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□それでも、
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「お世話になります…」
「そう緊張するな、今日から家族だろ?」
僕がお祖父様の陰謀に気付いて、家を出て。行くあても無かったからふらふらと彷徨っているといきなり黒い布で包まれて、もしやもうお祖父様の手下に…!と思って振りほどこうとするとそのまま車かなにかに入れられた。
「な、何を……え?」
「ジン…家出をしたのは知っていたが…」
「八神さん…」
一応御曹司なんだぞ…そんな大荷物でふらついてたら誘拐されるかもしれないんだからな…。
と溜息を吐いて荷物を車内に置いて、まだ下半身に巻き付いているマントを取ってくれた。
「行くあては?」
「え?」
「だから、泊るところはあるのかって」
「いえ…まだなにも」
「はぁ…じゃあ、今日から私の家族になってくれ」
「はい!?」
そんなこんなで八神さんの家に着いた。大きなマンションの一室で、内装もシンプルできれいだ。玄関で固まっていると、八神さんがリビングにあげてくれた。リビングに行くと八神さんはあの大きなスーツを脱ぎ始めていて、僕も早くカバンを置いて楽にしろと言われた。本当にお世話になっていいのだろうか。
「ジン、遠慮するな」
「はい」
「本当の家族だと思ってくれて構わないからな」
あ、この言葉…お祖父様にも…言われた気がする…いや、言われた。あの時の僕がその言葉にどれほど救われたことか。今、お祖父様が亡くなって揺らいでいた僕の心にこれは…痛い。
「ジン?」
「八神さん…お世話になります…」
「……ああ。よろしくな、ジン」
そうやって、僕と八神さんの共同生活が始まった。今までじいやがやっていたことも僕と八神さんで分担。初めてのことに戸惑いながらも海道邸にいる時より充実した毎日がおくれていた。これをじいやに見せたら驚くかな。いつかここに呼びたいな。
「やが――」
「はい、はい、わかりました」
楽しい毎日だけど八神さんも大人だし、仕事もある。忙しい人だ。それをわかっているのに身近にいる初めてに近い家族に浮足立っている。やっぱりいつでも気は張るべきなのだろう。お祖父様と暮らしていた時のように。
「ジン?」
「っは、いえ、夕食ができました」
「そうか。ちょっとは上達したか?」
「今日は…失敗してません」
はは。そうか。と八神さんは笑って食卓の前に座った。今日作ったのはグラタンだ。八神さんが好きと言っていたのを聞いたような気がしたから。一昨日は完全に失敗したから今日は失敗しないようにしたつもりだ。一回指を切ってしまったけど…今は血も止まっているし大丈夫だろう。
「お、美味いな」
「よかったです」
「ジン、敬語やめないか?」
「え、でもそれは…」
歳も離れているし、お世話になっている以上、礼儀というものは必要であって…。そう言いたかったが八神さんはそれをすべてわかっているようで、これからゆっくりでいいからと言ってくれた。いつか八神さんに恩返しができたらいい。対等に話せるようになればいい。早く大人になりたい。
「ところでジン…ここからは少し遠いが…」
「?」
「学校の編入はバン達の学校でいいか?」
「えっ…いいん、ですか」
また、バンくんたちと会えるだなんて。もしかしたら普通の中学生のような暮らしができるかもしれない…そう考えて気持ちが昂る。あの時は敵だったけど、またバンくんたちと楽しく学校に行ける…今から楽しみだ…。
「その方がいいだろう…ただ電車で行かないといけないから、寄り道とかするんだったら連絡を…」
「はい」
「ジンは御曹司なんだからな…自覚しろよ…?」
誘拐されたら…電車で痴漢にあったら…私は心配だ…。と八神さんの方が心配になるくらい心配してくれた。なんだかおもしろくて少し笑ってしまった。そうしたら八神さんは笑ったな。と僕の脇腹をくすぐってきた。思わぬ攻撃で、決して大声ではないが久しぶりに声を上げて笑ってしまった。
本当のお父さんみたいだ。
fin,