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□梅雨
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最近梅雨の季節に入ったらしく、大雨続きだ。昔と違って街は排水設備が整ったから土砂災害なんてことにはならないけど、こう大雨が続くと気分が落ち込む。湿気もすごいし外で遊びたいなぁ…。

「バン!帰らないのか?」

「あ、カズ!ごめんアミと先に帰ってて」

「えっどうしたんだよ」

「ちょっと先生に呼ばれちゃって」

「わかった…頑張れよ」

「うん!ごめん」

本当はカズたちと帰りたかったけど先生から呼び出し。こればっかりはしかたない。俺は先生のもとに向かう。この間に雨、やんでくれないかな。職員室に入ると先生が俺を手招きした。周りの先生にあいさつしながら担任の先生のところまで行くと、渡されたのは学級日誌。そういえば俺今日日直だった!忘れてたな…。

「山野…これ提出してから帰って」

「はい…」

学級日誌を受け取って教室に戻る。はぁ…さっさと終わらせちゃおう…書きながら外を見ると雨は弱まるどころか強くなっているように思う。はぁ…なんかこう…LBXバトルしたいなぁー…なんて。そんなことを考えていると学級日誌も書き終わってそれをまた先生に提出しに行った。やっと帰れるよ…。
階段を下りて玄関口までやってきた時向こうからやってきた人物に肩が跳ねる。海道ジンだ。じっと見据えていると相手もこちらに気付いたらしくこっちを見た。赤い目が鋭く光った。

「ジン…」

「やぁバンくん…奇遇だね」

「プラチナカプセルは渡さない…」

「そんなことを言っていない…まだ命令は出ていないからな」

そう言って玄関を出た。土砂降りの雨がジンの服を瞬く間に濡らしていく。今日は気温が低い。そんなことをしていたら風邪をひいてしまう。慌てて俺はジンを玄関口に引っ張り戻した。ジンはびっくりした顔をしている。そりゃあ敵である俺にそんなことをされたらびっくりするだろうけど、こんな顔もするんだ…。

「なにをする…」

「風邪引くだろ!?傘は!?っていうか迎えは?」

「傘なんて必要ない。迎えは…ない。今日は断った」

「なんで!?じゃ俺の傘貸すよ」

ジンってばなんでこんな雨の日に傘も持たずに学校に来るんだよ…。迎えも断ったって…濡れて帰る気満々じゃないか。そんなのダメだ…ジンってなんだか身体とか細いし心配になるよ…。

「なぜ…君は敵である僕にそんな…」

「敵かもしれないけど、それは命令が出た時だけ!今は友達だろ?」

「ふん…甘いなバンくん…君のそんなところが仲間を危険に陥れるんだ」

「なっ…」

「もっと危機感を持った方がいい…」

ジンは雨の中に飛び出すと歩いて行こうとしている。俺は追いかけようと傘をつかんだがジンはそこで振り替えった。

「また明日ね…バンくん」

ジンが笑みをこぼした。決して友達同士でするような笑みではなかったけど。

「え、あ、うん…」

そう言うとジンはまた歩いて行ってしまった。明日風邪ひいても知らないんだからな…。予想外のことで完全に立ち尽くしてしまった。すこし近づけたのかもしれない。でも…さっきジンが言った言葉がぐるりと俺の頭の中を回る。俺は…父さんも、カズもアミもみんなも…守れるくらい強くならなきゃ。傘を持つ手に力が入る。頑張るぞ…。

「俺も帰らなきゃ」

歩き始めて考える。ジンが俺のことを否定したとき、ジンの顔にか悲しみがあふれていた。何かあるんだろうか。あるんだったらそれを俺が拭いっとってやりたい。たとえ敵でも、友達だと俺は思うし。一体何なんだろう。俺が嫌なのか…それとも…何か違った…。
傘を持たずに学校に来るのも、土砂降りの中迎えを断って歩いて帰るのにも…何かあるのかもしれない。ただの気まぐれかもしれないけど、もっと…雨だと思い出す何かがあるとか…考えすぎだろうか。でも振り返った時ジンが泣いているように見えて…雨の雫かもしれないけど、赤い目が潤んで、涙がこぼれているように見えた。無理矢理笑っている気がした。だから余計に…
悶々と考えていると名前を呼ばれた。びっくりして振り返るとそこには買い物帰りの母さんがいて、一緒に帰るうちに考え事なんて忘れてしまっていた。


fin.

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