはすたすたと歩いて行ってぼふっとベッドに投げた。

「さ、続きやろうか」

「え」

「みんながいないのなんて今だけだよ」




fin.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ